「この笑顔に会うための、悪くない道のりだった」L’Arc~en~Ciel『25thL’Anniversary LIVE』ライブレポート
2017年4月8日、9日、東京ドームで約2年ぶりとなるL’Arc~en~Cielのライヴ『25thL’Anniversary LIVE』が開催された。両日ともにチケットは即完売、入手困難な中、チケットを手に入れることのできた幸運な11万人が東京ドームに集結、両日ともに約3時間、23曲が演奏された。
L’Arc~en~Cielのワンマンステージは2015年9月に大阪・夢洲の特設会場にて行われた野外ライヴ以来、約1年半ぶり。東京ドームでの公演は「L'Arc〜en〜Ciel TOUR 2008 L'7 〜Trans ASIA via PARIS〜」以来9年ぶりの公演とあって、ファンの熱量も半端なものではない。待ちわびたライヴの初日、朝からすでに東京ドームの敷地内はファンで埋め尽くされ、お祭りのような雰囲気になっていた。
16時の開場後、セットがすでに組まれているステージを眺めながら開演を待つこと2時間。あちこちでひさしぶりの再会を喜ぶ人たちの姿が印象的だ。このライヴのために遠方から来て、何年ぶりかに友人に会えたという人も多いのだろう。開演5分前には各座席に配られていたL'edバンドの使い方の説明がスクリーンに映された。
そしていよいよ、18時の開演時刻を10分ほど過ぎて、場内が暗転すると悲鳴のような歓声がドーム中からあがった。スクリーンにマントをかぶった謎のEllie Crancという人物からの声明映像が映し出される。彼は「2017年の世界にL’Arc~en~Cielのピースがちらばってしまった。ピースを集めてほしい」と告げる。期限は4月7日23:59、未来を取り戻すためのミッションがスタートする。世界各地でピースを集める人々。そして4月8日。ピースはついにそろった。
画面はyukihiro(Dr.)の映像に切り替わり、場内から拍手と歓声がわき起こる。続いて、ken(Gt.)、tetsuya(Ba.)、そしてhyde(Vo.)が映し出され、「Mission Complete」の文字が。ステージにyukihiro、ken、tetsuyaが現れスタンバイ。ステージ上の階段のセットにhydeが登場し、始まったイントロに場内は悲鳴のような大歓声に包まれた。
始まったのは『虹』だ。この記念すべき25周年のアニバーサリーライヴの1曲目にファンにとってはもちろん、おそらくメンバーにとっても思い入れの深いであろうこの曲を持ってくるとは。前奏から1拍おいて、茶色の布を頭からまとい、アラブの国王のようないでたちのhydeが歌い出す。全身黒地に一部分ストライヴが入ったスーツ姿のken、赤のジャケットの赤いラメの入ったシャツを着たtetsuya、シックな黒の衣装のyukihiroは長く伸びた髪の毛をポニーテールのようにまとめている。4人がひさしぶりにそろった姿は、圧巻の一言だ。
hydeの透明な、それでいて力強い歌声、kenの叙情的なギター、tetsuyaのメロディアスなベース、そしてyukihiroのエネルギッシュなドラムの音色が鮮やかに重なり、会場を包みこむ。始まってものの3分強、東京ドームはすでにL’Arc~en~Ciel色に染まっていた。さあ、これから何が始まるのだろう? 曲の終わり、hydeの顔がスクリーンにアップで映し出されると、大歓声が起こった。
黄色く光る階段をhydeが降りてきて、『Caress of Venus』が始まると客席から一斉にハンドクラップが起こり場内が揺れた。眼鏡をかけたkenが楽しそうにほほ笑んでいる。hydeが投げキスをすると悲鳴のような歓声があがり、ステージと客席とが一体化していく。続く『the Fouth Avenue Café』では座り込んで客席を見つめながら歌うhydeの姿が印象的だった。踊る観客とメンバーとの息がぴったりと合い、L’Arc~en~Cielが生み出す魔法が会場中に広がっていく。hydeの吐息がマイクを通して響くと、場内に大歓声があがった。
L’Arc~en~Cielの文字がスクリーンに大写しになり、hydeが口を開く。「『25thL’Anniversary LIVE』へようこそ! L’Arc~en~Cielです! 会いたかった? 待たせたな。こんなにたくさんの人が集まってくれて、本当に幸せです。ドエルがいて、そして肝心のメンバーが集まりました!」ken、tetsuya、yukihiroが映し出されると、場内の歓声が悲鳴に変わる。
「4人がそろうのは天然記念物みたいなもんだからね」と笑わせ、L’Arc~en~Cielの25周年について「25周年もすごいけど、25年間、こんなに愛されてきたことがもっとすごいと思う」と言うと、kenが「レッサーパンダがこの25年の間に立ったよね。パンダが立つ時代になって、ウーパールーパーも立って」とこの25年の動物たちの変化について語る。25才以下の人が生まれる前からいるなんて妖怪みたいだよね、と言うhydeへ「ポケモンで終わるかと思ったら、妖怪ウォッチがはやって」となおも語ろうとするkenへ「もう大丈夫です」とさえぎるhyde。メンバーのこうした掛け合いが見られるのも、L’Arc~en~Cielのライヴの貴重さであり楽しさだ。
恒例のhydeの錬金術「錬成!」も飛び出し、ウェーブで一気に場内はアットホームな雰囲気に。「ひとつになってきたな、かわいがってやるからな、東京ドーム!」
hydeがハーモニカを吹き、始まった『flower』ではtetsuyaの「like a flower」のコーラスに合わせて手を振りあげる観客たちの酔い知れたような表情が印象的だった。そして『Lies and Truth』へ。旧来のファンにとって思い出深い曲が続き、客席は皆笑顔だ。スクリーンに映し出された歯車が回りだし、今までのミュージックビデオの映像が映る。それぞれの時代を回顧するかのような映像だちだ。曲の終わり、唇に指をあて、ぬぐうようなしぐさをするhydeがなまめかしい。
トーチが灯り、『fate』へ。紫の照明とスモークの中に4人の姿が浮かび上がった。kenのギターを弾く指先がスクリーンに映し出され、奏でるエッジィーなギターの音色が幻想的な絵の中に映える。
感極まって一斉に拍手する客席へ向けて放たれた『forbidden lover』では月光に照らされ波打つ海の映像をバックに、砂塵の中で演奏しているような異国情緒あふれる光景が広がった。たまらず手を伸ばし、音と一体化する観客たち。暗い雲間から時折光が差す映像と曲とが織りなす情景はこの世界そのもののように見える。もちろん、差し込む光がL’Arc~en~Cielだ。
再び爆音とともに炎が燃え上がり、始まった前奏が『Shout at the Devil』だと分かると観客から大きな歓声があがった。kenが髪を揺らし、ギターをかき鳴らし、客席を曲の世界へ引き込んでいく。ライヴはすでに最高潮を迎えたかのようだ。hydeのシャウトに合わせて踊り狂う観客たち。一種、宗教じみた世界が広がり、気持ちを丸ごと持って行かれる。「真実の旗ふりかざせ」でhydeがマイクスタンドを高く上げ、振り下ろすと炎があがる。tetsuyaがベースを頭上に掲げ、激しい動きを見せ、会場の熱気はヒートアップし続けていく。激しい爆発音が頭上で起こり、第一部は終了した。
静まり返る場内へ、慟哭のような重低音が響き渡る。観客が身に着けているL'edバンドが赤く点滅したのを合図に『REVELATION』が始まった。メンバーコールが悲鳴のようにあちこちから起こり、皆、こぶしを振り上げる。L’Arc~en~Cielのライヴはただ見るものではない。体で感じ、参加する一大エンターテインメントだ。特にこの曲での一体感はカタルシスを感じるほどすさまじい。観客たちがこの曲を待ちわびていたことが伝わってくる。
そしてステージに現れたメンバー。hydeとkenがそれぞれ設置されたパーカッションの前へ座っている。yukihiroがギターを手にステージ上手にいることにも喜びの声があがった。tetsuyaが腕を振り上げたのが合図だったかのように観客のL'edバンドがブルーに変わる。パーカッションを叩きながら歌い始めたhydeの目は獲物を狙う猛禽類のようだ。
「REVELATION!」のコールとともにジャンプする観客。kenの顔から笑みがこぼれ落ちる。呼応するステージと客席とが一つになった、そのタイミングで何とステージが客席へ向かって移動を始めた。ブルーのL'EDバンドの海の上を4人を乗せた船がこちらへ向かって泳いでくるかのようだ。「東京―!」と叫び客席をあおるhyde。頭上を移動していくステージを下から見上げる観客から歓喜の声があがり、興奮と熱気は最高潮に達した。
そのまま後方のサブステージへ移動ステージが下りて行き、メンバーが降り立った。後方の席にいる観客たちから絶叫が起こる。帽子を脱いだhydeは髪を後ろになでつけている。手を振って観客の呼び声に応えるtetsuya。yukihiroがドラムセットにスタンバイすると、hydeがブルーライトで光る場内を見渡し、「みんながリクエストしてくれた曲の中から、L’Arc~en~Cielの原点かなという曲を選びました。この曲をkenちゃんが持ってきてくれたとき、こんな曲やるんや、うれしいな、って思ってレコーディングした記憶があります」と告げて始まったのは『Voice』だ。
観客から悲鳴があがる。L’Arc~en~Cielの原点、それはファンの原点でもあるだろう。20数年前に時が戻るのを楽しんでいるのか、ドラムセットに腰掛け、yukihiroと共に語りかけるように歌うhyde。陶酔したようにギターを弾くken。tetsuyaは客席を見つめて、くるりと回って見せる。ドーム中が海の底に沈んでいるかのようだ。目の前にそろった4人の姿を間近に見て、涙するファンの姿もあった。
続く『XXX』では軍帽をかぶったhydeが「手と手を強く叩くとバチンッって音が鳴るんだよ」と言うのにならって、全員がクラップ。紫色に光るL'edバンドが星屑のようにゆらめき、扇情的なまでに美しいシーンが作り出された。L’Arc~en~Cielの世界に飲みこまれ、静まり返る客席へ向けて、メンバーたちがそれぞれボールを投げ、コミュニケーションを取りながら、移動ステージは前方へと戻っていった。
再びスクリーンにニュース映像が映し出され、今までのリリース時のCM集、ミュージッククリップや写真集撮影時のオフショットも上映された。貴重な海外でのメンバーの姿に喜びの声があがる。kenとtetsuyaの兄弟のように仲の良い姿や、白鳥たちに囲まれて驚くhyde、人気曲『夏の憂鬱』[time to say good-bye]のミュージッククリップ撮影時のショットなど、若かりしメンバーたちの姿が次々と映し出される。そして3枚同時リリース時のCMが流れ、『花葬』でステージが再開されるという何とも憎らしい展開が待っていた。
眉を剃り、金髪を後ろになでつけたいでたちのhydeは当時を思い出させる。ken、tetsuya、そしてyukihiroが奏でる重厚で艶やかな音に、hydeの妖艶な声が重なる。当時の圧倒される存在感、幻想的な美しさ、体ごと持っていかれるような唯一無二の世界観、すべてが変わらずそこにあり、あの頃にタイムスリップしたかのようだ。たたみかけるように『浸食〜lose control』が始まると、興奮を解放し、叫ぶ観客たち。セクシーなダンサーも登場し、ステージはすでにロックバンドのライヴの域を超えた映像美を作り出していく。
そしてhydeのギターからスタートした『HONEY』では観客のLEDが黄色に光り、一気にポップな空間へと変化。タバコをふかしながらコーラスするkenの姿も健在だ。艶やかにその存在を見せつけるかのように深く、kenのギターとtetsuyaのベースが重なり、力強さを増していくyukihiroのドラム、全てが耳に心地よい。25年を経て進化したL’Arc~en~Cielの今を見せつけられたような演奏だった。
kenのギターソロから始まる『MY HEART DEAWS A DREAM』では5万5千人がサビを歌い、今日のこの日を共に楽しんだ。白いつば広のハットをかぶり、純白の衣装をまとったhydeが両腕を広げて観客へ優しい視線を送る。目を閉じて観客の歌声に聴き入るtetsuyaの姿が印象的だった。
大きな拍手が起こり、『NEO UNIVERSE』が始まると、スクリーンに車が空を飛ぶメルヘンチックなアニメーションが映し出され、場内はハートフルな空間に。そう、L’Arc~en~Cielにはこんな面もあるのだ。世界の闇を歌いながら、同時に光を描く。奇跡は起こらない。それでも希望を抱いて生きていく。「背中合わせの絶望」を胸に。一気に広がった希望の世界に観客たちはダイブする。アニメーションから飛び出してきたかのように大きな車型の飛行船が頭上を飛んだ。
tetsuyaのベースソロから始まった『STAY AWAY』では客席がダンス&クラップ。ここからはお祭り騒ぎだ! ステージを右に左に動き回り、客席をあおるhydeとken。yukihiroの肉厚なドラムがさらに観客の気持ちを高めていく。hydeが演奏するtetsuyaの後ろに隠れてひょこひょこと顔を出す、ほほえましいシーンも見られた。
続く『Driver’s High』では炎が打ちあがり、客席と息の合ったジャンピング。hydeの「やれんのか日本! Hey,World!」の叫びに応える観客のレスポンスの大きさがすさまじい。『READY STEADY GO』では虹色の銀テープが舞い、本編はラストを迎えた。
アンコール後、再び映し出されたニュース映像では、Ellie Crancとは何者だったのかが明かされた。それは「あなたの中にあるもの。これからもずっと」画面上のEllie Crankの文字が動き、L’Arc~en~Cielに変わる。「だから未来を恐れないで Don’t be Afraid」
hydeの深く艶やかな歌声が響き、銃を撃つジェスチャーから始まる『Don’t be Afraid』はL’Arc~en~Cielからファンへのメッセージだ。ライヴが終われば、誰もがこの奇跡の夜の記憶を胸にしまって、それぞれの戦場へ戻るのだ。
tetsuyaがベースを鳴らし、「こんばんはーおげーんきー?」と恒例のMCタイムを始める。「屋根があってよかったね」としみじみつぶやくtetsuyaに笑いが起こる。本当は26周年目だけどいいこともある、30周年まであと4年だから、次は4年後だね、と言うtetsuyaへ一斉にブーイングが。最初のころはよく「ラルクアンシェル」と間違われたため、「シェル石油」になぜか入りにくかったというエピソードを披露するとhydeから「神経質やな(笑)」とつっこみが入る。
「でもよくみなさん禿げませんでしたね」とhydeが言うと「昔誰かが禿げたら全員坊主にしようって話してたよね」とtetsuyaが昔の思い出話も展開。「昔の映像を見ても、自分じゃないような気がする。Kenちゃんなんて今と全然違う。今、チンピラやん(笑)」と笑うhyde。L’Arc~en~Cielの持つアットホームな面も見せてくれた。
「もう一回ひとつになろうぜ」と再度「錬成!」し、ひとつになった場内へ『Blurry Eyes』が放たれる。画面には過去の『Blurry Eyes』ライヴ映像が映り、観客は今と過去とを楽しんだ。途中、hydeが笛を吹くのを忘れてタイミングがずれるアクシデントが見られたのも生のライヴの醍醐味だ。まるでここにいる全員が家族のような一体感のもと、盛り上がりは最高潮のまま『Link』へ。
大きな風船が頭上をころがり、クラップする観客たちは満面の笑顔で子どもの頃の自分に戻っている。怖いものが何もなかったあのころへ。L’Arc~en~Cielのライヴはファンたちが戻る居場所なんだと思う。年月とともに痛みが増す過去も、もう怖くはない。ここに帰る場所があるのだから。曲途中には9年ぶりのメンバー紹介も行われ、懐かしさに浸るファンの姿が目立った。
終わりを予感させる雰囲気の中、厳かにhydeが口を開く。「本当にありがとう。始めたころは、夢だけはありましたね。あと根拠のない自信。そこからこの25年、歩いてきたんですけど、すっごい長かったような気がするなぁ。みんなから見ると順調に見えるかもしれないですけどね、ここまでの距離は簡単ではなかった。山あり谷ありで、メンバーもスタッフも、みんながものすごい努力をして今日の日を迎えられたんじゃないかなと思います」
わき起こる拍手と、同時に二階席のL'edバンドのライトが「25th L’Anniversary」の文字に変わり、歓声があがる。
「今日みんながつけているL'edバンドのひとつひとつのピース、その光以上に君たちの思いがあふれていて、だから、ここから見る光景はその輝き以上に美しかったです」
hydeの言葉に涙する観客へ向けて、最後に歌われたのは『あなた』。サビを歌うファンの声に聴き入るメンバーたち。長い道のりを共に歩いてきた、L’Arc~en~Cielとファンとが思いを共有し、まさにひとつになった演奏だった。
4月9日(日)、L’Arc~en~Cielの東京ドームライヴの2日目は、あいにくの雨。しかし、雨などものともしない5万5千人のファンが集った。
2日目も『虹』からのスタート。1日目のライヴを経て、更にバンドとしてのグルーヴが増している。hydeの深みのある歌声はもちろん、tetsuyaのコーラスも美しい。『Caress of Venus』でhydeが光の階段を下りてきて、一斉にハンドクラップが起こる。伝説のライヴ最終日が幕を開けた。
tetsuyaが足でリズムをとりながら演奏し、kenはすでに満面の笑顔。メンバーも心なしか昨日よりもリラックスして見える。L’Arc~en~Ciel特有のキラキラした音の世界が会場全体を彩っていく。
「25’th L’Anniversaryへようこそ!すっごいいっぱい(人が)いるね。この裏にもいるからね」とステージ裏にも観客が入ったことに触れたhydeは「今日は日本と世界11か国の映画館でもライヴビューイングが中継されています。Hello,World!」と叫び、今日もメンバーがそろったことを喜ぶと、yukihiroがドラムを叩いて応えた。「日本カモシカレベルですからね(笑)こんなにもたくさんの人に来てもらえるなんて泣きそうです。嘘です、泣きません(笑)」と場内を笑わせながら、今日も「錬成!」の声でウェーブを起こした。
2日目のみ演奏された『真実と幻想と』では、客席から歓喜の悲鳴があがった。恍惚とした表情を浮かべ、歌うhydeの高音が異世界を一瞬で作り出す。続く『Shout at the Devil』ではすでにクライマックスを迎えたかのようにヒートアップしたステージで、hydeがマイクスタンドを振りかざし、振り下ろすと花火があがるド派手な演出はモンスターバンド・L’Arc~en~Cielならではだ。
移動ステージで後方へ移動後のkenのMC。「こんなに人がいるけど普段は気配を感じない。普段はみんな何してるの?」と問いかけ、また下ネタを繰り出すkenへhydeが「昨日は遠慮してたよね(笑)kenちゃんから下ネタをとったらタバコとギターしか残らないからいいと思うよ」と笑わせた。
この日の移動ステージで演奏されたのは『風の行方』だ。初期も初期の曲だが、ファンの間では人気が高い。演奏前にミュージッククリップの撮影がモロッコで行われた話で「モロッコの現地の人は用を足したあと、手で汚れをふくため、お札が湿っている」という話でhydeとtetsuyaが盛り上がった。こんな思い出話が25年たって聞けるのもとてもうれしい。
当時にタイムスリップしたかのようなエキゾチックな空間で、客席をのぞきこむようにして演奏するkenの姿が印象的だった。
止まないメンバーコールの中、厳かに響いたkenのギターソロから始まる『MY HEART DRAWS A DREAM』では、この日もギターを弾く指が生き物のように動く様がスクリーンに映り、音楽の持つ無現の可能性を感じさせてくれた。サビでの観客とのシンガロングが今日も夢の世界を作り出す。
アニメーション映像が描く仮想世界と現実がリンクする『NEO UNIVERSE』では歌いながらベースを弾くtetsutaの姿が、観客が踊り狂った『STAY AWAY』では、kenの満面の笑顔が見られ、メンバーが心から演奏を楽しんでいる様子が伝わってきた。
「ドエルのすげーとこ見せてくれよ!」と何度もコール&レスポンスを繰り返し始まった『READY STEADY GO』ではhydeがtetsuyaの肩に手をかけ、一緒に歌う場面もあり、観客から歓声が。皆が笑顔の中、前日以上にヒートアップし、この日中継されていたライヴビューイングを見ている世界中のファンへ、日本のファンとL’Arc~en~Cielのきずなを見せつける演奏となった。 エンディングのyukihiroのドラムプレイは1日目よりやや長めで、感情を炸裂させるようなプレイに大歓声が起こった。
インターバル後のtetsuyaのMCは今日もアットホームで、L’Arc~en~Cielのライヴの楽しみのひとつだ。「今日スタッフから『4月8日と9日で、4と8と4と9を足したら25になるんですね」って言われて『うまいことできてるな』と思った』と偶然の数字の一致の話から「4と9ってあまり日本人にはいい数字じゃないけど全然気にせえへんよ!」と言うtetsuyaへ前日に続き「神経質なテッちゃん」と切り返すhyde。続けてtetsuyaは「4月9日は初めて一人暮らしを始めて、当時、いややなーこの数字、って思ってたから覚えてるんですけど」と結局のところ神経質キャラ、というオチで笑わせてくれた。
「28年前の今日はさみしくて泣きながら、公衆電話から実家に電話した。でも28年前に一人暮らしを始めていなかったらL’Arc~en~Cielはやっていません。みんなのおかげで、こんなすてきな景色を見せてもらって、ありがとう」と感動的なtetsuyaの言葉に続けて、hydeも「ありがとう」としみじみと言い、またひとつになるための「錬成!」を繰り出した。きれいに後ろまでいって前に戻ってきたウェーブだが、肝心のhydeを吹き上げる風が一拍遅れたため、妙な雰囲気に。もう一度やり直すというチャーミングな一幕もあった。
会場全員でのハンドクラップで一つになった『Link』が終わると、ラストを惜しむ客席からメンバーコールがこれでもかと飛んだ。
マイクスタンドの前にhydeが立つ。「みんな、ありがとうね。25年の間に何が変わったんだろうって考えていたんですけど、昔は好きな音楽だったり先輩だったり、理想を追いかけていたんだけど、気が付いたらかわいい後輩たちがたくさんできていました。いつかその場所に行くから、って威勢のいいことを言ってくれる後輩も増えて、L’Arc~en~Cielでやってきたことが間違っていなかったんだなと思わせてくれた」
「でもたくさんそいういう後輩ができたけれど、まだまだ負けるわけにはいかないんで、逃げ切るつもりでいきたいと思います。考えたら人生の半分以上をL’Arc~en~Cielとして過ごしたことになるんですけど。これからどんどんその日々が長くなっていけばいいなと思います。ここまでの道のりはすごく長かった。遠回りもいっぱいしたとても長い道のりだったけど、たくさんの人に愛されて、今日この場所まで来ることができました」
hydeの言葉に涙する観客たち。皆が思い思いにhydeの次の言葉を待つ。
「みんなの今日の笑顔にすごく報われます。この笑顔に会うために、この道のりがあったんだったら、悪くない道のりだったんだと思います。本当に今日はありがとうございました」
最後を飾ったのは『瞳の住人』だ。感極まって泣きじゃくるファンの姿があちこちで見られる。ここに集まった11万人それぞれの人が歩いてきた道が、今ここにつながった。そんなふうに思った。そう、ここはファンたちが帰る場所なのだ。L’Arc~en~Cielに出会えたことは奇跡で、そしてその奇跡はずっとずっと続いていく。次また会える日を夢見て、私たちはまたここから歩み始めるのだろう。
(撮影/今元秀明、岡田貴之、緒車寿一、加藤千絵、田中和子、取材・文/藤坂美樹)
【SET LIST】
2017.4.8(Sat)01.虹02.Caress of Venus03.the Fourth avenue Café04.flower05.Lies and Truth06.fate07.forbidden lover08.Shout at the Devil09.REVELATION10.Voice11.XXX12.花葬13.浸食〜lose control〜14.HONEY15.MY HEART DRAWS A DREAM16.NEO UNIVERSE17.STAY AWAY18.Driver's High19.READY STEDY GO20.Don't be Afraid21.Blurry Eyes22.Link23.あなた
2017.4.9(Sun)01.虹02.Caress of Venus03.the Fourth avenue Café04.flower05.Lies and Truth06.真実と幻想と07.forbidden lover08.Shout at the Devil09.REVELATION10.風の行方11.XXX12.花葬13.浸食〜lose control〜14.HONEY15.MY HEART DRAWS A DREAM16.NEO UNIVERSE17.STAY AWAY18.Driver's High19.READY STEDY GO20.Don't be Afraid21.Blurry Eyes22.Link23.瞳の住人
L’Arc~en~Cielのワンマンステージは2015年9月に大阪・夢洲の特設会場にて行われた野外ライヴ以来、約1年半ぶり。東京ドームでの公演は「L'Arc〜en〜Ciel TOUR 2008 L'7 〜Trans ASIA via PARIS〜」以来9年ぶりの公演とあって、ファンの熱量も半端なものではない。待ちわびたライヴの初日、朝からすでに東京ドームの敷地内はファンで埋め尽くされ、お祭りのような雰囲気になっていた。
そしていよいよ、18時の開演時刻を10分ほど過ぎて、場内が暗転すると悲鳴のような歓声がドーム中からあがった。スクリーンにマントをかぶった謎のEllie Crancという人物からの声明映像が映し出される。彼は「2017年の世界にL’Arc~en~Cielのピースがちらばってしまった。ピースを集めてほしい」と告げる。期限は4月7日23:59、未来を取り戻すためのミッションがスタートする。世界各地でピースを集める人々。そして4月8日。ピースはついにそろった。
画面はyukihiro(Dr.)の映像に切り替わり、場内から拍手と歓声がわき起こる。続いて、ken(Gt.)、tetsuya(Ba.)、そしてhyde(Vo.)が映し出され、「Mission Complete」の文字が。ステージにyukihiro、ken、tetsuyaが現れスタンバイ。ステージ上の階段のセットにhydeが登場し、始まったイントロに場内は悲鳴のような大歓声に包まれた。
始まったのは『虹』だ。この記念すべき25周年のアニバーサリーライヴの1曲目にファンにとってはもちろん、おそらくメンバーにとっても思い入れの深いであろうこの曲を持ってくるとは。前奏から1拍おいて、茶色の布を頭からまとい、アラブの国王のようないでたちのhydeが歌い出す。全身黒地に一部分ストライヴが入ったスーツ姿のken、赤のジャケットの赤いラメの入ったシャツを着たtetsuya、シックな黒の衣装のyukihiroは長く伸びた髪の毛をポニーテールのようにまとめている。4人がひさしぶりにそろった姿は、圧巻の一言だ。
hydeの透明な、それでいて力強い歌声、kenの叙情的なギター、tetsuyaのメロディアスなベース、そしてyukihiroのエネルギッシュなドラムの音色が鮮やかに重なり、会場を包みこむ。始まってものの3分強、東京ドームはすでにL’Arc~en~Ciel色に染まっていた。さあ、これから何が始まるのだろう? 曲の終わり、hydeの顔がスクリーンにアップで映し出されると、大歓声が起こった。
黄色く光る階段をhydeが降りてきて、『Caress of Venus』が始まると客席から一斉にハンドクラップが起こり場内が揺れた。眼鏡をかけたkenが楽しそうにほほ笑んでいる。hydeが投げキスをすると悲鳴のような歓声があがり、ステージと客席とが一体化していく。続く『the Fouth Avenue Café』では座り込んで客席を見つめながら歌うhydeの姿が印象的だった。踊る観客とメンバーとの息がぴったりと合い、L’Arc~en~Cielが生み出す魔法が会場中に広がっていく。hydeの吐息がマイクを通して響くと、場内に大歓声があがった。
L’Arc~en~Cielの文字がスクリーンに大写しになり、hydeが口を開く。「『25thL’Anniversary LIVE』へようこそ! L’Arc~en~Cielです! 会いたかった? 待たせたな。こんなにたくさんの人が集まってくれて、本当に幸せです。ドエルがいて、そして肝心のメンバーが集まりました!」ken、tetsuya、yukihiroが映し出されると、場内の歓声が悲鳴に変わる。
「4人がそろうのは天然記念物みたいなもんだからね」と笑わせ、L’Arc~en~Cielの25周年について「25周年もすごいけど、25年間、こんなに愛されてきたことがもっとすごいと思う」と言うと、kenが「レッサーパンダがこの25年の間に立ったよね。パンダが立つ時代になって、ウーパールーパーも立って」とこの25年の動物たちの変化について語る。25才以下の人が生まれる前からいるなんて妖怪みたいだよね、と言うhydeへ「ポケモンで終わるかと思ったら、妖怪ウォッチがはやって」となおも語ろうとするkenへ「もう大丈夫です」とさえぎるhyde。メンバーのこうした掛け合いが見られるのも、L’Arc~en~Cielのライヴの貴重さであり楽しさだ。
恒例のhydeの錬金術「錬成!」も飛び出し、ウェーブで一気に場内はアットホームな雰囲気に。「ひとつになってきたな、かわいがってやるからな、東京ドーム!」
hydeがハーモニカを吹き、始まった『flower』ではtetsuyaの「like a flower」のコーラスに合わせて手を振りあげる観客たちの酔い知れたような表情が印象的だった。そして『Lies and Truth』へ。旧来のファンにとって思い出深い曲が続き、客席は皆笑顔だ。スクリーンに映し出された歯車が回りだし、今までのミュージックビデオの映像が映る。それぞれの時代を回顧するかのような映像だちだ。曲の終わり、唇に指をあて、ぬぐうようなしぐさをするhydeがなまめかしい。
トーチが灯り、『fate』へ。紫の照明とスモークの中に4人の姿が浮かび上がった。kenのギターを弾く指先がスクリーンに映し出され、奏でるエッジィーなギターの音色が幻想的な絵の中に映える。
感極まって一斉に拍手する客席へ向けて放たれた『forbidden lover』では月光に照らされ波打つ海の映像をバックに、砂塵の中で演奏しているような異国情緒あふれる光景が広がった。たまらず手を伸ばし、音と一体化する観客たち。暗い雲間から時折光が差す映像と曲とが織りなす情景はこの世界そのもののように見える。もちろん、差し込む光がL’Arc~en~Cielだ。
再び爆音とともに炎が燃え上がり、始まった前奏が『Shout at the Devil』だと分かると観客から大きな歓声があがった。kenが髪を揺らし、ギターをかき鳴らし、客席を曲の世界へ引き込んでいく。ライヴはすでに最高潮を迎えたかのようだ。hydeのシャウトに合わせて踊り狂う観客たち。一種、宗教じみた世界が広がり、気持ちを丸ごと持って行かれる。「真実の旗ふりかざせ」でhydeがマイクスタンドを高く上げ、振り下ろすと炎があがる。tetsuyaがベースを頭上に掲げ、激しい動きを見せ、会場の熱気はヒートアップし続けていく。激しい爆発音が頭上で起こり、第一部は終了した。
静まり返る場内へ、慟哭のような重低音が響き渡る。観客が身に着けているL'edバンドが赤く点滅したのを合図に『REVELATION』が始まった。メンバーコールが悲鳴のようにあちこちから起こり、皆、こぶしを振り上げる。L’Arc~en~Cielのライヴはただ見るものではない。体で感じ、参加する一大エンターテインメントだ。特にこの曲での一体感はカタルシスを感じるほどすさまじい。観客たちがこの曲を待ちわびていたことが伝わってくる。
そしてステージに現れたメンバー。hydeとkenがそれぞれ設置されたパーカッションの前へ座っている。yukihiroがギターを手にステージ上手にいることにも喜びの声があがった。tetsuyaが腕を振り上げたのが合図だったかのように観客のL'edバンドがブルーに変わる。パーカッションを叩きながら歌い始めたhydeの目は獲物を狙う猛禽類のようだ。
「REVELATION!」のコールとともにジャンプする観客。kenの顔から笑みがこぼれ落ちる。呼応するステージと客席とが一つになった、そのタイミングで何とステージが客席へ向かって移動を始めた。ブルーのL'EDバンドの海の上を4人を乗せた船がこちらへ向かって泳いでくるかのようだ。「東京―!」と叫び客席をあおるhyde。頭上を移動していくステージを下から見上げる観客から歓喜の声があがり、興奮と熱気は最高潮に達した。
そのまま後方のサブステージへ移動ステージが下りて行き、メンバーが降り立った。後方の席にいる観客たちから絶叫が起こる。帽子を脱いだhydeは髪を後ろになでつけている。手を振って観客の呼び声に応えるtetsuya。yukihiroがドラムセットにスタンバイすると、hydeがブルーライトで光る場内を見渡し、「みんながリクエストしてくれた曲の中から、L’Arc~en~Cielの原点かなという曲を選びました。この曲をkenちゃんが持ってきてくれたとき、こんな曲やるんや、うれしいな、って思ってレコーディングした記憶があります」と告げて始まったのは『Voice』だ。
観客から悲鳴があがる。L’Arc~en~Cielの原点、それはファンの原点でもあるだろう。20数年前に時が戻るのを楽しんでいるのか、ドラムセットに腰掛け、yukihiroと共に語りかけるように歌うhyde。陶酔したようにギターを弾くken。tetsuyaは客席を見つめて、くるりと回って見せる。ドーム中が海の底に沈んでいるかのようだ。目の前にそろった4人の姿を間近に見て、涙するファンの姿もあった。
続く『XXX』では軍帽をかぶったhydeが「手と手を強く叩くとバチンッって音が鳴るんだよ」と言うのにならって、全員がクラップ。紫色に光るL'edバンドが星屑のようにゆらめき、扇情的なまでに美しいシーンが作り出された。L’Arc~en~Cielの世界に飲みこまれ、静まり返る客席へ向けて、メンバーたちがそれぞれボールを投げ、コミュニケーションを取りながら、移動ステージは前方へと戻っていった。
再びスクリーンにニュース映像が映し出され、今までのリリース時のCM集、ミュージッククリップや写真集撮影時のオフショットも上映された。貴重な海外でのメンバーの姿に喜びの声があがる。kenとtetsuyaの兄弟のように仲の良い姿や、白鳥たちに囲まれて驚くhyde、人気曲『夏の憂鬱』[time to say good-bye]のミュージッククリップ撮影時のショットなど、若かりしメンバーたちの姿が次々と映し出される。そして3枚同時リリース時のCMが流れ、『花葬』でステージが再開されるという何とも憎らしい展開が待っていた。
眉を剃り、金髪を後ろになでつけたいでたちのhydeは当時を思い出させる。ken、tetsuya、そしてyukihiroが奏でる重厚で艶やかな音に、hydeの妖艶な声が重なる。当時の圧倒される存在感、幻想的な美しさ、体ごと持っていかれるような唯一無二の世界観、すべてが変わらずそこにあり、あの頃にタイムスリップしたかのようだ。たたみかけるように『浸食〜lose control』が始まると、興奮を解放し、叫ぶ観客たち。セクシーなダンサーも登場し、ステージはすでにロックバンドのライヴの域を超えた映像美を作り出していく。
そしてhydeのギターからスタートした『HONEY』では観客のLEDが黄色に光り、一気にポップな空間へと変化。タバコをふかしながらコーラスするkenの姿も健在だ。艶やかにその存在を見せつけるかのように深く、kenのギターとtetsuyaのベースが重なり、力強さを増していくyukihiroのドラム、全てが耳に心地よい。25年を経て進化したL’Arc~en~Cielの今を見せつけられたような演奏だった。
kenのギターソロから始まる『MY HEART DEAWS A DREAM』では5万5千人がサビを歌い、今日のこの日を共に楽しんだ。白いつば広のハットをかぶり、純白の衣装をまとったhydeが両腕を広げて観客へ優しい視線を送る。目を閉じて観客の歌声に聴き入るtetsuyaの姿が印象的だった。
大きな拍手が起こり、『NEO UNIVERSE』が始まると、スクリーンに車が空を飛ぶメルヘンチックなアニメーションが映し出され、場内はハートフルな空間に。そう、L’Arc~en~Cielにはこんな面もあるのだ。世界の闇を歌いながら、同時に光を描く。奇跡は起こらない。それでも希望を抱いて生きていく。「背中合わせの絶望」を胸に。一気に広がった希望の世界に観客たちはダイブする。アニメーションから飛び出してきたかのように大きな車型の飛行船が頭上を飛んだ。
tetsuyaのベースソロから始まった『STAY AWAY』では客席がダンス&クラップ。ここからはお祭り騒ぎだ! ステージを右に左に動き回り、客席をあおるhydeとken。yukihiroの肉厚なドラムがさらに観客の気持ちを高めていく。hydeが演奏するtetsuyaの後ろに隠れてひょこひょこと顔を出す、ほほえましいシーンも見られた。
続く『Driver’s High』では炎が打ちあがり、客席と息の合ったジャンピング。hydeの「やれんのか日本! Hey,World!」の叫びに応える観客のレスポンスの大きさがすさまじい。『READY STEADY GO』では虹色の銀テープが舞い、本編はラストを迎えた。
アンコール後、再び映し出されたニュース映像では、Ellie Crancとは何者だったのかが明かされた。それは「あなたの中にあるもの。これからもずっと」画面上のEllie Crankの文字が動き、L’Arc~en~Cielに変わる。「だから未来を恐れないで Don’t be Afraid」
hydeの深く艶やかな歌声が響き、銃を撃つジェスチャーから始まる『Don’t be Afraid』はL’Arc~en~Cielからファンへのメッセージだ。ライヴが終われば、誰もがこの奇跡の夜の記憶を胸にしまって、それぞれの戦場へ戻るのだ。
tetsuyaがベースを鳴らし、「こんばんはーおげーんきー?」と恒例のMCタイムを始める。「屋根があってよかったね」としみじみつぶやくtetsuyaに笑いが起こる。本当は26周年目だけどいいこともある、30周年まであと4年だから、次は4年後だね、と言うtetsuyaへ一斉にブーイングが。最初のころはよく「ラルクアンシェル」と間違われたため、「シェル石油」になぜか入りにくかったというエピソードを披露するとhydeから「神経質やな(笑)」とつっこみが入る。
「でもよくみなさん禿げませんでしたね」とhydeが言うと「昔誰かが禿げたら全員坊主にしようって話してたよね」とtetsuyaが昔の思い出話も展開。「昔の映像を見ても、自分じゃないような気がする。Kenちゃんなんて今と全然違う。今、チンピラやん(笑)」と笑うhyde。L’Arc~en~Cielの持つアットホームな面も見せてくれた。
「もう一回ひとつになろうぜ」と再度「錬成!」し、ひとつになった場内へ『Blurry Eyes』が放たれる。画面には過去の『Blurry Eyes』ライヴ映像が映り、観客は今と過去とを楽しんだ。途中、hydeが笛を吹くのを忘れてタイミングがずれるアクシデントが見られたのも生のライヴの醍醐味だ。まるでここにいる全員が家族のような一体感のもと、盛り上がりは最高潮のまま『Link』へ。
大きな風船が頭上をころがり、クラップする観客たちは満面の笑顔で子どもの頃の自分に戻っている。怖いものが何もなかったあのころへ。L’Arc~en~Cielのライヴはファンたちが戻る居場所なんだと思う。年月とともに痛みが増す過去も、もう怖くはない。ここに帰る場所があるのだから。曲途中には9年ぶりのメンバー紹介も行われ、懐かしさに浸るファンの姿が目立った。
終わりを予感させる雰囲気の中、厳かにhydeが口を開く。「本当にありがとう。始めたころは、夢だけはありましたね。あと根拠のない自信。そこからこの25年、歩いてきたんですけど、すっごい長かったような気がするなぁ。みんなから見ると順調に見えるかもしれないですけどね、ここまでの距離は簡単ではなかった。山あり谷ありで、メンバーもスタッフも、みんながものすごい努力をして今日の日を迎えられたんじゃないかなと思います」
わき起こる拍手と、同時に二階席のL'edバンドのライトが「25th L’Anniversary」の文字に変わり、歓声があがる。
「今日みんながつけているL'edバンドのひとつひとつのピース、その光以上に君たちの思いがあふれていて、だから、ここから見る光景はその輝き以上に美しかったです」
hydeの言葉に涙する観客へ向けて、最後に歌われたのは『あなた』。サビを歌うファンの声に聴き入るメンバーたち。長い道のりを共に歩いてきた、L’Arc~en~Cielとファンとが思いを共有し、まさにひとつになった演奏だった。
4月9日(日)、L’Arc~en~Cielの東京ドームライヴの2日目は、あいにくの雨。しかし、雨などものともしない5万5千人のファンが集った。
2日目も『虹』からのスタート。1日目のライヴを経て、更にバンドとしてのグルーヴが増している。hydeの深みのある歌声はもちろん、tetsuyaのコーラスも美しい。『Caress of Venus』でhydeが光の階段を下りてきて、一斉にハンドクラップが起こる。伝説のライヴ最終日が幕を開けた。
tetsuyaが足でリズムをとりながら演奏し、kenはすでに満面の笑顔。メンバーも心なしか昨日よりもリラックスして見える。L’Arc~en~Ciel特有のキラキラした音の世界が会場全体を彩っていく。
「25’th L’Anniversaryへようこそ!すっごいいっぱい(人が)いるね。この裏にもいるからね」とステージ裏にも観客が入ったことに触れたhydeは「今日は日本と世界11か国の映画館でもライヴビューイングが中継されています。Hello,World!」と叫び、今日もメンバーがそろったことを喜ぶと、yukihiroがドラムを叩いて応えた。「日本カモシカレベルですからね(笑)こんなにもたくさんの人に来てもらえるなんて泣きそうです。嘘です、泣きません(笑)」と場内を笑わせながら、今日も「錬成!」の声でウェーブを起こした。
2日目のみ演奏された『真実と幻想と』では、客席から歓喜の悲鳴があがった。恍惚とした表情を浮かべ、歌うhydeの高音が異世界を一瞬で作り出す。続く『Shout at the Devil』ではすでにクライマックスを迎えたかのようにヒートアップしたステージで、hydeがマイクスタンドを振りかざし、振り下ろすと花火があがるド派手な演出はモンスターバンド・L’Arc~en~Cielならではだ。
移動ステージで後方へ移動後のkenのMC。「こんなに人がいるけど普段は気配を感じない。普段はみんな何してるの?」と問いかけ、また下ネタを繰り出すkenへhydeが「昨日は遠慮してたよね(笑)kenちゃんから下ネタをとったらタバコとギターしか残らないからいいと思うよ」と笑わせた。
この日の移動ステージで演奏されたのは『風の行方』だ。初期も初期の曲だが、ファンの間では人気が高い。演奏前にミュージッククリップの撮影がモロッコで行われた話で「モロッコの現地の人は用を足したあと、手で汚れをふくため、お札が湿っている」という話でhydeとtetsuyaが盛り上がった。こんな思い出話が25年たって聞けるのもとてもうれしい。
当時にタイムスリップしたかのようなエキゾチックな空間で、客席をのぞきこむようにして演奏するkenの姿が印象的だった。
止まないメンバーコールの中、厳かに響いたkenのギターソロから始まる『MY HEART DRAWS A DREAM』では、この日もギターを弾く指が生き物のように動く様がスクリーンに映り、音楽の持つ無現の可能性を感じさせてくれた。サビでの観客とのシンガロングが今日も夢の世界を作り出す。
アニメーション映像が描く仮想世界と現実がリンクする『NEO UNIVERSE』では歌いながらベースを弾くtetsutaの姿が、観客が踊り狂った『STAY AWAY』では、kenの満面の笑顔が見られ、メンバーが心から演奏を楽しんでいる様子が伝わってきた。
「ドエルのすげーとこ見せてくれよ!」と何度もコール&レスポンスを繰り返し始まった『READY STEADY GO』ではhydeがtetsuyaの肩に手をかけ、一緒に歌う場面もあり、観客から歓声が。皆が笑顔の中、前日以上にヒートアップし、この日中継されていたライヴビューイングを見ている世界中のファンへ、日本のファンとL’Arc~en~Cielのきずなを見せつける演奏となった。 エンディングのyukihiroのドラムプレイは1日目よりやや長めで、感情を炸裂させるようなプレイに大歓声が起こった。
インターバル後のtetsuyaのMCは今日もアットホームで、L’Arc~en~Cielのライヴの楽しみのひとつだ。「今日スタッフから『4月8日と9日で、4と8と4と9を足したら25になるんですね」って言われて『うまいことできてるな』と思った』と偶然の数字の一致の話から「4と9ってあまり日本人にはいい数字じゃないけど全然気にせえへんよ!」と言うtetsuyaへ前日に続き「神経質なテッちゃん」と切り返すhyde。続けてtetsuyaは「4月9日は初めて一人暮らしを始めて、当時、いややなーこの数字、って思ってたから覚えてるんですけど」と結局のところ神経質キャラ、というオチで笑わせてくれた。
「28年前の今日はさみしくて泣きながら、公衆電話から実家に電話した。でも28年前に一人暮らしを始めていなかったらL’Arc~en~Cielはやっていません。みんなのおかげで、こんなすてきな景色を見せてもらって、ありがとう」と感動的なtetsuyaの言葉に続けて、hydeも「ありがとう」としみじみと言い、またひとつになるための「錬成!」を繰り出した。きれいに後ろまでいって前に戻ってきたウェーブだが、肝心のhydeを吹き上げる風が一拍遅れたため、妙な雰囲気に。もう一度やり直すというチャーミングな一幕もあった。
会場全員でのハンドクラップで一つになった『Link』が終わると、ラストを惜しむ客席からメンバーコールがこれでもかと飛んだ。
マイクスタンドの前にhydeが立つ。「みんな、ありがとうね。25年の間に何が変わったんだろうって考えていたんですけど、昔は好きな音楽だったり先輩だったり、理想を追いかけていたんだけど、気が付いたらかわいい後輩たちがたくさんできていました。いつかその場所に行くから、って威勢のいいことを言ってくれる後輩も増えて、L’Arc~en~Cielでやってきたことが間違っていなかったんだなと思わせてくれた」
「でもたくさんそいういう後輩ができたけれど、まだまだ負けるわけにはいかないんで、逃げ切るつもりでいきたいと思います。考えたら人生の半分以上をL’Arc~en~Cielとして過ごしたことになるんですけど。これからどんどんその日々が長くなっていけばいいなと思います。ここまでの道のりはすごく長かった。遠回りもいっぱいしたとても長い道のりだったけど、たくさんの人に愛されて、今日この場所まで来ることができました」
hydeの言葉に涙する観客たち。皆が思い思いにhydeの次の言葉を待つ。
「みんなの今日の笑顔にすごく報われます。この笑顔に会うために、この道のりがあったんだったら、悪くない道のりだったんだと思います。本当に今日はありがとうございました」
最後を飾ったのは『瞳の住人』だ。感極まって泣きじゃくるファンの姿があちこちで見られる。ここに集まった11万人それぞれの人が歩いてきた道が、今ここにつながった。そんなふうに思った。そう、ここはファンたちが帰る場所なのだ。L’Arc~en~Cielに出会えたことは奇跡で、そしてその奇跡はずっとずっと続いていく。次また会える日を夢見て、私たちはまたここから歩み始めるのだろう。
(撮影/今元秀明、岡田貴之、緒車寿一、加藤千絵、田中和子、取材・文/藤坂美樹)
【SET LIST】
2017.4.8(Sat)01.虹02.Caress of Venus03.the Fourth avenue Café04.flower05.Lies and Truth06.fate07.forbidden lover08.Shout at the Devil09.REVELATION10.Voice11.XXX12.花葬13.浸食〜lose control〜14.HONEY15.MY HEART DRAWS A DREAM16.NEO UNIVERSE17.STAY AWAY18.Driver's High19.READY STEDY GO20.Don't be Afraid21.Blurry Eyes22.Link23.あなた
2017.4.9(Sun)01.虹02.Caress of Venus03.the Fourth avenue Café04.flower05.Lies and Truth06.真実と幻想と07.forbidden lover08.Shout at the Devil09.REVELATION10.風の行方11.XXX12.花葬13.浸食〜lose control〜14.HONEY15.MY HEART DRAWS A DREAM16.NEO UNIVERSE17.STAY AWAY18.Driver's High19.READY STEDY GO20.Don't be Afraid21.Blurry Eyes22.Link23.瞳の住人