日本では、デフレ下でマスコミが特定の「誰か」を敵視し、それを徹底的にたたくことで、ルサンチマンがたまった国民が喝采するという光景が繰り返し見られた。わが国が多数の外国人労働者を抱え込んでいた場合、間違いなく「ネイティブな日本国民 対 外国移民(及び移民に味方する国民)」の争いが発生し、国民が分断されたことだろう。

 アメリカのような移民国家はともかく、日本や欧州諸国のような国民国家が「健全な国民国家」を維持するためには、以下の二つの条件を満たさなければならないのだ。
 (1)長期デフレーションを防ぎ、健全な民主主義を維持する(ルサンチマン手法を否定する)
 (2)特に「ヒトの移動」について、グローバリズムをコントロールする

 国際協定によるグローバリズムは、本当に厄介だ。EUからの完全離脱を果たしたとしても、英国民が健全な国民意識(ナショナリズム)を取り戻す可能性は限りなく低い。イギリスはもともとが階級社会であり、さらにスコットランド独立運動という難題までもが再浮上してきている。
 翻ってわが国を見ると、政権が外国人労働者の受け入れや「国際協定によるグローバリズム=TPP」といった路線をひた走り、明らかにイギリスの背中を追いかけている。TPPでは外国人労働者の規制緩和は含まれていないが、一度主権を制限する「枠組み」が作られてしまうと、いつの日かEU的になっていくことだろう。

 TPP推進派の中には、
 「TPPに入って、問題があるなら抜ければいい」
 などと軽々しく口にする者がいるが、「国際協定によるグローバリズム」という呪縛を解き放つのは、甚だしく困難を伴うという事実がイギリスの事例から分かるはずだ。しかも、よほど幸運でない限り、国民の統合が壊れる。

 今回のブレグジットを受け、日本国民はあらためて「主権」や「ナショナリズム」について考えなければならない。
 イギリスの人口は日本の半分程度である。人口6400万の国に33万人の「外国移民」が流入したのが'15年であった。日本でいえば、「毎年、60万人の中国移民が流入してくるが、国際協定で主権が制限されているため移民受け入れを拒否することができない」状況を想像してみれば、ブレグジットの真相が見えてくる上に、「主権」の大切さが理解できるはずだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。