相模原vs日立一
相模原・石井君
関東地区では、春季都県大会も終了して、関東大会出場校と組み合わせも決まった。そんな大型連休の最後に茨城県の日立一は、この土日を利用して神奈川県遠征を組んでいた。前日は厚木と試合を行い、この日は昨年の春季県大会準優勝で関東大会初出場を果たしている県相模原だ。通称“県相”の呼称で親しまれている、地域でも人気の進学校でもある。また、日立一も茨城県北部の進学校として、支持されている学校だ。そんな、言うならば、地域一番公立進学校対決である。両校合わせて偏差値130対決と言ってもいいであろうか(笑)。
日立一は昨夏の茨城大会準優勝、秋季県大会もベスト4で、甲子園も具体的に意識できるところまで来ている。そのことは、中山 顕監督も十分に認識している。
その日立一を引っ張るのは、1年生の時からメンバー入りしていた2人の“スズキアヤト”だ。エースで4番の鈴木 彩斗君は昨夏の準優勝の原動力でもある。力強いストレートは威力があるが、この日は変化球も吹決めて、もう一つ制球力がよくなかった。ボールが先行していて、球数も多くなってしまい、5回で100球以上を投げさせられていた。厳しいところをファウルにしていく県相の打者の粘り強さも彩斗君を狂わせたのかもしれない。苦しくなって、甘くなったところを捉えられていた。
また、1試合目には2番一塁手で入っていた鈴木 綾人君は1試合目は4打数0安打と押さえられたが、3番打者として出場した2試合目では、3打席目に中越二塁打して代打佐川君の中前打で3点目のホームを踏んでいる。いずれにしても、この2人が打線の中心にもなっているのだが、この日はもう一ついいところがなく、それが結果にも表れてしまったということであろうか。
彩斗君の投球リズムを崩したのは、県相の先頭打者柴田 高平君だったかもしれない。フルカウントからファウルで粘り、中飛に倒れたものの9球投げさせていた。これで、「食い下がられるな」ということを感じて、コースを狙いすぎて、その結果として玉数が多くなったようだ。
柴田高君はスイングスピードも速く、リードオフマンとしてはバッティングアイの確かな選手だ。3回には右前打で出ると、先制のホームを踏んでする。また、4回に放った中前打は、彩斗君の力のあるストレート、少し高く入ってしまったとはいえ、バチーンと中前へはじき返し、打球も速かった。これで2年生なのだから驚く。
県相の先発石井君も2年生だったが、日立一打線を上手に打たせて、5安打完封。結果的には、三塁も踏ませなかった。佐相 眞澄監督は、「そんなに良かったですかねぇ、まぁ、コントロール悪くなかったからね」と、喜んでいた。日立一としては、この試合では、クリーンアップが無安打だっただけではなく、無死での走者も一度もなかった。いきなり3番で使った1年生の清水君や綾人君の3打席目など、いい当たりが野手の正面を突いていたということもあったが、それはそれだけ石井君の制球がよかったということでもあろう。
日立一・横山君
遠征最後の試合としいうこともあって、2試合目は、「いろいろ使っていきますよ」と言っていた中山監督だったが、結局投手6人を含めて、27人が出場。県相も、それに呼応するかのように先発では近藤 誠也君、小島君、柴田 竜平君と3人の1年生を起用していたが、都合24人が出場。両チーム合わせて51人が何らかの形で試合に出場するということになっていた。スコアノートも、ぐちゃぐちゃになってしまうくらいだった。
中山監督は、「投手は6人使おうとは思っていましたが、繋がり方は必ずしも予定通りではなかったですね」と、一死も取れないで降板した投手もいて苦笑していた。
試合は、6回途中までは、第1試合と全く同じ得点イニングで、しかもその内容も似たようなものだったが、6、7回に県相は追いついた。そして9回、同じように一死一塁となったが、日立一はそこで河原君に遊撃ゴロを打たされて併殺。県相もそこで遊ゴロとなったが、併殺狙いの日立一は焦ったのか、失策となり一二塁。その差が結果として出てしまった。県相が満塁から最後は吉田君が右前へサヨナラ打した。
この日は2試合だったのだが、県相の素晴らしさは、試合と試合の合間には、佐相監督が何も言わなくても、試合に出ていなかった2年生や1年生たちがすっと、試合と試合の合間に紅白戦や実戦形式の試合を行うことだ。そして、佐相監督がネット裏から、気がついたことを一言アドバイスすると、それを聞いた選手は、すぐにそこで修正してみせていく。
これは、2試合目が終わった後も同じだった。終了するとすぐに別の選手がグラウンドに散って、実戦形式の練習に入る。「やっぱり、野球は、試合形式が一番勉強になるはず」という考え方である。それにしても、その手際の良さには驚いたが、佐相監督も、「正直言って、楽ですよ。アレしろ、コレしろって、ほとんど言わないもん。自分たちでどんどんやっていって、『これやっていいですか』って、言ってきますからね」と、目を細める。県内屈指の進学校でありながら、昨年の県大会準優勝のように、実績を挙げていかれる背景には、こうした姿勢があるのだということを改めて確認させられた。
また、日立一としては、試合結果とは別に、夏へ向けては選手たちがさまざまなケースを体験していったことで、それなりの成果はあったのではないだろうか。中山監督も、「こうし遠征で経験したことを、それぞれが生かしていかないと意味がないですからね」と、期待を込めていた。
(写真・文=手束 仁)