浦和レッズ
武藤雄樹インタビュー(前編)

 2015年の日本サッカー界を盛り上げている主役のひとりと言っていいだろう。今シーズンから浦和レッズでプレーしているFW武藤雄樹のことだ。

 過去4シーズンを過ごしたベガルタ仙台でリーグ戦6ゴールしか奪えなかった男が、今シーズンはまるで人が変わったかのように得点を重ね、積み上げたゴールの数は11(セカンドステージ第11節終了時点)。4年かけて奪ったゴール数を、軽々と飛び越えていった。

 こうしてレッズのファーストステージ優勝に大きく貢献すると、日本代表の国内組だけで臨んだ8月の東アジアカップ(※)でも2ゴールをマーク。最下位に沈んだチームの中で気を吐いた。
※第1戦=1−2北朝鮮、第2戦=1−1韓国、第3戦=1−1中国

 大会終了後、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「国内組で2、3人素晴らしい選手を見つけた」と言ったとき、誰もが思ったに違いない、そのひとりは間違いなく武藤のことだろう、と。

 しかし――。

 8月27日に発表されたW杯アジア2次予選のカンボジア戦(3−0/9月3日)、アフガニスタン戦(6−0/9月8日)に臨む日本代表メンバーの中に彼の名前はなかった。さぞや気落ちしているだろうと思いきや、武藤はいつもと変わらぬ笑顔できっぱりと「落ち込んではいない」と、言い切った。

 はたして、彼は何を思うのか。ブレイクの背景を探りつつ、ストライカー武藤雄樹の正体に迫る。

――9月のW杯アジア予選に挑んだ日本代表メンバーには、残念ながら選ばれませんでしたね。

「選ばれませんでしたねえ(笑)。東アジアカップでゴールを決めたっていう自負もあったし、期待もしていたから、やっぱり悔しかったんですけど、ゴール以外の部分で、他でもない自分自身が物足りなさを感じていたので、(代表メンバーとしては)足りなかったんだなって。そういう意味では、あと3点ぐらい決めていても、選ばれなかっただろうなって思っています」

――バックアップメンバーには選ばれました。それに関してはいかがですか。

「インターネットのニュースで知ったんですけど、そこに入っているのは、(メンバー入りを)検討してくれたっていうことだし、この先も見てくれると思うので、次は選ばれるようにがんばろうって、モチベーションが高まりました。だから、落ち込んではいられないというか、心配してくれる人もいるんですけど(笑)、落ち込んではいないです」

――では、「物足りなさを感じていた」というのは、どんな部分ですか?

「ボールを失う場面がすごく多かったんです。レッズでプレーするシャドー(セカンドトップ)と違って、(東アジアカップでプレーした)トップ下って360度、どこからでも敵が来る。しかも、プレッシャーも思っていたより速くて、パワーで負けたり、ボールを奪われたりすることが多くて。あと、体力の部分も。僕、レッズでは走れるほうだと言われていて、自分でも自信があったんですけど、代表に行ってみたら、そんなことはなかった。縦に速いサッカーをする中で、最後、足が止まってしまって......。例えば、山口蛍(セレッソ大阪)は最後までずっと走っていたじゃないですか。あれを見ると、自分は全然走れていなかった」

――甘かった、と。

「はい。でも、高いレベルの選手とプレーすると、いろいろと発見できるから、代表に行くのはやっぱり楽しいなって思いました」

――一方、奪った2ゴールはいずれも裏に飛び出す形で、いかにも"武藤選手らしい"ゴールでしたね。

「そうですね。レッズでもああいうゴールが多いんですけど、ゴール前で相手の嫌なところに飛び込むことにはこだわっていて、そこで勝負しようと思っているので、代表でも出せたのは収穫というか、違うチームでも自分の良さを出せたのは、自信になりましたね」

――さすがに、普段は厳しいハリルホジッチ監督も褒めてくれたでしょう?

「いや、そんなこと、ないです(笑)」

――そんなこと、ないんですか!?

「もちろんゴールに関しては、『いいゴールだった』と言ってくれたんですけど、中国戦では1対1のビッグチャンスを外していたこともあって、交代した直後、『おまえ、あと3点は決められたぞ!』って」

――厳しいですね。

「でも、それぐらい要求されたほうが期待を感じられるし、あれを決めて勝っていたらヒーローになれたわけで、僕自身が悔しかった。まだまだだなって、反省しています」

――それにしても、東アジアカップでの2ゴールといい、レッズでの11ゴールといい、今シーズン、得点力が開花した印象があります。感覚としては、新しい自分を発見したという感じですか? それとも、本来の良さを出せている感じでしょうか?

「自分としては、本来持っていたものを出せている感覚が強いですね。僕はもともと裏に抜け出すタイプのFWで、それを評価されてプロになれたと思っていたんですけど、仙台ではサイドハーフとしてプレーすることが多くて、なかなかゴール前で勝負できなかった。それが、レッズではシャドーのところで起用されて、裏への飛び出しやワンタッチゴールといった本来の良さが出せるようになったなって感じています」

――レッズや日本代表でのプレーを見ていると、ペナルティーエリアの中で輝く選手という印象が強いです。

「仙台時代も、『DFとの駆け引きなら、僕は絶対に負けない』って言っていたんです。でも、守備の時間が長かったし、ロングボールを追いかけるシーンも多くて。そこは、目指すサッカーの違いでもあるんですけど、レッズはしっかりパスをつなぐし、ラストパスを出せる選手も多いので、僕が良いポジションを取って、しっかり流し込めれば、点はいくらでも取れるんじゃないかって、相手も対策が取れないんじゃないかって思います」

――駆け引きや得点感覚を磨くために、普段から取り組んでいることって、ありますか?

「ルーティーンがあるわけじゃないんですけど、サッカーを見るのが好きなので、海外やJリーグのゴールハイライトを見て参考にしています。あと、移動中とかに自分の好きな選手の動画を見たり......」

――誰の動画を見るんですか?

「(ルイス・)スアレス(バルセロナ)が好きなんですよ。なんか、スアレスがプロ入りしてからの全ゴールシーンみたいな動画があって、たぶん10分ぐらいあると思うんですけど」

――それを、ずっと見ているんですか?

「見始めたら止まらなくて(笑)。ゴールが決められないなっていうときに、その映像を見てイメージをふくらませて、試合に臨んだりしています」

――サンフレッチェ広島の佐藤寿人選手のことも、好きなんですよね?

「そうなんです。寿人さんは、自分が大学生(流通経済大)のときからの憧れの存在で。それこそ大学時代、自分の方向性を見失ったときに、寿人さんのプレーを見てヒントを得たというか」

――大学時代は1年生のときから活躍していた印象がありますけど、方向性を見失っていたんですか?

「確かに1年のとき、JFLで15点ぐらい決めて、『俺、すげえじゃん』って思っていたんですけど(笑)、2年、3年になってうまくいかなくて。自分は何で勝負すべきなのかと悩んだ結果、裏への抜け出しやDFとの駆け引きを武器にしようと思い立って。ちょうどその頃、大学のチームメートのGK増田(卓也/流通経済大→サンフレッチェ広島)が特別指定選手として広島の練習に参加していて、試合映像のDVDを持っていたので、それを見て、寿人さんの動き方やポジショニングを勉強したんです」

――ストライカーとしての師匠は、佐藤寿人選手なんですね。

「本当にそうで、ずっと寿人さんのようになりたいって思っています。だから仙台時代、サポーターの方から寿人さんにプレーが似ていると言われて、寿人さんの(仙台時代の)応援歌を引き継がせてもらったのは、本当にうれしかったです」

(後編に続く)

飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi