イチローの「一塁コンバート」説に反論してみる

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最近、イチローがすこぶる好調だ。シーズン当初は「4番目の外野手」としてスタートしたため、代打出場が多かった。しかしレギュラー左翼手であったイエリッチが腰の故障で4月20日に離脱。その後のイチローは、イエリッチに代わって15試合連続でスタメン出場している。しかもその期間中の打率は.321であり、"代役"としては十分な働きをここまで見せている。
だが、離脱していたイエリッチが日本時間9日に戻ってくるのではと報道されている。そうなると気になるのはイチローの立場だ。ここ最近絶好調のイチローをベンチに置いておくのはなんとも勿体ない。

そのような状況である驚くべき説がネットを駆け巡っている。それは「イチローの一塁コンバート説」だ。この説が真実味を帯びる理由はある。それはチーム事情だ。マーリンズの外野手3枠はイエリッチを含めて不動のレギュラー陣が名を連ね、イチローといえどもスタメン奪取は難しい。しかし、正一塁手として期待されたモースが打撃不調でスタメンを外れているため、一塁は層が薄いのだ。

【一塁手コンバートでイップスになった過去】


しかし、この説が実現するのはなかなか難しいのではないか。
というもの、かつてイチローが一塁を守ったことが原因となり、イップス(野球でいうところの送球恐怖症)に陥ったことがあるからだ。高校時代のイチローは主に投手を任されていたが、交通事故での負傷によって一塁手に一時的にコンバートされる。一塁手は外野手や他の内野手と違い、体を逆に捻って二塁などに投げることが多い。イチローはこの逆に捻る投げ方に慣れてしまい、いざ投手や外野に戻ったときにどう投げて良いか分からない(=イップス)状態になってしまったのだ。
イチローがなったイップスは割と深刻であり、一時はプロになれないことも覚悟したほどらしい。さらにオリックスに入団後も数年はイップスの後遺症に悩まされ、ボールを投げることに恐怖心もあったことを後に告白している。

【説を生んだ張本人が否定】


また、この説が浮上したきっかけは、イチローのマーリンズ移籍が決まる前にある記者が私見とした上で、「イチローが一塁に適応できるのならば、より出場機会を手にすることができる」と書いたことだ。しかし、イチローの開幕前のキャンプを見る限り、そのプランは実現に向けて動いている様子はなかった。さらに同記事を書いた記者は後に「あの時はそういう可能性も検討してはどうだろうか、という提案のつもりで書いた。しかし、実際にはおそらくないと思うよ」と語っている。ここからもイチローのコンバートは限りなく実現しないものと思われる。

【代案はあるか】


とはいったものの、イチローファンとしては好調な彼の姿をスタメンで見れなくなるのは寂しい。なにか打つ手はないだろうか。
そこで個人的には正中堅手であるオズナの一塁コンバートを勧めたい。オズナは左翼手のイエリッチ、右翼手のスタントンと比べると守備に荒さが目立つし、ここまで試合数が少ないとはいえ、外野手での守備指標ではイチローを下回っている。

イエリッチの復帰まであとわずか。イチローは果たしてどんな立場に置かれるのだろうか。しかし、たとえどんな状況に置かれようとしっかりと準備し、出場したら必ず結果を出すというイチローの姿は今後も変わることはないだろう。
「Number(ナンバー)876号 イチロー主義」(文藝春秋)
(さのゆう)