いま、全国で問題になっているバスの運転士不足。過疎化、高齢化社会を迎えるなか、公共交通の維持、ひいては地域の維持に直結するこの課題をどう乗り越えるか、各バス会社が知恵を絞っています。

「とにかく乗ってみて!」免許がなくても運転できる試乗会

 ここ10年ほど、全国のバス会社で「バス運転士が足りない」という問題が深刻化していることをご存知でしょうか。慢性的に不足している会社がほとんどで、ダイヤ通りの運行本数を守るために、現職の休日を減らしたり、時間外勤務を増加してなんとか対応していますが、事態は悪化の一途をたどっています。地方では路線バスの減便や路線の廃止に追い込まれるケースも少なくありません。今後も加速する高齢化社会において、もっとも身近な公共交通機関として重要な役割を担うバス会社は、早急な人材獲得を必要としています。

 三重交通(津市)では2015年春、バスの運転体験をセットした会社見学会を企画しました。普通免許を取得してから3年以上経過していれば誰でも参加が可能で、自動車学校のコースで補助ブレーキ付きの教習車を使用。自動車学校の指導員が同乗してくれるので、まったくの初心者でも安心して参加できると評判になりました。

「たいへん好評で、多くの申し込みがありました。採用に結びつくかどうかはいまの段階ではわかりませんが、きっかけ作りにはなったと思います」(三重交通・人事課)

 バスの運転士を目指す人は、職種のひとつ、として運転士を選んでいるだけではなく、「バスが好き」という人も多いはず。「免許がない」「運転テクニックに自信がない」などの不安から応募を躊躇している人に、まずは乗ってもらう。憧れの運転席に座ることで、運転士という夢を身近なものにしてもらおうという作戦なのです。

知恵を出し、若者と女性運転士を確保、育成するバス会社

 2014年の国土交通省のまとめによると、バス運転士の平均年齢は48.3歳とかなり高く、6人にひとりが60歳以上。女性の運転士に至っては、全体のわずか1.4%にすぎません。そこで、若者と女性運転士の養成と就労促進のため、各社がさまざまな取り組みをスタートさせています。

 例えば、仙台市の宮城交通では昨年より女性を積極的に採用する方針を固め、女性限定の運転体験会を開催しており、養成中も含め、これまでに22人を採用した実績があります。比較的女性運転士の多い東京都の京王バスや東急トランセでは「生理休暇」「育児休暇」「子どもの看護休暇」などの制度をつくり、子育て中の女性でも働きやすいような環境づくりに取り組んでいます。前出の三重交通の見学会も、午後の部は女性限定とし、女性運転士の採用に積極的であることをアピールしました。

 また、若年層の育成も急務です。しずてつジャストライン(静岡市)では4月から6月にかけて、各営業所の見学や運転席での体験乗車を開催しているほか、若年層の運転士を養成すべく「養成バス運転士」を募集しています。普通免許を取得してさえいれば、高卒の新卒者でも未来の運転士を目指すことができる制度です。

 バスの運転に必要な大型免許は基本的に、21歳以上で3年以上の運転経験が必要なため、高校を卒業してすぐ、バスの運転士になることはできません。そこで高校の新卒者を雇用したうえで、最初の3年は整備職や事務職に配置。大型免許を取得できる4年目から、会社が大型免許の取得をサポートすることによって若手運転士を確保、養成する仕組みです。

 国土交通省の行った求職者アンケートによると、バス運転士へ応募の意向がある回答者の72.4%が大型二種免許を保有していませんでした。このような免許取得のサポートに力を入れる事業者は、ますます増えていくと見られています。

 ランドセル「クラリーノ」で知られるクラレ調べによると、この春、小学校1年生になった男の子のなりたい職業第3位は「運転手・運転士」でした。多くの子どもたちが憧れる職業である運転士という職業が、将来も選択肢として残り続けるために、バス会社はその魅力をPRする取り組みを続けているのです。