肘痛のメカニズムとストレッチ方法

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 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。

 シーズンに入り、ボールを使った練習が増えるとどうしても気になるのが肩や肘のこと。違和感があるだけならまだしも、痛みを感じながらも「これぐらいなら何とかなる」とプレーしている選手がいるのではないかと思います。今回は特に肘痛について、そのメカニズムや予防するためのストレッチ方法などについてお話をしたいと思います。

肘の痛みには種類がある

 肘の基本動作としては曲げ伸ばし(屈曲・伸展動作)と内側・外側ひねり(回内・回外動作)があります。股関節や肩関節に比べると関節そのものが小さく、過度に同じ動作を繰り返すと疲労し、炎症を起こしやすい特徴があります。筋力レベルが投球動作の負荷についていけないこともありますが、オーバーワーク(いわゆる投げすぎ)は肘関節やその周辺を傷める可能性があります。投球動作の繰り返しによって起こる肘の痛みには、痛みの出る部位ごとに大きく分けて3つのパターンがあります。

野球肘のメカニズム

1)内側型投球動作でボールをリリースするまでの加速期に、肘には内側に強い牽引力(引っ張る力:外反ストレス)が加わります。投球動作の繰り返しが肘の内側側副(ないそくそくふく)靭帯を傷めたり、上腕骨の肘関節付近に障害が起こったりします。

 一度の外力(投球)で激しい痛みを起こすこともありますが、「痛いけれど投げられる」という状態を繰り返していると、やがて肘内側の損傷が進行し、まったく投げられない状態にまで悪化してしまいます。「痛いけれど投げられる」状態はケガをしているのと同じであり、投げ続けることはより痛みを悪化させることに他なりません。

2)外側型成長期の投手に多い障害の一つです。骨が成長段階にあるときに投球動作を繰り返すことによって、肘関節が強制的に外反され(外に反り返る状態)、橈骨(とうこつ:肘から手首にかけての骨、親指側)の肘側の骨頭が衝撃を受けて血行障害が起こる状態です。ひどい場合は骨の一部が軟骨とともに剥離骨折します。投球動作を中止し、安静にすることで骨への物理的ストレスを軽減し、経過が良くなる場合があります。

3)後方型肘の後方が投球動作によって圧迫されたり、引っ張られたりして起こります。特に投げ終わりに下半身を十分に使えず、上体だけで投げてしまうと、投球ストレスは肘で受けてしまうことになります。右投手であれば投げ終わったあとに左の股関節にしっかりと体重が乗るようにし、肘は鞭のようにしならせるのではなく、体に巻き付けるように投げ終わると加速した大きな力をうまく逃すことができます。

 一般的に内側型が圧倒的に多く、これは投球動作で手関節を屈曲させる筋肉を多用するために起こるものです。したがって投球動作の前後に、前腕部の筋肉をストレッチングすることや、軽くほぐすこと、ケガ予防のためのトレーニングを行うことが内側型の野球肘を予防する上でも重要になります。

[page_break:肘のストレッチ方法 / 肘痛の見分け方とフォームの問題]肘のストレッチ方法

指1本1本を丁寧に伸ばすとより効果的

 よく肘のストレッチ方法を聞かれるのですが、肘関節の動きは曲げ伸ばしとひねり動作という単純な動きをしますので、この筋肉群をストレッチすることが重要になってきます。具体的には前腕の内側部分のストレッチ、そして外側部分のストレッチがそれにあたります。壁などを利用して伸ばしてもいいですし、片手でもう片方の手をサポートして伸ばすことでも構いません。

 正面から見て手のひらを前にして伸ばす方法(前腕の内側部分)、手の甲を前にして伸ばす方法(前腕の外側部分)を行いましょう。また手の全体をつかむのではなく、指を一本一本丁寧に伸ばしていくとより効果的です。指から肘につながる筋肉を一つ一つ伸ばしていくと、変化球のかかりが良くなるといった思わぬ効果も期待できますよ。

片方の手で前腕を軽くおさえ、ドアノブを回すようにひねる

 また前腕部を反対側の手で軽く抑え、ドアノブを回すようにひねり動作を行うと肘の内側、外側の筋肉がほぐれます。簡単に行うことができるので、クールダウンを兼ねて入浴中などにぜひやってみてください。投球動作で疲労した筋肉がほぐれるので、こちらもオススメです。

肘痛の見分け方とフォームの問題

 投げ始めに肘に痛みを感じるケースでは、投げている間に痛みが軽くなっていくことがあります。これは肘関節周辺部や筋肉などが温まってくることによりスムーズな動きができるようになったため、さほど気にならなくなったのではないかと考えられます。このような状態の場合はウォームアップをいつもより長めにして汗を十分にかき、そこから投球動作に入っていくと良いでしょう。

 ただし投げ終わったあとに痛みが残る場合はしっかりとRICE処置を行い、肘のストレッチなども行うようにします。投球動作の始めから終わりまで痛みが変わらずにある場合は、肘関節や靱帯、筋肉などに損傷・炎症があると考えられますので、投球動作を中止し、スポーツ整形外科等を受診するようにしましょう。また体に合っていない無理な投球フォームで投げ続けると小さな関節である肘はすぐに影響を受けて痛みを発症します。

 自分が肘に負担のかからないフォームで投げているかどうか、指導者の方と一緒にチェックすることも必要になってくるでしょう。

 肘痛をガマンすればするほど、後々ケガによって長い期間練習を休んでしまうことになりがちです。適切なケアを知り、投球フォームを確認しながら肘を痛めないように心がけましょう。

【肘痛のメカニズムとストレッチ方法】●肘関節は単純な動きを行う小さな関節なので、物理的ストレスの影響を受けやすい●肘痛の出る部位には「内側型」「外側型」「後方型」がある●上体に頼った投げ方は肘へのストレスを増幅させる●壁や片方の手を使って前腕部分のストレッチを行う●投球動作の最初から最後まで肘痛が続く場合は投球をやめて医療機関を受診する●適切なケアと投球フォームの再確認をしよう

(文=西村 典子)

次回コラム公開は5月15日を予定しております。