3月16日に、スターフライヤーが東京・北九州間で就航する“黒い旅客機”1号機の機内(撮影:吉川忠行)

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“黒い旅客機”デビューまで、あと1カ月余り。3月16日午前5時30分、新北九州空港開港と同時に新規参入する航空会社「スターフライヤー」(北九州市、堀高明社長)は、第1号機「JAO1MC」を東京に向かって離陸させる。就航目前の1月に東京国際空港(羽田空港)で行われた報道関係者向け発表会で公開された“黒い旅客機”をレポートする。

 スター社が使用するのは仏エアバス社製のA320型機。米ボーイング社と世界2強体制で激しい受注合戦を繰り広げるエアバス社にとっては、2001年に日本法人を設立して以来、初めての受注機となった。12月12日、世界の民間航空機としては初めて黒に塗装した機体が仏トゥールーズで引き渡されると、スター社の堀社長を乗せて、ドバイ、バンコクと経由し、東京・羽田に着陸したという。

 漆塗りのように黒光りする機体の垂直尾翼には「SF」をかたどったロゴ、尾翼付近には「City of Kitakyushu」とのアイデンティティが白字で書かれている。ターミナルからの移動中、報道陣を乗せたバスの車窓からは、様々なイラストが描かれた機体が待機する姿があったが、“黒い旅客機”はひときわ異彩を放っていた。

 機内には、通路1列を挟んで黒革の重厚な特製シート144席が並ぶ。通常180席ある座席を大幅に減らし、エコノミークラス席より12−15センチ分の座席間のゆとりを実現。全席にフットレストが付いており、「フランスから東京まで乗ったが、十分満足できるシート」と堀社長も太鼓判をおす。シートの下には電源が設置されており、パソコンや携帯電話の充電ができるので、ビジネス客には心強い。1シートあたりのコストは他機の約3倍かけ、贅沢さを演出している。

 また、堀社長に安全性について問うと「中古機ではなく、新造機を使う点が安全性の高さのひとつ」と強調。新規参入の航空会社は中古機をリースする場合が多いが、スター社は新造機3台を投入。国際便を本格化させる09年までに1年1台のペースで追加するという。

 主なターゲットは、東京-北九州・下関間を移動する年間270万人。九州北部には、国内主要メーカーの主力工場が多数点在し、日産自動車<7201>、TOTO<5332>、安川電機<6506>など社員の年間出張回数がのべ1万回にも達する企業を擁する。今までは、至近の現・北九州空港が1日4便と少ない上に欠航が多い不便さもあって福岡空港利用が5割、新幹線(JR小倉駅)利用が3割強と散逸していた。

 そこで、スター社が日本航空<9205>とともに参入するのが、周防灘の海上に24時間営業でオープンする新北九州空港(総工費・約1500億円)。両社は同空港の潜在的需要を200万人とはじく。まもなく開通する空港への高速道を使えば、JR小倉駅からの所要時間は30分。マイカー族が多い地域性を配慮して、1泊390円の駐車場1500台分を完備する。

 また、1日12便のうち、同区間で他の交通機関にはない早朝深夜にも発着便を設定。始発は北九州発が午前5時半、羽田発が同6時5分。最終便は北九州発が午後11時半、羽田発が同11時50分になる。そのうえ運賃も、同路線を結ぶ日本航空便より2割程度、新幹線より15%安い。「5時半の便に乗って、東京ディズニーランドの始業からフィナーレの花火まで見て、最終便で帰ってくる」「東京で朝まで飲んでも、始発便を使えば会社に間に合う」(堀社長)と、同地域住民の“遊び”の形を劇的に変化させるかもしれない。

 スター社は、九州に生産拠点を抱える大手企業や九州経済界の出資を受けて、ライト兄弟が初飛行を成功させてちょうど100年目にあたる02年12月17日に設立された。機体の外装・内装、調度品、航空券から、経営スタイル、広告宣伝などに至るまで、戦略立案を手がけたのはデザイナーの松井龍哉さん。「マザーコメット(母なる彗星)」を統一コンセプトとして、クールでスタイリッシュなブランドイメージを作りあげた。

 堀社長は、発表会に集まった多くの報道関係者に対し「今までの航空会社と同じであれば、うちの会社は作る必要はない。いろんなことに挑戦しながら、『こんな会社があってよかった』という航空会社になりたい」と強調した。スター社と同じエアバスA320型機を使用し、米国同時多発テロ以降の業界不振の中で好業績をあげる数少ない航空会社の一つに米ジェットブルー航空がある。低価格運賃でありながら、フレンドリーな機内サービスやオシャレなデザインと、ジェットブルーの先進的に取り組みからは、スター社が見すえる次世代のフライトの姿を彷彿(ほうふつ)させる。北九州発の黒い旅客機は、日本の航空革命の試金石となるか?【了】

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