楽天は、三菱UFJMS証券のアナリストを「出入り禁止」にした。(写真は、楽天のホームページ)

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ジャスダック市場に上場するインターネット大手の楽天が、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のアナリストを名指しで批判し、「出入り禁止」にした。

楽天は2013年7月2日にそのことをプレスリリースで発表。これには三菱UFJMS証券も、「発行体が特定のアナリストのレポートについてプレスリリースまで出したことに驚いています」とコメントしている。

「会計知識が高くないと思われましたし、勉強してほしい」

楽天が問題視しているのは、6月21日付のアナリストレポートで、荒木正人シニアアナリストが楽天の財務状況などについて執筆した。

楽天によると、このレポートは(1)事業別の利益分析がほとんどなされておらず、分析が極めて浅い(2)業績予想に用いられた法人税率の根拠が不明(3)株主価値の算出方法がファイナンス理論の観点で誤っている――などの問題を抱えていると指摘。改めて、荒木氏と直接面談して修正を求めたが、面談後の7月1日付で公表されたレポートでは、(2)の法人税率に関する指摘が修正されただけで、他の問題点は改善さなかった。同社は「分析が貧弱」と、痛烈に批判している。

ふだん荒木氏と面会してきた楽天の財務担当者は、「別に怒っているわけではありませんし、会社の意に反するから会わないというわけでもありません。ポイントは、当社の事業分析について深くないことです。事業が多様化し、さまざまに変化していく中で(荒木氏の)理解が追いついてこなかったと思っています。以前から会計知識が高くないと思われましたし、勉強してほしいと伝えてきました。アナリスト自身の問題です」と説明する。

そのうえで、楽天は荒木氏が執筆したレポートは過去に発表されたものを含めて、投資家向けの投資判断の一助とはなりえず、投資家におかれては参考にしないよう「お勧めします」と、異例の「推奨」を行った。

さらに、今後荒木氏の取材は「一切受けない」と出入り禁止を宣告。財務担当者は「アナリストとして荒木氏とお会いするつもりはありません。ただ、(三菱UFJMS証券の)アナリストと会わないわけではありません」とし、担当替えを求めているようだ。

「出入り禁止」はフェア・ディスクロージャーに反する?

名指しされた三菱UFJモルガン・スタンレー証券の荒木正人氏は、インターネット・ITサービスなどの分野を担当するアナリストとして知名度は高い。トムソン・ロイターが発表している日本株アナリストランキングのソフトウェア・ITサービス部門では、2011年に1位になっている。

三菱UFJMS証券は、「アナリストはつねに中立的な立場から企業や市場を分析し、株価判断の材料を広く投資家に提供しています。担当アナリストは過去においても、将来にわたってもこうした考え方のもとでタイムリーに株価判断情報を提供しています」とコメント。荒木氏の処遇について、「引き続き、外部データの分析や予測をベースに適切な判断ができるのであれば、楽天をリサーチしてもらいます」と話している。

アナリストがカバーしている企業から出入り禁止となるケースは、これまでもないわけではなかった。ただ、アナリストは証券取引等監視委員会から偏った情報提供を行わないよう、「独立性」を保つよう指導されている。これに対して、企業側も「特定のアナリストにしか面談しない」などのフェア・ディスクロージャーに反する行為を禁じている。

楽天の情報開示が不十分だという指摘も業界にはあり、荒木氏を「出入り禁止」にする行為がフェア・ディスクロージャーに反するとの見方もある。