アメリカ大統領選挙で再選を果たした民主党のバラク・オバマ大統領。

一時はライバル共和党のミット・ロムニー氏に支持率で逆転されるなど、追い詰められていたオバマ氏だが、結果的には303対206という大差で勝利。

これによりオバマ政権の基盤は強固なものとなった。

では、盤石の体制で2期目を迎えることになったオバマ大統領は今後、日本に何を求めてくるのか? この再選によって日本はどんな影響を受けるのか?

「オバマはアジア重視への転換を宣言してきました。その流れが変わることはありません」と語るのは『ニューズウィーク日本版』元編集長で国際ジャーナリストの竹田圭吾氏だ。

「短期的にはイランの核保有阻止、中長期的には中国とどのような関係を築いていくかがアメリカの外交問題なんです。今、アジアの中で中国の影響力が大きくなっています。そんな中国を牽制する意味で民主主義を共有している日本と韓国の存在は重要です」

そのため日米関係は今よりさらに強固なものになっていくという。元朝日新聞政治部長で東洋大学教授の薬師寺克行氏は「アメリカは自国の経済を活性化させるためにはアジアのマーケットに依存するしかないんです」と説明する。

「中東で戦争をしたり財政危機に見舞われているヨーロッパを相手にするよりも、成長の著しいアジアに攻めていこうと考えています。そのときに中国がどう対応するかが問題です。アメリカを中心につくられた戦後の国際経済の仕組みに仲間として入ってくるのか、それとも中国が自分に都合のいい制度をつくって、アジアでの影響力をさらに大きくさせるかで世界経済は大きく左右されます」

アメリカと中国は今、そのせめぎ合いの最中なのだ。

「そこでアメリカは、中国を追い込むために日本にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に早く参加しろと言ってくるかもしれません」(薬師寺氏)

オバマ大統領が再選をきっかけに、日本のTPP参加を強く求めてくる可能性はかなり高い。

「また、中国は現在の経済成長を維持するために、南シナ海や東シナ海(尖閣諸島など)にある海洋資源を求めて領有権を主張するとともに軍事力を強化しています。そうなるとアメリカは東シナ海の問題などで日本との関係を重視して、安全保障の枠組みなどを強化してくる可能性が考えられます」(薬師寺氏)

今後、オバマ大統領は日米安全保障をより強化していくという。では、沖縄の米軍基地移設問題などに変化はあるのだろうか。

「これも誰が大統領になろうと変わらないでしょう。問題は日本の意思がアメリカに伝わっていないということです。基地移設の問題であるとか、暴行事件であるとか、沖縄で問題が起きたときに、日本はマスコミも含めて沖縄の人が怒っているとしか伝えないんです。日本国内でまとまって、代償を払っても国内から基地をなくすとか、別の場所に移すという意思決定ができていれば、アメリカは交渉にのってくる可能性があると思いますが、それができていない。特に今、日本の政治がぐちゃぐちゃでアメリカから見たら誰が意思決定をしているのかわからない状況ですから」(前出・竹田氏)

ただ、再選したオバマ大統領が日本に求めるものは、TPPの早期参加と安全保障の強化以外には、その具体的な内容がいまひとつ見えてこない。

「最近のアメリカは、日本に対して要求を突きつけて実現させるという手法をとっていません。日米それぞれが自国の利益を守るために綿密な戦略を立てる時代になっています。

アメリカの大統領が決まり、中国の国家主席も代わります。そして12月には新しい韓国の大統領も決まります。この数ヵ月で日本を取り巻く大きな国のトップが次々と代わるわけです。そして2013年にはその新しいリーダーが自国の政策を展開する年になります。

しかし、日本はその大事な年の1月か2月に総選挙があるかもしれない。7月には参院選がある。国会はねじれていて権力闘争という足の引っ張り合いばかりやっている。同じタイミングで生まれた世界の新しいリーダーたちから『日本はどうする?』と問われたときに『その問題は選挙が終わってから』なんて言っていたら、無視され置いてけぼりになります。日本に何が求められているかを気にする前に、経済や安全保障の分野で何をするのかを打ち出すほうが先ですね」(前出・薬師寺氏)

オバマ再選でアメリカが日本に一番求めているのは、TPPの参加でもなく、日米安保の強化でもなく、来年に向けての年内解散総選挙なのかもしれない。野田首相、どうします?

(取材・文/村上隆保)