真実は小説より奇なり。
 そんな表現をしたら失礼なのかもしれないのが、そう表現したくなるような戦いを繰り広げているのが、ロンドンオリンピックを戦うU-23日本代表だ。

 スペイン、モロッコに連勝し、早々に決勝トーナメント進出を決めると、グループリーグ最終戦でホンジュラスと引き分けて、グループ1位で決勝トーナメントに駒を進めた。グループ2位になるとブラジルと対戦することを考えれば、負けが許されない状況だったが、その中でグループ1位を勝ち取った日本を高く評価したい。

 それも3試合で失点は0である。守備の拙さがウィークポイントと言われたチームは、オーバーエイジを加えて、わずかな期間で見事に生まれ変わった。勝てば官軍負ければ賊軍というが、まさにそれである。関塚監督の采配により、以前の人選も、今となっては全てがベストチョイスだったと言わざるを得ないだろう。
 
 日本の初戦は優勝候補の呼び声が高かったスペインだった。先日のユーロ2012のメンバーからハビ・マルティネス、ジョルディ・アルバ、マタが加わり、大きな期待を集めていた。一方の日本は、オーバーエイジではない香川真司、宮市亮を招集できず、オーバーエイジもGKの林彰洋を招集するなど物議を醸していた。大会直前のテストマッチでも、本大会に出場しない選手を起用するなど、関塚監督の采配を疑問視する声も多かった。しかし、その全てをスペイン戦での勝利で封印することになった。

 大会前の日本は、攻守で見た場合、明らかに《攻撃的なチーム》だった。すでにヨーロッパでプレーしている大津祐樹、宇佐美貴史、今シーズンJリーグで覚醒中の齋藤学、テストマッチで頭角を現した杉本健勇、清武弘嗣、東慶悟、そして永井謙佑。選出されなかった宮市、香川はもちろんだが、原口元気、高木善朗、指宿洋史、水沼宏太とこの世代の攻撃陣は高いポテンシャルが売りである。

 ところが守備となると、不安要素が多く、この世代の代表チームを遡っていっても、アジアで競り負けてしまい、世界大会に駒を進めることができなかった。《谷間の世代》と呼ばれるところは、2001年のワールドユース日本代表、そしてアテネオリンピックの代表と雰囲気的に似ている。もっとも、アテネオリンピックの選手たちがその後活躍していないかというと、そうではなく、前田遼一は現在代表のレギュラーだし、闘莉王や駒野友一は2010年のワールドカップでは欠かすことのできないメンバーだった。

 さて話がそれてしまったが、スペイン戦に話を戻すことにしよう。
 自慢のテクニックを駆使して、スペインが高いボールポゼッションで日本を圧倒することは予想できることだった。実際、試合が始まると、展開はその通りだった。しかし、日本はそれを臆することなく、敵陣でもハイプレッシャーでプレスをかけ続けたのだ。

 リトリートして、スペインにボールを回されれば、いつか守備網を突破されてしまう。前線から守備をするのであれば、チーム全体がオートマチックに動かなければならない。前の選手の動きを見て、ボールの流れ、こぼれるところを後方の選手たちは予測する。ボールが奪えなくても、じれることなく、スペインのボールが縦に動くことを阻止し続ける。功は奏していた。スペインはボールを縦に入れることがなかなかできなかった。もっとも、スペインも慌てることはなく、時を待ち、日本にプレスを受けても、右に左にボールを動かしてボールポゼッションを保ち続けることに徹していた。まるで「これを続けていれば、いつか点はとれる」と言っているかのようだった。

 では日本はこれにどう対応したのだろうか? ボールを回され続けても、前線からのプレッシングを休めることはなかった。逆に日本のプレーを見ていると、「いつか必ず、チャンスは巡ってくる」とスペインに真っ向から向かって行っているようにさえ感じさせた。