最優秀選手には小西美加(兵庫)。2年連続の最多勝(16勝)だが昨季の9勝から7つも上積みし球界のエースとして君臨した

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 日本女子プロ野球リーグは23日、京都市内でコンベンションを開催し、各タイトルの表彰を行った。最優秀選手(MVP)には、小西美加投手(28)が選ばれた。

 小西は、今季26試合に登板し16勝5敗3セーブ、55奪三振で最多勝、最多奪三振のタイトルを獲得。また打者としても、リーグ初の柵越えホームランを放つなど兵庫スイングスマイリーズの連覇に貢献した。

 小西は「今シーズンの目標はMVPでした。女子野球の発展を考えながらプレイしないと獲れない賞なので、自分がどんな立場にあるか考えながら思いっきりやってきた。泣きそうなぐらい嬉しい」と喜びを語った。
 
 また、小西をはじめ、兵庫、京都から8人が移籍し、新設される3球団目のチーム「大阪ブレイビーハニーズ」のユニフォームが披露され、合わせて各球団の新入団選手17人の紹介も行われた。

 これで日本女子プロ野球リーグの2年目のシーズンがすべて終了。来季は3月26、27日、京セラドーム大阪にて開幕戦を行う。

主な受賞者は次の通り
□首位打者
  川端友紀(京都アストドリームス)4割6厘(2年連続)
□最多打点
  川保麻弥(兵庫スイングスマイリーズ)30打点(2年連続)
□最多本塁打
  小西美加(兵庫スイングスマイリーズ)2本(初受賞)
□最多盗塁
  厚ヶ瀬美姫(兵庫スイングスマイリーズ)17盗塁(初受賞)
□最多勝利
  小西美加(兵庫スイングスマイリーズ)16勝(2年連続)
□最優秀防御率
  荒井蛍(京都アストドリームス)1.79(初受賞)
□最多セーブ
  塩谷千晶(兵庫スイングスマイリーズ)7セーブ(初受賞)

 今季のタイトル表彰とともに、3チーム目となる新球団のお披露目、17名の新人選手の紹介があった。所属選手も増え、リーグは拡大へ。2年目の今季も観客数は11%の伸びとなり順調に成長している女子プロ野球と言っていいだろう。しかし、その裏では4人の選手が退団する。

 兵庫スイングスマイリーズから戦力外通告を受けた深澤美和(25)もその一人。「残念ですが、力が足らなかったということでしょうね。動けるし怪我をしているわけでもないですから、まだやれると悔しい気持ちもありますが…」

 彼女のプレイを初めて見たのは6年前。愛知県の中京女子大(現・至学館大)は女子硬式野球部を創部。女子単独チームとして全国で初めて男子大学リーグに参加した。前代未聞の挑戦は、ただ野球がしたかった女子学生の気持ちは置き去りに、メディアの希有への興味を誘った。さらに選手のほとんどが野球未経験者で、男女間の実力差以上のものを抱えていた。そのチームのキャプテンが深澤だった。

 チームで最も経験があった彼女は、153cmの小さな身体でピッチャー、内野手と孤軍奮闘し、主将として仲間を引っ張っていった。しかし、毎試合20点を超える失点、素人チームで戦う難しさ、喧騒なメディアから、彼女の顔に笑みがあることがまれとなった。

 よく覚えている試合がある。その日はどんよりと黒い雲が空一面に立ち込め、グラウンドの黒土と相まって、いるだけで暗くなるような日だった。

 試合はいつものように1点も奪えない中、2回までに10点以上の失点。以後も毎回、相手チームの打順は一巡した。その上、中盤を過ぎると、ぽつぽつと雨も落ちてきた。ボテボテのゴロもポップフライもアウトにすることができず、前進守備を引こうが、ピッチャーを替えようが意味はなかった。野球にギブアップがない事がもどかしくもなっていた。

 それはダイヤモンドの中も同じだった。中京女子大の選手は戦う意欲をなくし泣きそうな顔をしており、相手チームも攻撃に疲れ、投げやりになっていた。しかし深澤だけは違った。口を真一文字に結び、しかめっ面で、試合を諦めても投げやってもおらず、ひとりファイティングポーズを取っていた。

 30点以上取られ敗戦となったが、終わってからも一切表情を崩すことはなく悔しさが全身に表れていた。

 チームは1勝も挙げることができず、深澤は大学を卒業。結果は残せなかったが、彼女のプレイ、野球への姿勢は自ら道を切り開き、プロフェッショナルプレイヤーとなった。また、その道を後輩たちが続いていく。1学年下の後輩、奥田実里(24・兵庫スイングスマイリーズ)は同時に女子プロ野球の世界に入り、3学年下の後輩、大澤靖子(22)は来季から大阪ブレイビーハニーズでプレイする。大澤は話す。「私は大学に入った時に、深澤さんのショートのプレイを見て、『わぁカッコイイなぁ、野球っていいなぁ』と憧れて野球部に入りました。深澤さんに直接言ったことはないですけどね(笑)。大学時代に、深澤さんがショート、私がサードで守ったこともありましたが、また一緒に野球がしたかった。とても残念です…」

 プロとしては2年間の選手生活だったが、この小さいながら、自分に厳しく努力できる彼女が、女子野球のひとつの道を切り開いたことは間違いない。

 今後は指導者の道へ進むことが決まっているという。また、どこかのグラウンドで会うこともあるだろう。「ありがとうございました。またお願いします」握手した顔は朗らかに晴れ晴れと笑顔だった。


(取材・文=小崎仁久)