中国の真実が読める入門書の決定版。オビに描かれた女の子が本作の主人公の1人、境明日香(日本人)。中国拳法と中国文化にあこがれている。

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毒ギョーザが世間を騒がせている昨今、中国製食品の安全性に対する関心は高まるばかりであります。未だに原因は特定されていませんが、以前から中国に不信感を抱いていた人々の間では「起こるべくして起こった事件」との認識も根強いものがあるようです。私も以前から「中国はヤバイ(悪い意味で)」という思いがありましたが、それは中国の実像を漫画で描いた作品からの影響が大でした。そんなわけで、今回は中国関連の社会派レポート漫画を紹介してみたいと思います。

■『そして中国の崩壊が始まる』
原作:井沢元彦・漫画:波多野秀行
発行:飛鳥新社(初版発行:2006年8月)
<オススメ度★★★★★>

現在発売されている中国の実情を描いた漫画の中では、個人的にこれが一番だと思います。きちんとキャラクターが立てられているので、普通に漫画としても面白いところがポイント。中心人物は中国文化に憧れる女の子と、中国を研究している社会学者。この2人のやりとりが中心となって物語が進行し、中国の現実が浮き彫りにされていきます。また、隠れキリシタン(※1)の中国人女性が魅力的に描かれるなど、全ての中国人が悪いわけではないというスタンスを打ち出しているところも、入門書としてオススメできる点です。
(※1)中国の隠れキリシタン:中国は信仰の自由を基本的には認めていない(共産党は無神論)。キリスト教徒が多い欧米に配慮して、表向きはキリスト教を認めているが、実際は弾圧している。
中国の真実が読める入門書の決定版。オビに描かれた女の子が本作の主人公の1人、堺明日香(日本人)。中国拳法と中国文化にあこがれている。中国の終焉」という表現にリアリティを感じる今日この頃。「中国の毒野菜が次々と日本に!」という記述がオビの最初の項目にあるのが印象的。

本書は発行された1年以上前のタイミングで話題の農薬「メタミドホス」に関する記述があるなど、見所は多いのですが、全貌は是非読んで確認してみてください。ここでは参考までに、本書に書かれている中国の問題点をいくつか書いてみます。
中国には報道の自由がない
中国では政府の許可なくして取材はできない。無許可で取材を行えば即逮捕。

中国の環境汚染は歯止めがかかっていない
※国産野菜からは、安全基準を超えた「メタミドホス」などの残留農薬が検出されている。公害の影響により、大量の奇形生物が発生。中国からの有害物質による日本海の海洋汚染が進行中。

●原則として中国以外を国と認めないのが「中華思想」
中国以外の地域に住む人間は全て「野蛮人」(無論、日本人も含む)。

●「儒教」が政治体制の中の「中華思想」を加速させた
※儒教には"万人平等"という思想がない。民衆はエリートに従うしかない。

●独立国チベットに対する民族浄化が現在も進行中
※秘密文書によれば、1959〜1960年に中国当局に殺されたチベット人は、8万7000人にも及ぶ(中央チベットのみで)。現在も漢民族が中央から続々と送り込まれ、チベット人の比率を減らす民族浄化が行われている。

中国共産党は、日本に核ミサイルの照準を合わせている
※日本が中国に対して行った総額約3兆円のODAは、核ミサイル開発などの軍事費に転用されている。これに協力した日本の政治家は「売国奴以下」。

以上のような事柄が、過去の事例や、中国独自の思想を踏まえた上でわかりやすく解説されていきます。現在の中国は、一部の特権階級だけが潤う歪んだ社会であり、いつか必ず崩壊するという本書の結論には説得力があります。

また、本編の番外編として数ページ差し込まれている『金もないのに中国に行った』という旅行記も必見。漫画を担当した波多野氏が、原作者である井沢氏に
「ハタノさん、もう中国行けませんよ。本が出たら中国ににらまれますからね」
と言われ、一念発起して
「借金して中国に行くことにした!!」
という流れで中国旅行が始まるのですが、当然普通の観光旅行にはなりません。

ブランド品のコピーはグレード別に3ランクに分かれているとガイドに教わったり、北京名物の大気汚染でアトピーが出たり、波多野氏はまさに中国ならではの旅を実体験。このように作者が相当な覚悟を決めて制作された本なので、なるべく多くの人に読んでいただきたいと願う次第です。

■『アブナイ! 中国
編・著:曙機関
発行:宝島社(初版発行:2006年12月)
<オススメ度★★★☆☆>

この本は、中規模程度の書店でもたまに見かけますので、ご存じの方もいるかと思います。具体的な制作スタッフは不明で、編・著「曙機関」とだけ書かれています。中国ネタの取材は色々と危険を伴うので、これはスタッフの面々を守るための処置なのでしょう。
この本が、ネットで話題沸騰だったかどうかはよく知りませんが、刺激的な内容であることは確か。何気に軍事ネタにも力が入ってます。税込で千円という価格設定は、3冊の中で最もリーズナブル。曙機関は、他にも『漫画 奪還を命ず』という拉致被害者の救出を扱った本も出してます。

本書は、日本人が中国人に振り回されるエピソードが多くなっています。漫画として見ると、全体的に絵柄は荒削りな感じで、コマ割などの構成も今ひとつな印象。複数の漫画家が起用されている影響で、各章ごとの仕上がりにムラがあるのが気になります(絵柄が変わる程度なら文句はないんですが……)。ただ、描かれたエピソードは生々しいものが多く、読み応えはあります。本書の内容は以下のようなものです。
●農民は社会の最下層
中国では「農民」は「貧困層」と同義語。そんな農民が全人口の約8割を占めている。

●男女の出生率は2:1
※超音波検査で妊娠中の子供が女の子だとわかると、約半数の親が中絶する。これは中国の「一人っ子政策」の影響。

中国は生粋の軍国主義国家
※共産党の指導者がその気になれば、いつでも戦争を始められる。その戦争がどれだけ理不尽なものでも、国民から追求されることはない。

中国人自身が中国の経済発展を信じていない
※2004年8月、中国新聞社の報道で、4千人の政府高官が海外逃亡し、500億ドルの公金が持ち逃げされたことが発表された(あくまで中国政府が犯罪として認めた数)。

中国問題の本質部分が、よく表現されている本だとは思います。ただ、記述ミスらしき部分があったので、その分評価は若干下がってしまいました。それは「中国は満足に食料の自給ができず、WFP(世界食料計画)から食料援助を受けている」という部分で、援助は「2006年の今日まで」受けていると書かれていましたが、気になって調べてみるとWFPの援助は「2005年一杯」で打ち切られていたことが判明。

これはおそらく単純な校正ミスだと思われますので、再販の際は是非とも修正をお願いしたいところ。こういう中国ネタの漫画は、まだまだ種類が少なく目立ちますので、なるべく気を使っていただきたいものです。