『俺たちのガンダム・ビジネス』の表紙。逆光の中そびえ立つガンダムが印象的。

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最近はビジネス書の中にもアキバ系のアンテナに引っかかるものをチラホラ見かけます。「萌え●●」というのもありますが、今回はもう少し硬派な路線を攻めてみたいと思います。テーマは「ガンプラ」と「デスマッチ」。読者限定上等でお送りします。


■『俺たちのガンダム・ビジネス』
著:松本悟/仲吉昭治 発行:日本経済新聞出版社
発行時期:2007年10月

著者の松本悟氏は、バンダイ模型(※1)でガンダムのプラモデル化を企画した、ガンプラ開発の仕掛け人。本誌の内容の多くは、この松本氏の視点で書かれています。もうひとりの著者・仲吉昭治氏は、ガンダムの版権交渉を行った人物。版権交渉以後はガンプラとの接点はなくなり、あとがきでも「ガンダムとの関わりは一瞬の出来事だった」と書かれていますが、仲吉氏の働きはガンプラ誕生を語る上で非常に重要です。
(※1)バンダイ模型:1971年に設立された「株式会社バンダイ」の子会社。正式名称「株式会社バンダイ模型」。ちなみに現在、バンダイのプラモデル事業は「株式会社バンダイ」内の「ホビー事業部」で行われている。

『俺たちのガンダム・ビジネス』の表紙。逆光の中そびえ立つガンダムが印象的。


『俺たちのガンダム・ビジネス』は、バンダイが模型部を発足(1967年)し、模型業界に参入したばかりのころから語られていきます。参入当初は「バンダイは所詮おもちゃ屋、おもちゃ屋に模型は無理」と業界内外から言われるような状況だったようです。

ガンプラ第1号である「1/144ガンダム」が発売されたのは1980年7月。模型部発足から13年が経過していました。それまでもバンダイは『サンダーバード』や『宇宙戦艦ヤマト』といったキャラクターモデルのヒット商品を出していたものの、ガンプラ・ブーム以前の売れ筋はあくまでミリタリーモデルでした。特撮やアニメを素材としたキャラクターモデルは、決して売れ筋のカテゴリーではなかったのです。

その流れを変えることとなるガンプラ誕生のきっかけは、『機動戦士ガンダム』の商品を出してほしいというユーザーからの手紙でした。その多くは名古屋や東京の高校生・大学生からの熱心な手紙で、これにヒントを得た松本氏は『ガンダム』に関する情報収集を始めます。当時バンダイ模型のあった静岡県では『機動戦士ガンダム』は放映されておらず、わざわざ東京に出てテレビ放送を見たり、当時発売されていたダイカスト製の玩具を購入してみたりと、企画提案までに様々な調査が行われました。

企画進行当時、特販部次長という立場にあった仲吉氏が取り組んだ「ガンダムの商品化権」をめぐる攻防は、本誌における大きな見所のひとつです。バンダイのライバル会社であるタカラと密接な関係にあった創通エージェンシーから、商品化権を取得するに至った経緯はまさに必見。これは是非実際に読んでみてください。

ガンダム獲り」に成功したバンダイ模型は、具体的な商品開発に取りかかります。エース設計者の手により製作されたガンダムには、ミリタリーモデルから発想を得た「1/144」という国際スケールを採用するという画期的な試みもなされました。発売当初は思ったよりも売れずに苦戦を強いられたものの、ガンダムの劇場作品公開決定の発表が追い風となり、徐々にガンプラはブームの片鱗を見せるようになっていきます。

同書はこの後、ガンプラ・ブーム時の現場の混乱や、ブーム収束以降のロングヒット戦略などにも言及していきます。個人的には「1/144量産型ザク」が複数買いによる影響で「シャア専用ザク」よりも品薄になったというエピソードや、"マイナーな機体すら商品化。当時からすれば奇跡の「1/144ズゴック」"という写真の注釈にグッとくるものを感じました。

購入前は、ガンプラ・ブームをネタにした、アキバ系向けの"なんちゃってビジネス書"かなと思っていたのですが、読んでみるとかなり硬派な内容で驚いてしまいました。写真資料等もなかなか充実していて、各種プラモデルの完成写真や「1/144ガンダム」の案図、マンガ『プラモ狂四郎』のワンシーンなど、資料的価値も感じさせてくれます。

基本的にガンプラ・ブームや、ガンプラそのものを理解している人向けの内容になってますので、誰にでもオススメできる本とはいえませんが、少なくとも社会人のガンダムファンなら、読んで損はないと思います。

ちなみに著者の松本悟氏は、現在「サンライズ取締役」と「バンダイチャンネル代表取締役」を兼任しています。仲吉昭治氏は、東証マザーズ上場のテレマーケティング会社「株式会社ジー・エフ代表取締役」です。両人とも発言に遠慮がなく、松本氏が"今のバンダイの体制はある意味問題がある"と言っていたり、仲吉氏が“当時の創通エージェンシーの担当者はバンダイ模型の出る幕なしといった論調だった”といった旨の軽い恨み節(?)を言っていたりする部分も素晴らしいです。