各地で販売されている駅弁のなかには、本格的な陶磁器から、キャラクターものの弁当箱まで、中身だけでなく器でも楽しませてくれるものがあります。実は相当使える、容器に凝った駅弁を紹介します。

駅長が仕掛けた「有田焼の駅弁」

 全国の駅弁のなかには、容器に凝りに凝ったものも。弁当を食べたあとの普段使いを想定したものも、少なくありません。


有田駅の駅弁「有田焼カレー」(宮武和多哉撮影)。

 たとえば、有田駅(佐賀県有田町)の「有田焼カレー」は、カレーライスを駅弁にするという点も珍しいですが、江戸時代からこの地で製造されている有田焼の磁器が容器に使われています。この駅弁を作っているのは、有田駅から2kmほどの位置にある「創ギャラリーおおた」。有田焼の器を楽しむギャラリーに喫茶店が併設された店舗です。

 同ギャラリーは1996(平成8)年に開店し、1年後には有田駅前にも出店、カレーが評判になりました。開店から10年を経たころ、有田駅長として着任した西田辰実さんがこれに目をつけ、街おこしのため「おおた」のカレーを詰めた「有田焼の駅弁」の開発を提案しました。この西田さん、有田駅の前の佐世保駅長時代には、「佐世保バーガー」ブームの立役者になるなど、街おこしや観光に多大な貢献をした人物です。

 そして、直径16cmほどの有田焼の器に、ご飯とカレールーが混ざらないよう層をつけて盛り付け、チーズをかけて焼き上げる「有田焼カレー」が完成します。2007(平成19)年のゴールデンウイーク、多くの人が有田を訪れる毎年恒例の「有田陶器市」に合わせて売り出されました。

 結果は大ヒット。現在もこの「有田焼カレー」のために駅を訪れ、待合室で頬張る鉄道ファンの姿が見られます。また、有名百貨店のいわゆる「駅弁大会」に出品すれば、1週間に1万個以上が売れる人気ぶりです。食べ終わった器はもちろん、食器として使えます。

手堅く喜ばれる? マンガ・アニメ駅弁

 実は、有田焼を器に使った駅弁はほかにもあります。しかも、九州の有田から離れた山陰地方に。鳥取駅の「ゲゲゲの鬼太郎丼」「ゲゲゲの鬼太郎茶漬け」は、鳥取出身である水木しげるさん原作の『ゲゲゲの鬼太郎』に登場するキャラクターのイラストが描かれた、有田焼の器に盛り付けられています。両手に持つとしっくり収まるくらいの小ぶりな容器です。

 丼やお茶漬けを食べ進めていくと、器の底から妖怪などが見えてくる様は、いかにも可愛らしいものです。器のデザインはこれまで7回変わっており、何度も買っているコレクターもいます。


「ゲゲゲの鬼太郎茶漬け」第8弾の器デザイン(宮武和多哉撮影)。

 有名百貨店のいわゆる「駅弁大会」などでは、マンガやアニメ柄の入った駅弁もよく売れます。食べた器を、子どもの弁当箱として使用するという需要もあるからで、代表格としては、やなせたかしさんのキャラクター「アンパンマン」をかたどった水筒がふたに付いた高松駅の「アンパンマン弁当」や、サンリオのキャラクター「キティちゃん」をかたどった器の岡山駅「ハローキティまつりずし」などが挙げられます。これらを製造する三好野本店(岡山駅の駅弁事業者)は、現社長の若林昭吾さんがサンリオと関わり深く、大のキティちゃんファンとあって、器も可愛らしい出来栄えです。

 また、鉄道車両をかたどった器の駅弁も、子どもに人気です。最近であれば秋田駅の「秋田新幹線E6系こまちランチ」、新宿駅「京王電鉄9000系弁当」、変わり種では、前出の三好野本店による岡山駅「ハローキティ新幹線弁当」「ブラックシンカリオン弁当」など、枚挙にいとまがありません。

「器の再利用」への飽くなきこだわり? が詰まった駅弁も

「食べた後も容器を使える」駅弁として有名なのは、横川駅(群馬県安中市)の「峠の釜めし」でしょう。1958(昭和33)年に発売されたこの駅弁は、「寒さと『からっ風』が厳しいこの土地で温かく家庭的なものを」との想いから、温かい弁当を提供すべく、保温性に優れた益子(ましこ)焼の釜めし容器が採用されました(近年は一部で紙容器の場合あり)。

 この容器はちょうど1合ぶんの炊飯が可能で、その方法は製造元である「おぎのや」のウェブサイトでも紹介されています。慣れると、火を強くするタイミング次第で固さや食感も自由自在、ご飯におこげを作ったり、ごま油を流し込むことで、香りを引き立たせるといった応用も可能です。また、植木鉢として再利用することを想定し、器の底に排水用の穴を空けやすくなっており、この構造は実用新案も取得しています。


2019年1月に京王百貨店で開催された「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」で、復刻版が販売された「特急列車ヘッドマーク」弁当(宮武和多哉撮影)。

 駅弁容器を“弁当箱として”普段使いできるものといえば、「特急列車ヘッドマーク弁当」です。往年の国鉄・JRの特急列車ヘッドマークを容器の蓋にプリントしたもので、2017年の第1弾「ひばり」を皮切りに、これまで9種類がJR東日本の主要駅で限定発売されましたが、すぐに売り切れてしまうため、復刻版が販売されることもあります。

 この容器は、数々のキャラクター弁当箱を製造するスケーター社(奈良市)製。ふたの4点止めができて密閉性も高く、弁当箱としての機能も高いものです。