「Instagramで「いいね!」が1,500万、たった1本の「木の写真」が浮き彫りにした森林再生の課題と現実」の写真・リンク付きの記事はこちら

Instagramで、植林についてのある投稿が注目されている。まったくのダークホースだった存在が、あっという間にInstagram史上で多くの「いいね!」を集めた投稿の上位にランクインしたのだ。

4月22日に投稿され、わずか数日で約1,430万の「いいね!」を集めた[編註:5月20日時点で1,550万を超えている]。これはジャスティン・ビーバーとヘイリー・ボールドウィンの婚約の写真より多いだけでなく、カイリー・ジェンナーがこれまでに投稿したどの娘の写真よりも多い(ただし、彼女のいちばん最初の投稿写真は別だ。爪がきれいに整えられた小さな手を見てほしい)。

この投稿は、環境への配慮を売りにしているアパレルメーカー、テンツリー(Tentree)によるものだ。この木の絵文字が散りばめられた投稿は、「『いいね!』10個につき1本の木をインドネシアに植えます」と約束していた。わずか数語の文を読んで、小さなハートをタップするだけで地球を助けられるという提案を断わる人などいないだろう。

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森林再生のあるべきアプローチ

もちろんテンツリーは、この投稿の拡散によってビジネス上の利益を得られる。フォロワーが増えて露出が高まれば、おそらく売り上げも増えるだろう。もちろん企業が自発的に植林すれば、それは当然ながら世界の森林再生を支援することになる。

そうは言っても本当の森林再生は、Instagramの投稿に「いいね!」をすれば済むという簡単なものではない。大量の木を植えればそれで終わり、というものでもない。SNSにセレブたちが投稿する入念に練り上げられた写真と同様に、現実ははるかに複雑だからだ。

森林再生には、いくつかのアプローチがある。ひとつは天然更新という手法で、森林伐採地域がさらなる伐採を受けないように守れば、自然に再生するというものだ。自然保護団体「ザ・ネイチャー・コンサーヴァンシー」で森林炭素科学担当ディレクターを務めるブロンソン・グリスコムは次のように語る。「何も植える必要はありません。ただ森林を破壊するのをやめればいい。燃やすのをやめ、田畑にするのをやめ、伐採するのをやめればいいのです」

この戦略を少し変化させたのが天然更新補助という手法で、果樹などの特定の種を戦略的に植えることで、森林の再生に弾みをつけるものだ。「果樹があれば鳥が来るようになり、ほかの場所から種を運んできてくれます」とグリスコムは言う。鳥がフンを落とすことで種が運ばれ、いずれその地域に変化が生まれる。「すべての種類を植える必要はありません。主要な種をいくつか植えれば、森林に多様性が戻ります」

地元住民を森林再生に引き込む取り組み

だが、これは始まりに過ぎない。もっと大規模な介入がない限り、森林破壊が今後も続く地域もあるだろう。それは持続不可能な伐採のやり方に介入して抑制することを意味するが、これも簡単なことではない。地元住民の生計手段を考慮に入れなければならないからだ。

例として、ザ・ネイチャー・コンサーヴァンシーがブラジルで実施している取り組みを見てみよう。ブラジルの森林にとって最大の脅威は、大小の「牧場経営」だ。小規模な牧場で育成された子牛たちは、大きな牧場に引き渡され、そこで成牛たちが育てられる。

大規模な牧場の経営者に働きかけることは、比較的容易だ。きちんと説明すれば、森林の重要性を納得してもらえる。「手こずるのは、小さな土地しかもたない大部分の牧場経営者の説得です。こうした人々にとって選択肢はそれほど多くないからです」と。グリスコムは言う。

そこでザ・ネイチャー・コンサーヴァンシーは、こうした牧場経営者がカカオ農業に切り替えられるよう支援している。カカオが優れていると言えるのは、日陰でもよく育つところだ。このため、日光を確保するために森林を伐採する必要がなく、農場を森林に組み入れることができる。

さらにいいことがある。こうした種類の農業は実際に生物多様性を高め、土壌の肥沃度を向上させることが、研究によりわかっているのだ。

持続可能な伐採を支援することの意味

植林による森林再生は、ほんの手始めにすぎない。「これは何かを『やる』というよりも、むしろ何かを『やめる』ことです。何かをやめるなら、どんな仕事をするのかという話になります。つまり、誰かの生計手段を変える方法を考え、ほかのことができるようにする必要があるのです」

ときにそれは、奇妙な相手との連携を意味する。その相手とは伐採会社だ。ある土地を伐採する契約を伐採会社が結んでいる場合、それを持続可能性のある方法で実施してもらうのだという。

「ルールに則って持続可能なビジネスを行い、森林から長期的に利益を得ていくことに関心をもつ伐採会社は、非常に多様性の高い熱帯林を持続的に伐採しながら、ほぼすべての種を維持できているという経験的な証拠があります」と、グリスコムは述べる。「ルールを守らない伐採業者を締め出すだけでなく、こうした業者が持続可能なビジネスのやり方を見つけられるよう支援すれば、味方につけることができます」

確かに、やや大雑把な感じはするが、どちらにとってもメリットのある話だ。自然保護論者たちは、手つかずのままではないものの、環境を非常に健全な状態で維持できる。持続可能な伐採を行う会社のほうは、認証付きの木材を高い価格で売ることができる。

「地球上で最も環境的に進んだブランド」を目指して

テンツリーはインドネシアにおいて、地震による津波で壊滅的な被害を受けた海岸のマングローブ林と、薪や住居を求める地元民によって破壊された森林の再生を支援しているという。確かに同社の規模は、巨大な伐採会社ほど大きくはない。

しかしテンツリーは、木を植えればそれで終わりではないこともわかっている。これは同社にとって初めての森林再生という大仕事ではないからだ。同社はこれまでに、世界中で2,900万本の木を植えており、2030年までに10億本を植えたいのだという。

テンツリーの最高経営責任者(CEO)デリック・エムズリーは次のように語る。「これまでに学んだのは、大規模な森林再生プロジェクトを定着させて大きな影響をもたらすには、地域社会を巻き込む必要があるということです。それはつまり、植林に地元住民を雇用し、教育の場に参加させることです。木を植えることが重要な理由と、将来の森林伐採を阻止する方法を教えるのです」

テンツリーはまた、森林を再生する特定の場所の警備に、最大で3年間資金を拠出するという。今回のInstagramによるキャンペーンの規模で、植林費用がどのくらいになるのかはわからないとしているが、100万本という上限は設定されている。

テンツリーは自社サイトで、「地球上で最も環境的に進んだブランド」になりたいと宣言している。今回のキャンペーンによってTシャツやパーカーの売り上げが増加し、フォロワー数が増大する可能性もあるだろう。

SNS分析会社のSocialBladeによると、4月下旬時点のフォロワー260万人には、キャンペーン開始以降に増えた約30万人が含まれているという[編註:5月20日時点では270万人に増えている)。ちなみにテンツリーは今回のキャンペーンの準備段階で、Instagramの投稿を数千枚削除している。「当社に向けられていたすべての注目を、この投稿の影響に集中させることが目的です」と同社は説明している。

誰もが理解していること

だが、鮮やかな緑色の背景に苗木が描かれたシンプルな四角い画像には、捉えられていないことがある。それは、このプロジェクトを成功させるには、さまざまな「微妙な問題」に対処しなければならないことだ。そして地球規模の森林破壊問題では、こうした微妙な問題こそが重要になる。森林保護とは地域経済に手を加えたり、ときには伐採業者を味方につけたりすることも意味する。

だが、「いいね!」を押したインスタグラマーたちもテンツリーも、自然保護論者たちも、きちんと理解していることがある。それは、地球の健全さにとって森林再生が不可欠ということだ。

「こうした活動を実行に移す方法はいくらでもあると考えているという点で、わたしは楽観主義なのでしょう。かなりの頑張りが必要ですが、そのメリットは数え切れないほどあります。水質の向上や空気の浄化、そして生物多様性は言うまでもありません」と、グリスコムは言う。

もちろん二酸化炭素の回収効果もある。植物は大気中に存在する大量の二酸化炭素を吸収してくれるのだ。それがジャスティン・ビーバーの婚約の写真よりも重要であることは間違いないだろう。