経済成長が続き多くの日本企業も進出する中国、東南アジア。現地採用されて、アジア圏で働くことに目を向ければ、転職の選択肢はグンと広がる。

■英語力よりも日本のビジネスマナー

経済成長が頭打ちの欧米諸国や日本に比べ、やや鈍化したとはいえ中国、そしてタイ、マレーシアなどアセアン諸国は経済成長のまっただ中にある。日系や外資系企業が多く進出して大きな雇用市場が生まれ、日本で働いているビジネスパーソンを求めている。

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海外への転職と聞くと、英語がペラペラでMBAを持っているエリートがするものと考えがちだが「アジアへの転職の場合、国内で働いてきた普通のビジネスパーソンのほうが重宝される傾向にある」と話すのは、『セカ就!世界で就職するという選択肢』の著者で、スパイスアップ・アカデミア社長の森山たつを氏。しかも「アジアのどこの国でも、日本人に来る求人の8〜9割は日系企業のもの。日系企業との取引が多いため、ハイレベルな英語力や現地語力よりも、日本的ビジネスマナーが重要視されます」(森山氏)。

ところで海外で働くには、駐在員候補として日本で雇われて海外に赴任する「駐在員」と、現地で採用されて現地法人に転職する「現地採用」がある。海外駐在で多いのは社内でキャリアを積んできた人が抜擢されるケースだが、駐在員にかかるコストが高いことや現地でも優秀な人材が採れるようになってきたことで現地採用が増えている。さらに、会社を現地人に任せる「現地化」のために、その中間に立つマネジャー的な人材が必要なこともある。

海外転職を実現するにはどのようにしたらいいのか。現地採用を目指すのであれば、日本の人材会社の現地法人である「転職エージェント」を活用するのが便利だ。

「海外就職を成功させる人の9割は、私たちのような『転職エージェント』を利用しています」と話すのはネオキャリアのグループ会社で中国やタイ、マレーシア、インドなどアジア10カ国・地域に人材紹介の現地法人を置くリーラコーエンの代表・内藤兼二氏だ。転職エージェントは求人サイトとは異なり、担当者と相談しながら転職先を決められる。転職エージェントの場合は「無事に入社してもらうまで報酬が入らない」ため内定前はもちろん、内定後のサポートも対応してくれる。

「現地採用の場合の一次面接は、スカイプなどを使って日本国内で行う場合が多い。二次面接は基本的に現地で行われますが、私たちは面接のアドバイスや現地の情報を提供しています。採用側に真剣さを伝えるためにも、生活環境を知るうえでも現地に足を運ぶほうがいいでしょう。面接官はわざわざ異国から働きにきて、きちんと働いてくれるのか、労働ビザを取ったもののすぐに日本へ帰ったりしないかを気にします。『なんでこの国、この会社を選んだのか』を聞かれるケースが多いのできちんと準備しておきましょう」(内藤氏)

■“EV”バブルの中国技術者の囲い込み

現地採用の給料は、「国や職種によって様々ですが、一般的なホワイトカラーとしてインドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムなどで仕事をする場合、初任給は14万〜20万円程度になる場合が多い。シンガポールや香港では日本並みかもう少し高くなることもある」(森山氏)。日本や海外での就業経験が長く、希少な技術を持って重要なポジションを担う人には、月給50万円以上が提示されることもある。

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例えば中国の自動車産業は、“EVバブル”に沸き、中国EV企業が日本人のエンジニアを囲い込もうと動いている。年収1000万〜2000万円で採用するところもある。自動車産業に限らずIT関係や建設機器などはエンジニアの求人が多い。ある大手建機メーカでは、定年後でも住居付きで手取り年収850万円で採用するケースもある。

「うちの上海オフィスにも日本人エンジニアの求人が多く来ています。中国の自動車会社はエンジニアなら定年前後の人でも採用します。年2回、帰国手当が付くところもある」(内藤氏)

ところが中国(上海)でもエンジニア以外の事務系、営業系では25万〜30万円程度に下がる。

■「英語で交渉できるスキルを身につける」

転職希望で人気のある国・地域は「シンガポール、香港、中国の順で、タイ、マレーシア、インドネシアが同程度、それにフィリピン、カンボジア、ミャンマーと続きます」(森山氏)。

実際に転職した人の生活ぶりはどうなのか。「収入は日本にいた頃に近い約500万円です。海外で働く、寿司職人になる、という2つの目的が叶えられ、満足しています」と語るのはリクルートの元営業マンから、シンガポールの日系現地法人の寿司チェーンに寿司職人として転職した大日向哲平氏。「英語圏であることがシンガポールを選んだ理由です。できれば英語圏の別の国でも修業し、ステップアップをはかりたい」。

転職人気の高いマレーシアで、現地企業の食品商社で日本食材の輸入を手がけ、マネジャーを務める吉井恒夫(仮名)氏は、日本で監査法人や物流会社で働いた。「年収は400万円です。マレーシア人マネジャーで300万円、ローカルスタッフだと120万円程度なので、優遇されています。物価は言われているほど安くありませんが、住居はクアラルンプール中心地の高層マンションのツーベッドルームで、家賃は10万円です」。

同じマレーシアの現地採用で、日系総合商社の機械エネルギー部門で輸出入を担当する廣瀬拓郎氏は、都内のITベンチャー企業で働いていた。「ビジネスで英語を使って交渉事ができるスキルを身につけたい」とマレーシアに転職。「給与は月8000RM(約22万円)、日本に居たときの3分の1です。贅沢はできませんが、妻が働かなくても暮らしていけるし、新しい経験に対して絶対的価値を見出しているので苦にはなりません」と話す。

目的を持った海外転職は、日本文化とは違った環境の中で仕事の経験もでき、挑戦のしがいのある職場が得られるのではないだろうか。

■▼【図表】中国、アセアン人気の国でもらえる給与と仕事

(ジャーナリスト 吉田 茂人 写真=PIXTA、iStock.com)