逆転勝利で準決勝進出を決めた青森山田【写真:Football ZONE web】

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矢板中央に先制許すも、ロングスローから2ゴールを奪い逆転勝利

 第97回全国高校サッカー選手権は5日に準々決勝が行われ、等々力陸上競技場での第1試合では2大会前の王者である青森山田(青森)が、前回大会ベスト4の矢板中央(栃木)に2-1で逆転勝ちし、12日の準決勝で尚志(福島)と対戦することになった。

 両チームが挙げた3得点は、いずれもロングスローから生まれた。

 前半14分、青森山田は矢板中央のDF後藤裕二の長いスローインをいったんクリアしたが、再び後藤に拾われてファーポストに送られたパスをMF眞島聖弥にヘッドで押し込まれて先手を取られた。初戦の2回戦から6-0、3-0と圧勝してきた青森山田にとっての今大会初失点。しかし高円宮杯U-18プレミアリーグで揉まれたチームは慌てず騒がず、反攻の時期を探っていた。そして前半のアディショナルタイムに入る直前、チャンスは到来した。

 MF澤田貴史が右から遠投。矢板中央のDFにヘッドで跳ね返されたものの、MF武田英寿が右足で強烈なボレーシュート。これをDF二階堂正哉が頭でコースを変え、最高の時間帯に値千金の同点ゴールをものにした。

 黒田剛監督は「矢板中央は1点を取って逃げきるのが上手いので、あの得点が大きかった。この勝負で一番貴重なゴールになった」と喜んだ。

 決勝点は青森山田のリズムで進んでいた後半26分。今度は左からのロングスロー。澤田がニアポストに投じたボールはDFにクリアされたが、澤田が出足鋭くこぼれ球を回収。遠いポストに送ったクロスをFW佐々木銀士が頭で落とすと、二階堂が右足で巧みにトラップし、素早く左足を振り抜いて弾丸シュートを突き刺した。

 公式戦で1試合2得点は初めてという二階堂の身長は、177センチと際立って大柄なわけではないが、セットプレーになるとセンターバックの位置から必ずゴール前に上がってくる。黒田監督は二階堂に口酸っぱく言い続けてきた。

「遠いポスト際にボールが抜けて来ることがよくある。(ゴール前では)みんなが一生懸命に競るから、ポジションを変えずにずっとそこにいるんだ。必ず来るぞ」

 あの決勝点は、まさに指揮官の教えどおりだった。「そんなに点を取る子ではないが、誠実に生活し続けてきた結果でしょう」と褒めた。

黒田監督は泥臭さの尊さ力説 「最後の1秒、あと10センチ、ワンプレーが明暗を分ける」

 この10年ほどでロングスローは、すっかり高校チームの武器の一つになり、どのチームにも1人は驚くほどの遠投をこなす選手がいる。澤田は今大会初先発したボランチで、一昨年12月末の試合で右膝内側側副靭帯を損傷し、復帰までに半年を費やした173センチの3年生だ。背筋は測定したことがなく数値は不明とのことだが、「1年生の時に練習で投げたら遠くに飛んだので、それから使うようになりました」と説明。「特にロングスローの練習はせず、ストレッチと筋トレくらいです。腰の使い方がポイントかな」と初の“準ヒーローインタビュー”に笑顔が絶えなかった。

 3試合目にして難しい試合を乗り越えたのは、2度目の頂点を狙うにはいい経験になった。

 プレミアリーグではJリーグのクラブチームとの試合が多いが、黒田監督は高校チームらしく泥臭いことが尊いとした。「最後の1秒、あと10センチ、ワンプレーが明暗を分ける。ロングキック、つなぐサッカー、フィジカルの強いチーム……。どんな相手にも対応できるように鍛えてきました。必ず王座を奪還したい」と力こぶを入れた。

 そして澤田も、珠玉の言葉を放った。

「僕は蝋燭(ろうそく)でいいんです。自分が犠牲になりながら、周りを照らし続けますから」(河野正 / Tadashi Kawano)