就活を"夏休みと春休み"に集中すべき理由

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経団連の「就活ルール」廃止が波紋を広げている。このまま就活が長期化する一方でいいのだろうか。法政大学の田中研之輔教授は「就職活動と採用活動が常態化するのは、学生、大学、企業のいずれにとってもマイナスが大きい。解決のために、夏休みと春休みに就活を集中させる『ターム&プール採用モデル』を導入すべきだ」という――。
2018年3月1日、就職活動が本格的に始まり、多くの学生たちが訪れた合同企業説明会(写真=時事通信フォト)

■経済同友会が提案していた新たな採用モデル

このまま、新卒一括採用は続いていくのでしょうか。政府が現行スケジュールの継続を決めた理由は、新卒一括採用に変わる具体的なモデルがどこからも提示されていないことにあります。

そこで「就活」と「採用」の関係性について考えてみましょう。前提として、新卒採用では、これまで通りの新卒一括採用が継続される場合でも、あるいは、通年採用のように新たな採用がこれから実施されていくにしても、「大学生は在学中に就職活動」を行うことが前提とされています。

実はこの「大学在学中の就職活動」から転換する採用モデルが、経済同友会によって示されていたのをご存じでしょうか。そのモデルとは、「新卒・既卒ワンプール/通年採用」です。

「新卒・既卒ワンプール/通年採用」は、2016年に提言されました。既卒者を新人として通年採用することにより、「大学在学中には、しっかりと学び、卒業してから就職活動を開始する」ことを可能にするものです。在学中の学びを一切妨げないので、大学教育関係者には期待を抱かせる提案だったと言えます。それだけではなく、新卒一括採用による「ワンチャンス就活」の結果生み出される、「雇用のミスマッチ」の解消を目指す、画期的な提案でした。

■なぜ定着しなかったのか

しかしながら、「新卒・既卒ワンプール/通年採用」は、思うように根付いていません。その理由は、大きく二つあります。

(1)卒業時に内定先がない状況を大学生自らが選択するのは、心理的なハードルが高い
(2)企業担当者は、既卒者を対象に採用活動をしていると求める人材に出会えないのではないかと危惧し、「新卒・既卒ワンプール/通年採用」を導入しなかった

「新卒一括採用」が「就活」と「採用」における、あたりまえの「制度」として深く根付いている中で、就活生も企業担当者も、「新卒・既卒ワンプール/通年採用」を受け入れることはできなかったのです。

そこで今回私が「就活ルール廃止」後の新たな新卒採用のモデルとして提示するのが、大学在学中の一定期間での集中採用と、卒業後の「新卒・既卒ワンプール/通年採用」を掛け合わせた、ハイブリッド型の「ターム&プール採用」モデルです。

■就職活動の常態化を防ぐには

「就活ルール廃止」によって最も懸念されているのが、「就職活動の常態化」です。一年中いつでも採用活動が行われるようになると、大学生はそれこそ学業どころではなくなります。早期化や長期化が本格化し、大学1〜2年生から毎日のように就職活動をするということは、避けなければなりません。

また、「就職活動の常態化」は、企業側に「採用活動の常態化」をもたらします。採用担当者は今まで以上の労力を注がねばならず、企業側にとっても望ましい状態ではありません。

想定しうる極端なケースを紹介しましょう。例えば、大学1年次にある企業から内々定をもらった学生がいるとします。その学生は、就職するまで3年間、大学で学び続けることになります。すると企業側は、その学生が就職するまで3年間のフォローアップをしていかなければなりません。大学2年生であれば、2年間のフォローアップが必要です。

変化の激しい市場に対応する企業が、2年間、3年間と未来の労働力を事前に確保するのは、現実的ではありません。

これを踏まえると、「就活ルール廃止」後の新卒採用を、3年の夏から大学を卒業するまでの主に4つのターム(期間)に集中的に実施すれば、就活の長期化と早期化を回避することができることになります。講義が実施されない期間に実施すれば、採用活動が大学生の学業を脅かすこともなくなります。これに通年採用を組み合わせると、「ターム&プール採用」モデルになるのです。

「ターム&プール採用モデル」のイメージ(作成=田中研之輔)

■「ターム&プール採用」のスケジュール

具体的な採用スケジュールを見ていきましょう。まず、大学3年生が夏季休暇を迎える8月と9月にかけて、ターム1の<キャリア新卒採用>を実施します。

ターム1:<キャリア新卒採用>

ターム1では、「実績」と「資格」による基準を設けて、その基準をこえる学生のみがエントリー可能とします。「実績」とは、大学在学時に、特定の技能や経験を通して、一定以上のアウトプットや評価を得たことです。基準としては、中長期及ぶインターンシップでのプロジェクト経験、プログラミングやデザインによるプロダクト開発経験、ビジネスコンテスト等での表彰経験などがあります。資格の事例としては、IT資格、簿記、TOEIC他英語検定、その他資格などです。

ターム2〜4:<新卒採用前期・中期・後期>

ターム2〜4は、現在行われている新卒採用プロセスを想定しています。ただし、二つ違いがあります。一つは、1タームごとに、エントリーから内定までのスケジュールを回すので、一人にかける採用期間を現行よりは短くできます。より的確に表現するのであれば、集中的に選考を行うということです。もう一つは、3タームあるため、就活生は準備ができたタイミングでエントリーできることです。学業に打ち込んでいたり、アルバイトやサークル活動、インターンに取り組んだりしている場合には、ターム3やターム4でエントリーしても内定がもらえる仕組みを用意しておきます。

プール採用:<新卒採用・第二新卒>

プール採用は、経済同友会が提唱した「新卒・既卒ワンプール/通年採用」を踏襲します。プール採用には、長期インターンや海外留学をしていた学生が、それぞれのタイミングでエントリーすることができます。もちろん、ターム採用で内定が取れなかった学生も、プール採用にエントリーすることができます。これまでの状況を鑑みるならば、プール採用を選択する学生は少数であることが推察されます。とはいえ、プール採用があることで、学生はより主体的にキャリア選択をすることが可能になるのです。

■新卒採用は変化すべきときを迎えた

「ターム&プール採用」は、新卒一括採用とも通年採用とも違います。政府が定めたように現行就活ルールを維持する場合には、大学の講義やゼミに参加できない就活生が毎年大量に生み出されますが、「ターム&プール採用」では、そのような事態を避けることができます。

「ターム&プール採用」は、新卒一括採用で大学生の学業を脅かすことがなく、通年採用で人事担当者を今以上に疲弊させることもない、実現可能な形での「第三の新卒採用」です。また、通年ではなくタームを設定し、卒業後のプール採用も用意していく「ハイブリッド型の新卒採用」のモデルです。

「終身雇用」や「年功序列」といった日本的雇用システムは、社会変化に対応して変化してきました。新卒採用も、いま、変化すべき時期を迎えたのです。新卒一括採用は、雇用のミスマッチを大量に生み出しているという制度的なひずみから目をそらしてはいけません。

■現状に合わせた新卒採用モデルを

経団連による「就活ルール廃止」の発表は、混乱を招きました。ただ、言えることは、大学から社会への新卒採用がなくなることはありえないということです。

そうであるならば、新卒採用はさまざまな形式を取り入れながら、現状に即したモデルを作り上げていかなければなりません。現行の新卒一括採用で抱える問題を一つ一つ、現実的に実施できる形で解決していくことが求められます。

就活を社会問題として捉えるならば、いま、求められているのは、「民間主導の就活」から「政府主導の就活」へという問題のすり替えではなく、解決策を探り、実際に試していくことなのです。新たな新卒採用モデルを創り上げていく上で、失敗を恐れてはいけません。

その一つの突破口となるのが、「ターム&プール採用」なのです。「ターム&プール採用」を取り入れ、学業をおろそかにせずに、雇用のミスマッチも減らすことのできた採用事例を一つでも増やしていけるように、大学と企業の接点をさらに増やしていければと考えています。

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田中研之輔(たなか・けんのすけ)
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
1976年生まれ。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめ、2008年に帰国。専攻は社会学、ライフキャリア論。著書に『先生は教えてくれない就活のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『ルポ 不法移民――アメリカ国境を越えた男たち』(岩波新書)など他十数冊。Original Point 株式会社 社外顧問。

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(法政大学 キャリアデザイン学部 教授 田中 研之輔 写真=時事通信フォト)