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発足後の国際親善試合で3戦3勝と、快調なスタートを切った森保一監督(50)に率いられる新生日本代表。16日には今夏のワールドカップ・ロシア大会でベスト8へ進出し、最新のFIFAランキングでも5位につける南米の強豪ウルグアイ代表を、4−3で撃破するジャイアント・キリングを成就させた。3試合で4ゴールをあげている23歳のMF南野拓実(ザルツブルク)、エースの証である「10番」を新たに背負う24歳のMF中島翔哉(ポルティモネンセSC)らの若手が放つ眩い輝きを、10月シリーズから復帰した32歳のベテラン、DF長友佑都(ガラタサライ)は「一人三役」を担いながら縁の下で支えている。

○終着点ではなく通過点と位置づけた4年後のカタール大会

取り囲んだメディアの爆笑を何度も誘ったかと思えば、含蓄があり、ウィットにも富んだ言葉でうなずかせる。顔ぶれが一気に若返った新生日本代表のなかで、32歳とベテランの域に達した長友佑都が放つ存在感は際立っていた。何しろ長友自身が、こう公言してはばからない。

「ハセ(長谷部)さんみたいに真面目に、あるいは(本田)圭佑みたいに変わったことはなかなかできないけど、僕は自分でのことをコミュニケーションの鬼だと思っているので。コミュニケーションの世界大会があれば本当に優勝できるんじゃないかと思っているので、その実力を生かしていきたいですね」

パナマ代表とデンカビッグスワンスタジアムで、FIFAランキング5位の強豪ウルグアイ代表と埼玉スタジアムで対峙。2試合で合計7ゴールを奪う、スペクタクルな攻撃的サッカーを披露した10月シリーズのあるときに、不敵な笑みを浮かべた長友はこんな言葉を残している。

まだ記憶に新しい今夏のロシア大会を含めて、3度のワールドカップをともに戦ったキャプテンのMF長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)も、同じ1986年生まれでお互いに盟友と認め合ってきたMF本田圭佑(メルボルン・ビクトリー)も、9月に船出した森保ジャパンにはいない。

チームがさらに進化していくためには、世代交代は避けては通れない。勝負の世界における掟だと理解しながらも、可能な限り抗ってみせることがレベルアップにつながると信じながら、長友は約3カ月ぶりに日の丸を背負った。

「やるからには4年後のカタール大会は終着点ではなくて、通過点だと思っているので。そこは自分のなかでも覚悟は芽生えています」

29歳の佐々木翔(サンフレッチェ広島)とともに、10月シリーズに左サイドバック枠として招集された。パナマ戦で先発フル出場した佐々木の一挙手一投足をベンチから見つめながら「僕とは特徴が違う。僕は運動量の多さや走力で勝負していければ」とモチベーションを高ぶらせた。

何よりもトルコで映像を介して見た、森保ジャパンの初陣となった9月のコスタリカ代表戦に衝撃を受けていた。画面の向こう側で23歳の南野拓実(ザルツブルク)、20歳の堂安律(FCフローニンゲン)、そして24歳の中島翔哉(ポルティモネンセSC)が躍動していたからだ。

「また違った日本代表を、若い選手たちが見せてくれた。試合に出始めたばかりの若いころの僕たちのようにギラギラした、何も恐れないプレーを。僕自身も初心というか、原点に返れたような気がする」

○新キャプテン・吉田麻也を若手の前でいじった理由

パナマ戦を前にして、東京オリンピック世代となるU-21日本代表監督を兼任する森保一監督は、長友らとともに日本代表へ復帰させた30歳のDF吉田麻也(サウサンプトン)を新キャプテンに指名した。

ベルギー代表に悪夢の逆転負けを喫し、まだ見ぬベスト8以降の世界へと通じる扉を無情にも閉ざされたロシア大会の決勝トーナメント1回戦。直後に代表引退を表明し、8年間にわたって務めたキャプテンも返上した長谷部との思い出をたどりながら、人目をはばかることなく号泣したのが吉田だった。

「無理をしてハセさんみたいに振る舞う必要もない。僕にできるリードの仕方があると思うし、自分が信じる道、自分が正しいと思うリーダーシップを発揮できれば。ポジション的にも立場的にもチームを引っ張っていかなければいけない、ということも重々理解しているので、いつも通りやるだけです」

たとえ左腕にマークを巻かなくても、精神的な部分で新たに船出する日本代表をけん引していくと心に決めていた吉田は、ハリルジャパン時代からこんな言葉を残してきた。そして、実際に大役を託され、決意を新たにする後輩を見た長友はサポート役に徹していくと心に決めている。

「なかなかハセさんの後のキャプテンは大変なので。とにかく真面目だったし、キャプテンの概念というものをハセさんが変えたような気もするので。そういう真面目さが吉田にあるのかと言えば、ちょっとはてなマークですけど、だからこそ彼なりのキャプテンシーを見せてくれるんじゃないかと」

一見すると強面で、威風堂々とした存在感を放つ吉田だが、実は日本代表で長くいじられキャラを担ってきた。そうした部分を見せることで、代表歴の浅い若手選手たちとの距離も縮まっていく。キャプテンに指名された直後の練習でさっそく吉田をいじり、周囲の笑いを誘ったのが長友だった。

「キャプテンということで、背負いすぎたりする部分もあると思うので。吉田は吉田だし、だからこそ彼のおちゃらけた部分をどんどん突っついていって、彼のよさを引き出しながらキャラを浸透させていきたいと思っています。なかには『吉田さん、ちょっと怖いのかな』と思っている若手もいるかもしれないので」

○波瀾万丈に富んだ濃密な生き様を次世代へ伝えていく意味

もっとも、自他ともに「熱い」と認める自身のキャラクターを、長友は半分封印するつもりだった。

「宇宙の話やら生きる意味などを圭佑と熱く話してきましたけど、それを若い選手たちにいきなりすると、おそらく引かれて終わってしまうと思うので。ちょっと距離感を測っています」

森保ジャパンに初めて合流した直後の長友は、苦笑いしながらこんな思いを明かしていた。しかし、我慢できたのも数日だけだった。新潟市内からさいたま市内へ移動した13日。選手だけで繰り出した焼肉決起集会を開催した直後に、長友は自身のインスタグラムにこんな文面を投稿している。

「僕の前の席は19歳冨安と22歳北川。32歳のおっさんは若い世代に話を合わせようと必死になるが、最終的に熱苦しい話を語り聞かせる。笑。はいはいと言ってくれるのが心地よくて。皆さんこんな上司、先輩にはならないように。笑」(原文のまま)

初めて日本代表に招集されてからちょうど10年。その間にFC東京から、セリエAのチェゼーナを介して名門インテル・ミラノへ移籍。最古参選手となりながら、出場機会を求めて今年1月末に移籍したトルコの強豪ガラタサライで輝きを取り戻し、サッカー人生で初めてとなるリーグ優勝も経験した。

「チャンスがあるのならば、とにかくビッグクラブへ移籍してほしいですね。よりレベルの高い選手たちと一緒にプレーすることで、さらに見えてくるものもある。厳しいサポーターやメディアの下で勝負することを、彼らにも経験してほしい。技術だけでなく、精神的な部分でも必ず学ぶものがあるので」

7年間プレーしたインテル・ミラノ時代を引き合いに出しながら、波瀾万丈に富んだ生き様を遠慮することなく次世代へ伝えようと決めた。昨夏からプレーするオランダからのステップアップを目指す東京オリンピック世代の20歳で、ウルグアイ戦で待望の初ゴールを決めた堂安は長友を質問攻めにしたという。

堂安だけではない。左サイドバックで先発フル出場したウルグアイ戦で3試合連続ゴールを決めた南野、これでもかと個人技で仕掛け続け、長友をして「ドリブルお化け」と言わしめた中島のパフォーマンスを後方から見続けながら、3度のワールドカップを知る男は「このチームは強くなる」と確信を抱いたと笑う。

「気持ちがいいよね。イケイケだし、恐れることなく伸び伸びと楽しんでプレーしているから。テンポも速いし、おっさんはついていくのが必死でした。これだけ技術があって、上手い若手たちを見ていると、こちらは体を張らなかったら次からはもう呼ばれないと思って熱いプレーをしました。所属クラブで試合に出られないとか、パフォーマンスが悪くなってしまったら『長友、さようなら』となるはずなので」

タイミングを見ながら周囲をいじり、世代間を融合させる潤滑油的な存在として。積み重ねてきた経験の伝承者として。そして、32歳にして衰えるどころか進化と成長を続ける鉄人として。まさに「一人三役」を担う長友が、森保ジャパンのなかで早くも絶対的な居場所を築きつつある。

■筆者プロフィール

藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。