かつては「オーディオ御三家」の一角を担ったパイオニアが苦境に陥っています。カーナビやオーディオといった同社の看板製品がスマホの登場により軒並み売上を落とし、一時は倒産も噂されるほどに。投資ファンドからの出資を受けることが決定し最悪の状態は避けることが出来ましたが、未だ予断は許さない状況に変わりはありません。果たして同社の再起はあるのでしょうか。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、自身の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』で同社の行く末を分析・考察しています。

パイオニア、2期連続で最終赤字。600億円の出資受け入れで再起できるのか

経営危機が伝えられるパイオニアはひとまず当座をしのぐことができそうです。

同社は9月12日、香港に本拠を置くアジア系ファンドのベアリング・プライベート・エクイティ・アジアから総額500億〜600億円をめどに出資を受けると発表しました。これをもとに事業再建を図る考えです。

同社は厳しい資金繰りが続いていました。フリーキャッシュフロー(純現金収支)が3期連続でマイナスとなっており、必要な投資を自らの稼ぐ力でまかなうことができない状況が続いていたのです。こうしたこともあり、8月発表の2018年4〜6月期決算で「継続企業の前提に重要な疑義が生じている」と開示せざるをえませんでした。これは経営に黄色信号が灯っていることを意味します。

一方で、同社は6月末時点で1年以内に返済しなければならない借金が340億円強存在し、うち130億円強が9月末に返済期限を迎えるシンジケートローン(協調融資)となっていて、その返済が焦点となっていました。そうした中でベアリングからひとまず250億円の融資を受けることが決まりました。これによりパイオニアは資金繰りの危機から当面脱することができるようになったのです。

とはいえ、厳しい経営状況に変わりはありません。同社の18年3月期の売上高は3,654億円と10年前からは半減し、最終損益は2期連続で赤字です。18年3月期は71億円もの最終赤字を計上しています。中核事業のカーナビやカーオディオなどカーエレクトロニクス事業が苦戦し足を引っ張っています。

その中でも近年は特にカーナビが苦戦しています。スマートフォンに搭載されたGPS(全地球測位システム)機能を使ったカーナビアプリが普及し、後付けタイプの市販のカーナビ需要が急速に減っているためです。若者を中心にスマホのカーナビアプリの誘導で自動車を運転する人が増えました。

自動車メーカー向けOEM(相手先ブランドによる生産)のカーナビも振るいません。近年のカーナビは日進月歩のスマホとの連携が重要になっており、それにより逐次仕様変更の対応が生じることから、開発費用が膨らみがちになっています。それに加え自動車メーカーの原価要求が厳しくなっており、OEMカーナビの採算性は厳しさを増しています。

18年3月期のカーエレクトロニクス事業の売上高は前年比4.2%減の2,993億円、営業利益は同82.4%減の10億円でした。売上高は近年減少が続き、営業利益はここ数年で最低水準です。投資ファンドから出資を受けて危機を当面回避できることになったとはいえ、主力事業がこのような状況のため、中長期的な展望は予断を許さない状況といえるでしょう。

全ては新技術への対応遅れ

これまでのパイオニアは苦難の連続でした。

同社は今年に創業80周年を迎えた老舗の企業です。祖業は音響機器事業で、創業者が海外製スピーカーの音に感動し、それを再現したダイナミックスピーカーを1937年に開発、翌年に「福音商会電機製作所」を設立したのが始まりです。

60年に業界初となるセパレート型のステレオを発売したのをきっかけに一躍有名になりました。高度経済成長期の70年代から80年代には空前のオーディオブームが沸き起こり、高音質な音を求める人を中心に人気を博すようになります。山水電気(14年7月に破産)、トリオ(現JVCケンウッド)とともに「オーディオ御三家」と呼ばれるようにもなりました。

しかし、ウォークマンなど従来と異なる音響機器が登場したほか、音源技術や音源記録技術のデジタル化などにより御三家の優位性は次第に低下していきました。新技術への対応に遅れたことが影響したのです。そして今やスマホで手軽に音楽を聴ける時代になっており、オーディオ機器はすっかり廃れてしまっています。

レーザーディスクカラオケも新技術の登場により衰退しました。81年に高品質の音と映像を1枚のディスクで表現する業界初となるレーザーディスクカラオケを発売すると、「絵の出るカラオケ」としてカラオケボックスやクラブなどで人気を博すようになりました。しかし、その成功にあぐらをかいている間に92年になると通信で楽曲を提供する通信カラオケが登場し、レーザーディスクカラオケは退潮、収益の柱を失ってしまいました。

97年に発売した世界初となる家庭用の大型プラズマテレビも同様に衰退します。一時は圧倒的な国内シェアを誇りましたが、大型化・低価格化した液晶テレビに市場を奪われるようになりました。10年にはプラズマテレビ事業からの撤退を余儀なくされています。またしても新技術によって苦境に立たされてしまいました。

15年には祖業のAV(音響・映像)機器事業を音響機器メーカーのオンキヨーに譲渡することを余儀なくされています。また、ディスクジョッキー(DJ)向け機器事業を同年に米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツに売却しています。DJ機器は好調でしたが、カーエレクトロニクス事業に経営資源を集中させるため、決別することにしたのです。

現在のカーエレクトロニクス事業の主力製品であるカーナビは、市販モデルで世界初となる製品を発売した90年が始まりとなります。オーディオ開発で培った技術をカーナビで生かし、「カロッツェリア」の名でカーナビのトップブランドに育てることに成功しました。しかし、カーナビもスマホのカーナビアプリという新たな技術の登場で苦境に立たされようとしています。

パイオニア再生のために必要なこと

カーナビでは、開発費の負担が大きい自動車メーカー向けのてこ入れが急務です。また、将来の成長ドライバーとなる高精度地図の開発や自動運転に必要な走行空間センサー「LiDAR(ライダー)」の開発も進めていかなければなりません。製品開発は待った無しの状況です。そうしたなか、パイオニアは最大600億円にも上る出資を受け入れることになりました。こうした事業に集中投資して先進的な製品を開発し、再成長を実現したい考えです。

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