クルーズ船連絡列車「あきたクルーズ号」。元「リゾートしらかみ」ブナ編成を改装した(筆者撮影)

JR東日本は2018年4月から11月まで、秋田港と秋田駅を結ぶ港湾連絡列車「あきたクルーズ号」を運行している。秋田港に入港するクルーズ船の船客向けの列車で、秋田港と秋田市内を送迎する役目だ。秋田駅―土崎駅間は奥羽本線、土崎駅―秋田港駅は貨物列車線用の支線を経由する。

地域経済を活性化したい

車両は元「リゾートしらかみ」のブナ編成の気動車をリフォームした。運賃は片道200円、往復400円で、これは約9kmの運行距離に対する普通運賃に相当する。


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今年の運行予定はクルーズ船の入港日24日に対して10日間。各日3往復程度の運行だ。このほかに7月28、29日に開催された「秋田港 海の祭典2018」のアクセス列車として運行され、この日は誰でも予約できた。2名以上から受け付ける日帰りツアーとして販売され、料金は1400円。秋田港と秋田駅ビルの土産物クーポンが500円ずつ含まれており、実質の往復運賃は400円だ。

「あきたクルーズ号」は、秋田県と秋田市の要請にJR東日本秋田支社が応える形で運行している。秋田側はクルーズ乗船客を秋田市内および秋田県全域に誘い、地域経済を活性化したい。しかし秋田港の2次交通は路線バスのみで、2次交通の確保が課題となっていた。また、秋田港も展望台セリオンタワーを有する道の駅があり、こちらも観光地として県内外からの客を集めたいと考えていた。

そこで、2017年8月に試験運行が実施された。

試験運行が実施されたのは、秋田竿燈まつりで秋田港に寄港するクルーズ船に合わせて4日間。使用車両は一般型気動車キハ40形の4両編成で、秋田港駅の乗降は乗船タラップ同様のスロープを設置した。この実績をもとに、2018年度から本格運行が決まり、秋田港駅にはプラットホームが設置され、車両も観光車両にグレードアップされた。


秋田港駅には専用プラットホームが建設された(筆者撮影)

7月26日、秋田港に続く次の取り組みとしてJR東日本仙台支社が仙台港クルーズ船アクセス列車の運行を発表した。

こちらの報道資料には「宮城県・仙台市・仙台臨海鉄道株式会社等のご協力のもと」という文言があり、JR東日本が主体となって運行するとみられる。実施日は9月14日と26日。クルーズ船「飛鳥II」による「秋の日本三景クルーズ」の仙台港寄港に合わせて、松島方面へ運行する。使用車両は「リゾートみのり」に使われているキハ48形の観光型だ。

急増するクルーズ船、地方港の誘客競争に鉄道が寄与

近年、国際クルーズ船の日本への寄港と、国内クルーズ船ツアーが増加傾向にある。日本政府が実施する訪日プロモーション活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」とビザ取得制限の緩和、円安傾向による外国人の購買力増加などが功を奏しているほか、国内では第一次ベビーブーム世代の高齢者層の余暇消費がけん引している。

また、いわゆる豪華客船だけではなく、カジュアル型のクルーズツアーも増えている。移動費と宿泊食事代込みで考えれば、航空機や新幹線で移動し、リゾートホテルなどで宿泊する旅と比較して安価になる場合もあり、若い世代の利用も増えているようだ。

国土交通省が公表した調査結果によると、2017年のわが国の港湾へのクルーズ船の寄港回数は2764回で、対前年比37.1%の増加。過去最高となった。訪日クルーズ旅客数も252.9万人、日本人のクルーズ人口も31.5万人となり、すべて過去最多だ。2018年のクルーズ船寄港回数の速報値において、1月から7月までの合計寄港回数は約1割の増加となっている。クルーズ船利用者は増加傾向といえそうだ。

クルーズ船の寄港は自治体側からも歓迎だろう。大量の観光客を連れてきてくれるからだ。定員の少ないクルーズ船は高級タイプが多く富裕層の利用が多いと思われ、高額な観光消費を期待できる。日本を代表するクルーズ船「飛鳥II」の旅客定員は872名。秋田港にも寄港する大型船「ダイヤモンドプリンセス」は2704名。宿泊は船内となるため宿泊需要は増えないとしても、飲食店や観光施設のメリットは大きい。宿泊施設が少ない港湾都市では、宿泊容量が観光客受け入れの上限になってしまうから、ホテルを背負ってきてくれる客がありがたい。

都市の観光振興にとって、クルーズ船の寄港は重要だ。しかし、クルーズツアーの寄港回数には限りがある。そこで、地方の港ではクルーズ船誘致のために港湾の整備、都市とのアクセスを整備し、ほかの港と差別化を図りたい。


新設されたクルーズターミナルと秋田港駅の道のりは600mで徒歩15分程度。トレインアクセスバスも運行する(筆者撮影)

秋田港は定期フェリー用の旅客ターミナルのほかに、今年4月にクルーズ船専用の旅客ターミナルを完成させ、ダイヤモンドプリンセスの寄港日から運用を開始した。「あきたクルーズ号」も秋田港の魅力アップ策のひとつといえる。

仙台港のクルーズ船アクセス列車も仙台、および松島の魅力に貢献するだろう。空港アクセス手段として鉄道が注目されてきたように、港湾アクセス手段として鉄道が注目されている。

鉄道と相性の良い港湾はほかにもある

鉄道と船舶はもともと相性がよかった。日本の鉄道開業は横浜港と都心を結ぶ路線だったし、日本の近代産業は製品を鉄道で港まで運び、船積みされて輸出された。明治時代から戦前まで、新橋―敦賀港(金ケ崎)間に「欧亜国際連絡列車」が運行され、ウラジオストク便を介してシベリア鉄道に接続した。

秋葉原に貨物駅ができた理由は神田川の船便と接続するためだった。そもそも、国鉄でも青函連絡船、宇高連絡船などを運航して鉄道と船便を連携し、長距離輸送を担ってきた。

国内交通は海や河川の船から鉄道へ置き換わっていく。船と鉄道は競合関係となってしまったけれど、クルーズ船との接続は協調関係への回帰だ。それは長距離列車と航空便の競合関係が落ち着き、空港アクセス列車によって航空便と鉄道が協調関係を築く過程に似ている。

現在も鉄道アクセスに優れた港はある。たとえば広島市の宇品港は路面電車のターミナルが隣接し、瀬戸内の離島との定期便と接続している。安芸の宮島へはJR西日本の子会社、JR西日本宮島フェリーが鉄道連絡船を引き継いで運行しており、現在も青春18きっぷで乗船可能だ。


港湾と鉄道アクセスについて、そのほかの港の状況はどうなっているか調べてみた。2017年の寄港回数ベスト10は1位博多(寄港回数326)、2位長崎(同267)、3位那覇(同224)、4位横浜(同178)、5位石垣(同132)、6位平良(同130)、7位神戸(同117)、8位鹿児島(同108)、9位佐世保(同84)、10位八代(同66)となっている。ちなみに秋田港(同13)は30位で、東京(同33)は19位となっている。仙台塩釜(同12)は38位。

クルーズ船の寄港を推奨する港について、観光庁が「CRUISE PORT GUIDE OF JAPAN」というサイトで公開している。ここには国内の推奨港と港付近の観光名所がまとめられている。まず106という数字に驚かされた。大型クルーズ船の寄港を誘致するためには、これだけのライバル港がある。秋田港の取り組みは、この中で競争力を高め上位を目指そうとしているわけだ。ちなみにトップの実績を持つ博多港では福岡市長が市の中心部と博多港エリアを結ぶロープウェー構想に意欲的で、JR九州も関心を示しているという。

港から駅まで徒歩10分程度で、すでに定期列車と連絡可能な港は12ある。横浜港大桟橋はみなとみらい線日本大通り駅まで徒歩数分、名古屋港はガーデン埠頭が地下鉄名古屋港駅から徒歩5分、金城ふ頭はあおなみ線の同名駅から徒歩10分などだ。宇高連絡船と接続していた岡山県の宇野駅と香川県の高松駅も良い立地だ。

長崎県の佐世保駅は港湾に隣接しているし、熊本県の三角駅も港を目前にしている。東京都は東京オリンピック・パラリンピックに合わせて「東京国際クルーズターミナル」を建設中だ。最寄り駅は新交通ゆりかもめの同名駅で、現在の「船の科学館」を改称する予定だ。

クルーズ船と鉄道の連携は定着するか

鉄道貨物輸送の衰退とともに臨港路線が廃止されてしまった港も多い。また、拡張や埋め立て地移転などで鉄道とは離れた場所になってしまった港湾もある。それでも「駅はないけれど鉄道路線が近い、臨港貨物線が残っている」という港はある。秋田港や仙台港のように整備すれば、クルーズ船連絡列車が接続可能な港は6カ所もみつかった。

室蘭港や函館港は貨物線がある。小樽港は小樽築港駅付近、商業施設ウイングベイ小樽の裏側に留置線がある。仙台塩釜港石巻港区は仙石貨物線が引き込まれ、製紙工場からの出荷に利用されている。横浜港は瑞穂埠頭に貨物線がある。新潟港も貨物線まで500mの道のりだ。

このほかにも、最も近い線路まで徒歩10分程度という港はある。しかし幹線の本線上で臨時駅の設置は難しそうだったり、線路はあっても駅を造れそうな用地がなかったりで、簡単にはクルーズ船連絡列車を運行できそうではない。

そもそも、クルーズ船連絡列車に鉄道側のメリットはあるだろうか。秋田港の場合、あきたクルーズ号の片道料金は200円。列車の定員は140名だ。車両はリゾートしらかみの再利用としても、プラットホーム新造などに要したコストに対して控えめで売り上げは小さい。しかし、5月11日の運行ではオプショナルツアーとして横手市の十文字駅まで運行している。将来的にはリゾートしらかみ区間への延長など、ツアーパッケージによる収益向上を期待できる。

仙台港クルーズ船アクセス列車はクルーズ船のオプショナルツアーとして運行されるため、利益を出せる形だと思われる。発表から1週間後に30名限定で一般客向けツアーが販売された。料金はおとな1名4980円(こども4610円)だ。仙台―松島間の往復運賃の820円から見ると、かなり付加価値の高い値段が付いている。それでも鉄道ファンにとってはふだん乗れない貨物線を走るため魅力的だ。

クルーズ船連絡の観光列車は、大阪や名古屋など、最寄り駅が地下鉄路線では難しいかもしれない。しかし、宇野、高松、佐世保、三角は港と駅が隣接しており、臨時列車によるクルーズ船客の取り込みは期待できる。また、すでに港湾敷地に線路がある室蘭、函館、仙台(石巻地区)は多少の投資が必要とはいえ秋田港方式が使えそうだ。自治体のクルーズ船誘致に対する温度が高まれば、港付近の鉄道にビジネスチャンスが生まれるかもしれない。