「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「灯(ともしび・ひ)」、「灯篭」「電灯」の「トウ」。燃え立つ炎をのせて安定させ、掲げておくための蜀台の姿を表し、そこから「ともしび」や「あかり」そのものを意味する漢字になりました。



「灯(ともしび・トウ)」という漢字は、燃えたつ炎を描いた「火」という象形文字の右に、「一丁目」の「丁(チョウ)」という字を書きます。

今は「丁」を使ったこちらが常用漢字になっていますが、この「丁」の部分は略字で、もとは「山を登る」の「登(燈)」という字を書いていました。

「登」という字の音読みは「トウ」。

音を表していますが、同時にある道具の形も示しているといいます。

「登」は「はつがしら(癶)」という部首の下に「豆」と書きますが、「はつがしら」は外に向けた両足をかたどった部首。

どこかへ出発しようとしている様子を意味しているといいます。

その下の「豆」が表すのは、脚のついた器、高さのある台。

つまり「灯」という字は、火を灯して安定させて掲げ、時には持ち出す道具でもある蜀台を意味しているのです。

暦の上では秋ですが、昼間はまだまだ厳しい暑さ。

待ち遠しいのは陽が傾いてくる夕暮れどきです。

照りつける太陽が西の空へ沈み、あたりが薄暗くなってくる頃。

ぽつぽつと家々の窓に明かりがともり、庭園の灯篭や川辺の街灯も、淡い光を放ち始めます。

同じ灯ともし頃の風景でも、冬に眺めれば心がふわりと温まり、今この時期に出会えばほっとひと息、残暑もやわらぐというもの。

「夏の灯(なつのひ)」「灯涼し(ひすずし)」「夏灯し(なつともし)」。

すべてが夏の季語ですが、ことばの響きが連れてくる涼しさが体感できるのはちょうど今頃。

許されたような夕涼みのひとときを過ごしたそのあとは、灯火親しむ静かな秋が、私たちを待っています。

ではここで、もう一度「灯」という字を感じてみてください。

「自ら」の「灯(ともしび)」に「明るい」と書いて「自灯明(じとうみょう)」。

お釈迦さまが入滅する直前に、何を拠りどころに生きていけばよいかと尋ねる弟子に示した言葉です。

これは「自らを灯明として、自らを拠りどころとせよ」という教え。

他人任せでもなく人のせいにもせず、苦しくとも自分に向き合って、自らの力で見つけて掲げた大切な光。

その灯明が、行くべき道を照らします。

心のともしびを消さず、こつこつと酷暑の夏を歩んできたあなた。

やがてここちよい秋の追い風が、実りの季節へと導いてくれます。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)

『読んでわかる俳句 日本の歳時記 夏』(宇多喜代子、西村和子、中原道夫、片山由美子、長谷川櫂/著 小学館)

『続ほっとする禅語70』(野田大燈/監修 杉谷みどり/文 石飛博光/書 二玄社)

8月25日(土)の放送では「疲」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。



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聴取期限 2018年8月26日(日) AM 4:59 まで

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<番組概要>

番組名:感じて、漢字の世界

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/