航空自衛隊唯一の偵察専門部隊は、専用の偵察仕様「ファントムII」、RF-4EとRF-4EJを使用しています。どのような機体で、そしてその偵察任務はどのように行われているのでしょうか。

いまなおフィルム撮影、偵察仕様「ファントムII」

 雲ひとつない冬の空に、2機のジェット機の影が見えました。百里基地上空に舞い戻ったジェット機は、航空自衛隊が保有する戦術偵察機であるRF-4EとRF-4EJです。この機体には、乗員たちが命懸けで撮影してきたフィルムが搭載されています。


訓練空域に向けて離陸するRF-4E(矢作真弓撮影)。

 独特な甲高い音を奏でながら、駐機場へ戻ってくる2機の偵察機たち。エンジンが切られると、給油やタイヤ交換などの整備作業と同時に、撮影してきたフィルムが秒単位の早業で取り出されます。取り出したフィルムはすぐに偵察情報処理隊へと運ばれていきます。

 RF-4E/EJとは1960(昭和35)年からアメリカ軍で使用されていたF-4戦闘機シリーズの仲間です。航空自衛隊では1974(昭和49)年度から1975(昭和50)年度にかけて、当時としては最新鋭だったRF-4E戦闘機を14機導入しました。


離陸準備中のRF-4EJ。機首に20mmバルカン砲が見える(矢作真弓撮影)。

RF-4Eの偵察カメラからフィルムを取り出す(矢作真弓撮影)。

運ばれてきた撮影済みフィルム。フィルムはコダック製(矢作真弓撮影)。

 それまで航空自衛隊はF-86Fという戦闘機を改造したRF-86Fを偵察機として運用していましたが、あくまでも「写真を撮ることができる」という程度の能力しか持っておらず、当時の偵察能力は決して満足できるものでは無かったといいます。その状況を打開すべく導入されたのがRF-4Eでした。

 この偵察機を運用しているのが航空自衛隊の偵察航空隊です。茨城県にある百里基地をホームベースにしていて、航空総隊司令部という戦闘機や高射部隊を統括する組織の指揮を受ける部隊として、日々の任務に就いています。この偵察航空隊のなかにある第501飛行隊が偵察機を直接運用する部隊になります。偵察航空隊はこのほかに、偵察機をはじめとする各種機材の整備をする偵察整備隊、撮影した写真を現像して処理をする偵察情報処理隊で編成されています。

任務は戦闘ではなく情報を持ち帰ること

 RF-4Eは完成機をアメリカから輸入しています。そのため偵察に特化した機体構造となっています。F-4戦闘機の機首に各種のセンサーや6種類のカメラを偵察任務の内容によって組み合わせて搭載し、使用します。高速性と高い機動性、そして地形追従性能を駆使して飛行することができます。


RF-4Eの機首カメラ(矢作真弓撮影)。

 しばらくはRF-4Eのみを使用していた航空自衛隊ですが、1993(平成5)年からはF-4EJを改修したRF-4EJの運用を開始しています。

 F-4EJ戦闘機を改修して作られたRF-4EJは、機首には20mmバルカン砲をそのまま残していて、サイドワインダーミサイルも搭載することができます。胴体下に装着する偵察ポッドには、RF-4Eの機首に装着されているのと同じ偵察センサーやカメラが搭載されています。機体はRF-4EJのほうが新しいのですが、機能は同等であり、比較的高い位置から撮影する洋上偵察や、敵機などの移動目標を捉えるのが得意といわれています。


滑走路へ向けタキシングするRF-4EJ(矢作真弓撮影)。

カメラを守るガラスの汚れをふき取る(矢作真弓撮影)。

「いってきます」と手を振るパイロットたち(矢作真弓撮影)。

 見た目は似ていても、得意とする偵察方法が異なるともいえる両機ですが、この2機種がタッグを組んで偵察することもあるそうです。その場合、RF-4EJが高高度から広範囲を偵察し、RF-4Eが低高度からピンポイントで偵察をします。もし、敵機がこちらに向かってきた場合、RF-4EJは対空ミサイルやバルカン砲を搭載しているため、敵機と戦い、僚機であるRF-4Eと自らの退路を確保することもできます。ただし、彼らの任務は入手した情報を持ち帰ることなので、自ら進んで積極的な戦闘は行わないそうです。

持ち帰ったフィルムはどう処理される?

 こうして、偵察機が必死の思いで撮影してきたフィルムは、偵察情報処理隊の処理小隊に運び込まれて現像されます。処理小隊では、万が一の場合に備えて、手作業で現像できる訓練を重ねているといいます。


現像機から排出されるフィルム(矢作真弓撮影)。

ライトテーブルで判別(矢作真弓撮影)。

カラーで印刷された写真(奥)と撮影されたフィルム(手前)(矢作真弓撮影)。

 現像が終わったフィルムは、判読小隊に運ばれます。ここでは現像の終わったフィルムを専用のライトテーブルの上に置いて目標の判読が行われます。判読すべき目標の情報はあらかじめ伝えられているので、撮影されたフィルムからルーペなどを使って細部の情報を読み取っていきます。

 上級部隊から、より高精度の写真判読を要求された場合には、写真をデジタル処理して報告するそうです。判読小隊の隊員たちも、機械の故障や停電に備えて、印画紙への印刷や、要求された写真資料を手動で作成する技術を持っています。

 広範囲の写真データが欲しい場合は、連続した画像を貼り合わせてモザイク写真(連続した一連の写真をつなぎ合わせたもの)を作製します。昔はプリントされた写真を切り貼りしていたそうですが、今ではパソコン上で綺麗にデジタル処理されます。


モザイク処理(連続した写真をつなぎ合わせること)された写真をルーペで覗き込む(矢作真弓撮影)。

 偵察航空隊は24時間体制でいつでも任務に就ける準備をしています。もし、大きな災害が発生したとき、上空にジェット機の飛ぶ音がしたら、もしかしたら偵察航空隊の戦術偵察機が撮影に来たのかもしれませんね。