世界一長い炭素結合(太線)を含む化合物

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 北海道大学大学院理学研究院の石垣侑祐助教らの研究グループは、世界一長い“炭素―炭素結合”の創出に成功した。世界最長といっても、1メートルの50億分1のよりも小さな世界。この炭素原子と炭素原子との結合は、ギリギリつながった弱い状態で、ちょっとした刺激で切れると予想される。この結合の入ったフィルムなどを作成できれば、刺激に応答する新しい素材を生み出せるかもしれない。

競争とロマン
 炭素―炭素結合は、ご飯やパン、人間の体などを構成する有機化合物の中に、さまざまな形で存在している。標準的な長さは1・54オングストローム(オングストロームは100億分の1メートル)。今回創出した世界最長の結合は、標準より17%長い1・806(標準偏差でプラスマイナス0・002)オングストローム。“結合の限界”と言われていた1・8オングストロームを世界で初めて破った。

 原子レベルの炭素―炭素結合の世界にも、オリンピックのような世界一を目指す競争とロマンがある。数は少ないが、これまで複数の研究者が1・7オングストローム超えの化合物を報告し、その中の最長は石垣助教も参加したグループの1・791(同プラスマイナス0・003)オングストロームだった。この化合物の構造を改良して設計したのが、今回の化合物だ。

 世界一の炭素結合は、化合物の中で、ジベンゾシクロヘプタトリエン骨格という二つの骨格をつないでいる。長い名前の骨格は面積も大きく、「(間にある)炭素―炭素結合を囲んで保護する」(石垣助教)と予想された。また、この二つの骨格同士は付かず離れず絶妙なバランスで存在しているため、長い結合が維持されている。

低温下でも
 石垣助教らは、この化合物の結晶を実際に作成して、X線結晶構造解析によって結合の長さを確認した。すると、高温になるほど結合は長くなり、127度Cで1・806オングストロームを記録。マイナス73度の低温下でも従来の最長記録を更新していた。また、「100日間放置しても化合物は安定していた」(同)ため、素材として利用できる可能性が期待される。

 結合という強そうな言葉の印象とは裏腹に、この世界一長い結合は弱い。素材開発に生かされるのはこの弱さだ。ギリギリの状態でつながっている結合は、引っぱたり、電気を流したり、といった外部刺激で簡単に切れやすい。この結合の切り口が、反応性の高い「ラジカル」という化学種になれば、例えば、近くの色素と反応して色を変えられる。こんな刺激に応答する素材を作れるかもしれない。
(文・梶原洵子)