「JRで往復したら308円もする。それでは利回りが下がってしまうじゃないですか」
 隅田川にかかる両国橋。小走りで追う本誌記者とカメラマンに、早足の山口三尊氏は涼しい顔で語った。

 新宿でランチや買い物をすませ、その後、錦糸町で映画を観るという山口氏は、なぜか秋葉原で下車したのだ。

「アキバまでは定期券があるので」

 山口氏は、都内の資格予備校で講師を務める50歳。カネボウやレックス(当時、焼き肉チェーン「牛角」を展開)などを相手取った訴訟で名を馳せ、“戦う個人投資家” として知られる存在だ。

 そんな山口氏の、知られざるもうひとつの顔は、株主優待と優良銘柄を愛する “優待投資家”。その資産は、300銘柄、1億3000万円にのぼる。

「大学を卒業してしばらくは、非正規の講師で年収は200万円。2年後、別の予備校に移籍し、正社員になりましたが、年収はずっと500万円ほどです」

 今でも生活レベルは非正規時代と変わらない。

「服は年に1回買うかどうか。このシャツも、シャツメーカー・山喜の優待です。僕の周りの “億” を持ってる人はみんな倹約家ですよ」

 年350日は外食で、どうしても避けられない飲み会以外は優待券で食事する。

「優待株の配当は低めで、年100万円くらいですが、生活費はほぼゼロですね」

■1日遊んで出費は127円! 羨望(?)の優待生活の実態

●11:20 新宿西口は優待店だらけ 

 主張が強いトレーナー姿で現われた山口氏。新宿西口は、保有銘柄の店が並ぶ優待ゾーンだ。
「松屋、第一興商、コシダカ、大戸屋……すべて頭に入っています」

●11:30 麻婆春雨定食が90円に!

「旬鮮酒場天狗(テンアライド)は夜も安くていいですよ。お冷やとおつまみ数品で、いつも1000円前後に収めています。じつは、ランチのときはカレー一択。この麻婆春雨と自家製水餃子セットは初めて食べました」

●12:15 30分歌って21円!

「カラオケの鉄人(鉄人化計画)の優待券は部屋代には使えないのですが、利回りはとてもいいんです」と、アニメ『ガールズ&パンツァー』の劇中歌『カチューシャ』をロシア語で熱唱。

「ふだんは一人カラオケが多いので、恥ずかしいですね。アニソンが多いですが、星野源の『恋』も歌いますよ」

 株主限定のウェルカムドリンク(無料)では、スパークリングワインのボトルも選択可。平日昼間の部屋代、21円のみをお支払い!

 続いて、ビックカメラでUSBメモリ3本とプリンター用紙2セット購入で2083円。1000円の優待券2枚と、株主総会のお土産の3%引き券を併用して、とどめはポイント利用。見事無料になった。

●13:30 ドリンク&デザートが16円に

 1000株保有の山口氏には、ガスト(すかいらーく)の年6万9000円の優待券が届く。

「会社近くのガストをよく利用します。アプリの割引クーポンも欠かさずチェック。ぜひ高利回りを維持してほしいですね」

●14:50 10キロは平気で歩く

「東京駅から『109シネマズ木場』や、コミケのときは有楽町からビッグサイトまで歩いたりもします。ほかの優待投資家と一緒のときも歩きますよ。もう少しゆっくりですが(笑)」

●15:30 最後は無料で映画鑑賞

「この日は、TOHOシネマズ錦糸町(東京楽天地)で中国映画『戦狼』を楽しみました。少し中国のプロパガンダっぽかったですが(笑)、おもしろかったです。優待のおかげで、ふだん観ない作品と出会えます」

●番外編 

「そういえば、取材の前に、ヴィレヴァンに寄ったんですよ。『君たちはどう生きるか』と “最低の出来映え” を売りにした『ポプテピピック』を。優待券で1000円引きでした」

 山口氏は相当年季が入った鞄を使っている。

「もう次の鞄は買ってあるんです。バーゲンで、たしか1000円くらいでした。でもこれ、まだ使えますから。優待投資家はみんな“ケチ”。

 愛知に住む知り合いの3億円投資家は、上京するときに深夜バスや青春18きっぷを利用していますし、桐谷さんが自転車に乗ってるのも電車賃が惜しいからでしょう。みんな、贅沢したいというのとは思考が真逆なんです」

(週刊FLASH 2018年2月6日号)