2月14日に江陵オーバルで行なわれた、スピードスケート女子1000m。2位に終わった小平奈緒(相沢病院)の表情は穏やかだった。

「今日はとにかく順位やタイムよりも、目の前にあるきれいなリンクを自分のものにしようと思って、そこだけに集中して……、自分らしいレースが最後までできたと思う」


1000mで銀メダルを獲得した小平奈緒(右)と、これでふたつ目のメダルとなった高木美帆(左)

 こう話す小平の記録は1分13秒82。彼女が今季のW杯ヘレンベーン大会(オランダ)で出した1分13秒99の低地自己最高記録を上回っただけでなく、ブリタニー・ボウ(アメリカ)が2015年にアメリカのミルウォーキーで出した、これまでの低地世界最高記録1分13秒81に0秒01まで迫る素晴らしい記録だった。

 だが、優勝したヨリン・テルモルス(オランダ)は、それを上回る1分13秒56という記録を出した。

 テルモルスはソチ五輪に続いて今回もショートトラックと”二刀流”で代表になっているが、ソチ五輪では、1500mとチームパシュートで優勝した選手。その後は500mと1000mに力を入れて、小平が総合優勝した2017年2月の世界スプリント(カナダ・カルガリー)では3位になっている。1000mでも今季は高地カルガリーで1分12秒53まで記録を伸ばしており、今大会、小平も警戒している存在だった。

 結城匡啓(まさひろ)コーチが「今回のテルモルスの組み合わせは、相手がボウで最高でしたね」と言うように、スタートからの200mは前半が強いボウに引っ張ってもらい、最終周回のバックストレートではボウを追えるという、インスタートの有利さを生かせる展開にも恵まれた。

 一方、小平はスタートからカーブに入るまで距離がないアウトレーンスタート。200m通過も前組の高木美帆(日体大助手)より0秒01遅かった。

 それを小平は「アウトスタートということもあったと思いますが、(インスタートよりも)コーナーに入るまでの加速の部分で少し短いというのがあって、そこがちょっと下手なところ。でも、アウトスタートの特徴をうまく生かしたレースはできたのではないかと思います」と話す。

 200mから600mまでのラップタイムは、全体最速の28秒88まで上げたが、ラスト400mは28秒50のテルモルスや28秒74の高木に比べると遅い29秒27。中距離に強いタイプの選手に後れをとる形となってしまった。

 結城コーチは「アウトスタートだとはいっても、去年の世界スプリントの1本目の1000mは、インスタートだったテルモルスにも0秒02差で勝っているので、そういう問題ではないと思います。ただ、最初のバックストレートでもう少し前を行く相手の後ろに隠れるような形にしていれば、たぶんそこのラップが0秒2くらいは上がったと思う」と分析する。

 小平は、今回の結果をこう振り返った。

「今回はただ、実力がなかっただけだと感じています。どの競技を見ていても、五輪は強い人が強いんだなと感じていたので……。1000mに関しては正直、世界記録(2017年12月・アメリカ・ソルトレイクシティ)を出してはいたけど、『私は強いんだろうか』と、ちょっとまだ信じられない部分があった。そのあたりが結果として出てしまったという風に思いました」

 500mに関しては、昨季から勝ち続けて絶対的な自信を持っている。だが、1000mに関しては、勝てるようになったのは今季から。スタートから全力で滑りきることができる500mとは違い、1000mではペース設定の難しさや、相手の滑りをいかに利用できるかという駆け引きも重要になってくる。

 そんな複雑さがあるなかで、スピードと持久力のバランスも難しいだけに、小平自身も「好きな種目」と口にしてはいたが、まだまだ経験が足りなかったということだろう。

「まだスケーティングが下手なのかなというのはありますね。やっぱりスケーティングがうまくいけば後半に残る体力も違ってくる」

 小平はそう言ってストイックに自身を省(かえり)みる。ただ、100%の力を出して、しっかりとメダルが獲れたという自信は大きい。

「1000mで3位以内に入ることが、500mで金メダルを獲る方程式になっているとも思う。まだチャレンジできる舞台があるので、今は何をリカバリーして次の500mにどう生かすかということに気持ちを切り替えて、しっかり準備をしていきたいと思います」と力強く言う。

 このレースでは高木も、1分13秒台に入る素晴らしい滑りで納得の銅メダルを獲得し、個人種目のメダルを1500mの銀と合わせて2個にした。これも次のチームパシュートにつながるはずだ。女子1000mは金こそ逃したが、日本勢にとっては勢いに乗れる結果になった。

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