先日、政府が2020年までに年金支給開始年齢をさらに引き上げ、70歳超えに先送りできる仕組みをつくろうとしていることが報じられました。しかし、そもそもこの「年金の繰り下げ制度」を実際に利用している人は現在2%程度とのこと。今後、高齢者雇用の広がりとともに利用者も増えていくのでしょうか。無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者・hirokiさんが考察しています。

ついに年金の70歳超えの選択受給可能の方向へ

1月17日に、年金支給開始年齢を70歳超も可能にするというようなニュースがありました。2020年までには法案の国会提出を目指すようですね。前も何か75歳支給開始年齢になるとかなんとかっていう話がありましたが、実際の年金支給開始年齢が上がるという話ではありません。ここはいつになるかわかりませんが^^;。

今現在の年金支給開始年齢は65歳であり、しかもまだ65歳に向かって引き上げ中であります。今年60歳になる昭和33年生まれの女子でもまだ厚生年金支給開始年齢が60歳からの状態です。

65歳前から年金がもらえる人は、年金保険料納付済期間+免除期間+カラ期間≧10年以上を満たして、かつ、厚生年金期間または共済組合期間が1年以上ある人。厚生年金期間と共済組合期間合わせて1年以上でもいい。

● カラ期間とは(参考記事)

しかし、昭和33年4月2日生まれから昭和35年4月1日生まれの女子なら61歳支給開始年齢。昭和41年4月2日以降生まれの女子から完全に65歳支給開始年齢となります(2030年に65歳に引き上げ完了)。男子は昭和36年4月2日以降生まれから完全に65歳支給開始年齢(2025年に65歳に引き上げ完了)。下記のリンクを見ていただければこんな感じで徐々に引き上がっています。

● 厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)

最近騒がれている70歳支給開始年齢とかこの間あった75歳支給開始年齢説というのは、年金制度に昔からある「年金の繰り下げ」という制度の話を言ってます。なんだか、65歳から貰える人が70歳超えてもその繰り下げによる増額が出来る方向になってきました。

年金の繰り下げは自らの選択により65歳から受け取る老齢厚生年金や老齢基礎年金の支給を遅らせる事で1ヶ月ごとに0.7%ずつ年金が増えていきます。だから、65歳時点で厚生年金から老齢厚生年金が90万円で、国民年金から70万円の老齢基礎年金が支給される年金総額160万円の人であれば65歳から70歳までの最大5年間(60ヶ月)年金を貰うのを遅らせれば、0.7%×60ヶ月=42%増額するわけです。老齢厚生年金90万円なら、90万円+90万円×42%=90万円+378,000円=1,278,000円になります。老齢基礎年金なら70万円+70万円×42%=70万円+294,000円=994,000円になる。70歳からは老齢厚生年金1,278,000円+老齢基礎年金994,000円=2,272,000円(月額189,333円)となります。65歳から160万円貰うよりも5年間で672,000円増えました。

これを70歳超えてもなお繰り下げ可能にしようという事ですね。65歳から73歳まで出来るようになれば、8年間繰り下げると96ヶ月×0.7%=67.2%増額って事になりますね。何歳まで出来るようにするのかが気になる所であります。

ちなみによく誤解があるんですが、65歳前から請求してすでに貰ってる厚生年金や共済組合からの年金はこの繰り下げ増額の対象ではありません。記事の冒頭のような生年月日の65歳前から厚生年金貰える人は、年金を貰うのを遅らせるだけな〜んのメリットも無いので(遅らせたからって増えたりしない!)さっさと請求して貰ってしまいましょう。

65歳前から年金がもらえてる生年月日の人は、65歳誕生月になると簡易なハガキタイプの年金請求書が送られてくるので再度年金請求します。この65歳時に請求するのが本来の老齢厚生年金や老齢基礎年金なんです。この65歳から再度の請求により新たに支給が始まる、本来の老齢厚生年金と老齢基礎年金を貰うのを請求せずに遅らせれば年金が増額するという話。

※注意

老齢厚生年金または老齢基礎年金どちらか一方のみを繰り下げてもいい。

さて、5年を超えて繰り下げが出来るようになるというのはどういう取り扱いをするかはわからないですが、このまま繰り下げ期間を引き延ばすだけであれば問題もあります。それは繰り下げ中(以下、繰り下げ待機中という}に本人が亡くなった場合です。

上記の人の65歳時点の年金額160万円を用いるとして、年金をもし65歳から繰り下げ待機中で年金を貰ってなくて、仮に69歳で亡くなったとします。そうすると、亡くなった本人は1円も年金貰わずじまいになってしまいますが、65歳から69歳まで貰えなかった年間160万円×4年=640万円は一定の遺族の請求により未支給年金として支給されます(未支給年金は一時所得として課税)。

一定の遺族というのは貰う順位があって、本人の死亡当時生計を同じくしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、三親等以内の親族の順で最優先順位者が未支給年金を請求して受け取ります。生計を同じくというのは簡単に言うと一緒に住んでたとかそういう意味です。だから、繰り下げ待機中で例え本人が途中で亡くなっても、そういう遺族がいれば未支給年金という形で今まで貰わなかった分の年金は支払われるわけです。

しかし、この未支給年金は時効が5年までしか遡らないんですね。未支給年金に限らず、年金は5年の時効があります。繰り下げが73歳まで出来るようになったとして、65歳から繰り下げ待機中で72歳で亡くなった場合は67歳までしか遡って遺族は未支給年金を貰えません。

最大過去5年間までの貰ってなかった年金を貰うから、160万円×5年(67歳から72歳までの分)=800万円の未支給年金。つまり、65歳から67歳になるまでの2年分160万円×2年=320万円は時効で消滅してしまいます。だから時効には気を付けたいところですね。

ちなみにこの年金の繰り下げをしてる人は受給者の2%もいないんですよ^^;。やっぱり貰えるようになったらさっさと貰いたいという人がほとんどというわけですね。いろいろ例外もあるし…。

まあ、今後も高齢者雇用が拡大していってますので、収入があるうちは年金を貰わずに繰り下げして年金を増やしていくというのも手なのかなと思います。ただ、やはり健康維持も大事ですよね。平均寿命は男子約81歳で女子は約87歳とかなり長生きな日本ですが、健康寿命は男子71歳で女子は74歳くらいであります。

というわけで、今回の年金の繰り下げの70歳超え(5年を超えても更に増額できる)が、どういう取り扱いになるかは動向を見守りましょう。

余談ですが、例えば70歳から繰り下げ増額した年金を貰い始めた以後に死亡しても繰り下げ待機中に貰わなかった年金は未支給年金にはならない。あくまで繰り下げ待機中に亡くなった場合に繰り下げ増額しなかったものとして、過去最大5年間の間に貰わなかった本来の年金を一定の遺族に未支給年金として支給しようというもの。

※追記

繰り下げ待機中に遺族年金や障害年金の受給権を持った場合はそれ以降は繰り下げ出来ません。だから65歳時点で元々これらの受給権を持ってる人は繰り下げ対象外。ただし、障害基礎年金のみの受給権者であれば、老齢厚生年金のみは繰り下げできる。

ところで仮に自分が年金の繰り下げ待機中に老齢厚生年金受給権者である配偶者が死亡した場合は、死亡日時点が遺族厚生年金の受給権発生日になるのでそれ以降の繰り下げ増額は不可になる。

また、繰り下げは1ヶ月遅らせるごとに0.7%増えますが、最低でも66歳到達日(誕生日の前日)までは遅らせないといけない。つまり65歳から最低でも1年は待つ必要がある。例えば、65歳10ヶ月で10ヶ月分の繰り下げ増額分を請求して貰うというのは不可。

● 年金の繰下げ(日本年金機構)

● 亡くなった受給者の年金は誰が貰う?「未支給年金」の受け取り方(まぐまぐニュース参考記事)

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