「『どうすればゴールデンステート・ウォリアーズに勝てるか』に執着している。去年のプレーオフではサンアントニオ・スパーズに敗れたわけだから、もちろんスパーズのことも気にしてはいる。その一方で、私たちが王座に辿り着きたいなら、ウォリアーズを倒さなければいけない。オフの補強策はそのことを念頭においてのものだった」

 2017年12月18日、ヒューストン・ロケッツのダリル・モレイGMは、ESPNラジオの番組「The Ryen Russillo Show」に出演した際にそう述べていた。強豪チームの人事担当がライバルを名指しすることは珍しいが、過去3年で2度もファイナルを制したウォリアーズの強さが、それだけとてつもないということだろう。


ロケッツのエースとしてチームをけん引するジェームズ・ハーデン

 ケビン・デュラント、ステファン・カリーを軸とする最強軍団・ウォリアーズを撃破することを目標に、ロケッツはチーム作りを続けてきた。オフにオールスターに9度の出場経験があるPGクリス・ポールをトレードで獲得し、新たな軸を生み出すことに成功した。

 さらに、ルーク・バー・ア・ムーテ、PJ・タッカーといった守備的な選手をチームに加えた。これらの補強のおかげもあって、昨季まで攻撃偏重だったチームは、今季のディフェンシブ・レイティングでリーグ12位(昨季は18位)と守備面でも向上している。
 
 また、エースのジェームズ・ハーデンも平均32.3得点、9.1アシスト、5.0リバウンドと絶好調。ハーデン、ポールがセンターのクリント・カペラとのピック&ロールでスペースを作り、ライアン・アンダーソン、トレバー・アリーザ、エリック・ゴードンといったシューターたちが外から射抜くスタイルが確立されてきた。

 こうして攻守がかみ合ったロケッツは、昨年12月18日まで14連勝を飾る。この時点ではウォリアーズをも上回り、リーグ最高勝率で首位を突っ走っていたのだった。

「打倒ウォリアーズに近いチームが存在するとすれば、過去3年連続でイースタン・カンファレンス王者となったクリーブランド・キャバリアーズや、伝統の強豪スパーズではなく、成長を感じさせるロケッツではないか」

 今季の序盤の戦いを見て、NBA関係者の間でもそんな見方がささやかれることが多かった。その理由が、前述した通り、補強でディフェンスが向上したことと、ハーデンの絶対的な存在感にあったことに疑いの余地はない。

「私はこの時期に相手チームのフィルムを見て研究はしない。しかし、ハーデンは例外だ。彼はとてつもないからね」

 2016年の年末、スパーズのグレッグ・ポポビッチHCが残していたそんな言葉が、ハーデンへの評価の高さを物語る。現役屈指の”アンストッパブル”なスコアラーと目されるサウスポーへの対抗策を見つけることは、”現代の名将”の名を欲しいままにするポポビッチにとっても簡単ではないということだろう。

 過去3年間のMVP投票で2度も2位に入ったハーデンが健在なら、ロケッツの視界は良好。これまで同世代のスターたちの陰に隠れてきた感もあった28歳のスーパースターにとって、チームも好調な2017-18シーズンは、ついにMVPを受賞する絶好機と言えるのかもしれない。

 だが、そんなロケッツとハーデンも、2017年の年末にはやや調子を落とした。前述通り、12月18日まで14連勝を挙げながら、その後に5連敗。特に、イースタン・カンファレンス首位のボストン・セルティックスと敵地で対戦した12月28日のゲームでは、26点差のリードを引っ繰り返されての大逆転負けを喫した。

 セルティックス戦の後半のハーデンは、FGが17本中3本、3アシスト、5ターンオーバーという大乱調。終了間際の約7秒の間に2連続でオフェンシブファウルを犯し、チームを勝利に導くどころか敗因になってしまった。

 しかしながら、悪い条件が重なっての黒星を悲観しすぎる必要はないのだろう。このセルティックス戦では、ポール、バー・ア・ムーテ、カペラという3人のスタメンが欠場していた。しかも、11戦中8戦がロードゲームという厳しい日程の真っ最中なのだから、ある程度負けが込むのは仕方ない。

「長いシーズンだ。いいときもあれば悪いときもある。うまくいかなくても、すぐにまた次のゲームがあるんだから」

 マイク・ダントーニHCのそんな言葉通り、調子を落とす時期はどんな強豪チームにもあるものだ。 ハーデンは12月31日のレイカーズ戦中に左足ハムストリングを傷め、少なくとも2週間離脱と発表されたが、重症とは考えられていない。だとすれば、今後もシーズン中はハイペースで勝利を重ねていくだろう。

 この苦しい期間に浮き彫りになったのは、強豪チームを相手にした場合、ハーデンにもやはり上質なヘルプが必要だということだ。

 MVP候補筆頭のハーデンの力をもってしても、マークが集中した状態で強豪相手に活路を開き続けるのは難しい。セルティックス戦の終盤も、「ポールがいればこんなに崩れなかったはず」と感じたファンは多かっただろう。

 エースの相棒として、今季は故障がちながら平均16.6得点、8.8アシストを残してきた名司令塔のポールの存在は、やはり絶対不可欠である。ポール、ハーデンを先頭に、アリーザ、アンダーソン、カペラといったスタメンがすべて揃ったゲームでのロケッツは、今季12戦全勝と依然として負けを知らない。

「ポールが万全の状態ならという条件付きで、今季のロケッツはウォリアーズに勝てるチャンスがあると思う。去年までより身体能力に秀でているため、昨季のプレーオフで敗れたスパーズは倒せるだろう。ただ、ウォリアーズの壁を破るとすれば、最大の得点源であるハーデンではなく、メンタル面でタフなポールが好調に動く必要がある。連勝を続けている間も、チームをまとめていたのはハーデンではなくポールの方だった」

 セルティックス戦のあと、地元テレビ局の関係者はそう話していたが、本当に多くのファンや現場の人間が今季のロケッツに注目している。2018年のNBAをより面白くするために、カギを握るチームのひとつであることは間違いない。

 そんな周囲の期待通り、ロケッツは王者への”最強のチャレンジャー”として浮上できるのか。ハーデン、ポールが足並みを揃え、ウォリアーズを脅(おびや)かすことはできるのか。

 圧倒的な強さを誇る昨季の王者に迫るのはかなり難しいが、今季のロケッツはもともと”打倒ウォリアーズ”を想定して作られてきたチーム。プレーオフでの対決が予想される5月に照準を合わせ、長い戦いは始まったばかりである。

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