(イラスト:ちたまロケッツ)
 
『お笑い』→『海外ドラマ』→『マンガ』→『ラジオ』の4ジャンルを週替わりで、そのスペシャリストが“最推し番組”を指南する『今週の萌えガタリ』。今週は『ラジオ』ということで、『ラジオの時間』編集人の村上謙三久さんが最推し番組を紹介!
 
【最推し番組】『伊集院光とらじおと』/TBSラジオで毎週月〜木曜日8時30分〜放送中
 
伊集院光とらじおと』は、首都圏の聴取率調査で全番組中1位を記録したことがあるTBSラジオの人気帯番組。各曜日に個性的なコーナーがありますが、火曜日に放送されているのが「俺の5つ星」です。
 
リスナーの思い出に残る飲食店を捜索するコーナーなんですが、何十年も前の個人的な記憶に基づいた情報なので、当然インターネットで調べてもわかりません。お店も当時あった場所にないことがほとんど。そこで、リスナーから情報を募っていきます。
 
面白いのが「投稿者にとっての5つ星店が、他の誰かにとっても思い出のお店だった」という形が多いこと。いろんな場所でいろんな人の記憶に残っている情報が、ラジオを通じて繋がっていき、曖昧だった記憶が再構築されていくんです。最終的に関係者に辿り着けることもあれば、途中で情報の糸が途切れてしまうこともあります。お店の主人が廃業されていたり、料理の再現をお願いしても「当時の美味しかった記憶に応えられない」と断られることもあって、“ほろ苦さ”も少し感じられるコーナーです。
 
最近で印象的だったのはザ・クロマニヨンズ真島昌利さんがゲストに来た回。真島さんは「花小金井にあったおにぎり屋」を探していました。三十数年前、1人暮らしをしていた真島さんは毎日このおにぎりを食べていたそうなんです。
 
「真島さんと同じおにぎりを食べてたかと思うとジタバタする」というファン、真島さんの中学時代の同級生などから情報が集まって、おにぎりの種類や包装の仕方、お店があった時期、店舗の表記がカタカナ、海苔はなしで三角形の型で作られていたことなど明らかになっていきます。そして、当時のお店の情景や状況が明確になり、真島さんの記憶も甦っていきます。
 
ここで、事前に行われた近隣への聞き込み調査の末に、店主と接触できたことが明らかに。おにぎり屋は’06年に閉店していて、今は別の仕事に就かれていました。レシピも残っていないとのこと。でも、真島さんの気持ちに触れ、11年ぶりにおにぎりを作ることを快諾してくれました。スタジオにおにぎりが運ばれてきて、真島さんは放送中に思い出の味を再び口にします。真島さんはそのおにぎりを見た瞬間から涙ぐみ、泣きながら食べていました。「こういうパーツで思い出って一気に来ますよね。水門が開いちゃうわ」という伊集院さんの言葉が印象的でした。
 
あくまでもラジオは音声だけなので、リスナーはその思い出の料理を目にすることはできません。ただ、いろんな人たちの思い入れを聴くだけで、不思議とありありと思い浮かぶようになるんですよね。食べたことないけど、自分の思い出のように感じられる。そして、無性にお腹が減る。そんな素敵なコーナーです。