英語にはネコを使った表現がたくさんある(写真:aksenovko / PIXTA)

2010年あたりからジワリジワリと人気を集め出したネコ。2015年にはネコグッズの売り上げだけで2兆円を超え、「ネコノミクス」という言葉まで誕生したのだとか。確かに、筆者が教える英語研修のトピックで Are you a dog person or a cat person? (あなたはイヌ派、ネコ派?)と聞いてみるとネコ派が多くなってきた気がします。

今回はネコにまつわるさまざまな英語表現を取り上げてみます。英語にはネコを使った表現がたくさんありますが、意外な意味のものもあってビックリするかもしれません。

甘えないネコと甘えるイヌ


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先ほどのトピックを聞いて「イヌ人間? ネコ人間?」とつぶやくタロウさんに、No, it means “a dog lover” or “a cat lover”! (じゃなくて、「イヌ好き」か「ネコ好き」かってことよ!)と解説してくれたハナコさん。あるIT企業での研修の出来事です。

話を聞いていると、タロウさんはネコ派、ハナコさんはイヌ派のよう。筆者も話に割り込んでWhy do you like cats?(ネコが好きな理由は?)とタロウさんに尋ねると、しばらく考え込んだのち、They don’t care about people and do whatever they want to do.(ネコは人間のことはどうでもいいと思っていて、自分の好きなことをする)と説明してくれました。

なるほど、ネコの甘えない姿勢や気ままな様子が好きということですよね。筆者なりに、こんなふうに言い換えてみました。

They are independent and live life on their own terms.
(ネコは依存しないし、自分の思うがままに過ごしている)

甘えない様子はindependentという単語がいちばん近い気がします。on one’s own termsは「自分の好きなように」という表現なので、覚えておくと便利ですね。「おお、okay, okay!」とメモを取るタロウさん。

するとイヌ派のハナコさんも黙っていません。Dogs come to you and ask to care about them, and you can know you’re important to them.(イヌは寄ってきて、気にかけてくれとせがむから、自分が彼らにとって大切な存在だってわかる)とイヌの人懐っこさと、自己承認欲求を満たしてくれることをアピール。こちらはこんな表現に直してあげました。

Dogs ask for your attention, so I can feel needed and wanted.
(イヌは構ってほしいとせがむから、必要とされていることを感じることができる)

「必要とされたい」「求められたい」というところは、こんなふうに受動態にすると便利ですね。同じように I feel loved! と言ったら「愛されていると感じられる」という意味になって、人から優しくされて愛を感じたときなどに使えます。

ハナコさんは引っ込み思案なので、イヌのように向こうから来てくれるほうが、気が楽とのこと。するとタロウさん、からかうような表情で、

You are a dog person but you are just wearing a cat!

と意味不明なことを言います。イヌとネコの話をしていたので、「イヌが好きだからって、ネコをディスってるだけだろう!」のような意味にしたいのかと思ったのですが、すぐに「ネコをかぶっている」を直訳したのだとわかりました。

「ネコをかぶる」は英語でなんと言う?

タロウさんいわく、ハナコさんは自分からガンガン行けるタイプだということで、ちょっと冗談を交えてのコメントだったようですが、「ネコをかぶる」はwear a catでは通じません。

どんな英訳がしっくりくるかというのは、どういう意味で「ネコをかぶっている」を使用するかにもよりますが、研修では次のような表現を教えました。

You are just acting shy! (ただシャイなふりをしているだけだろ!)

さすがにイヌとネコをかけた冗談としては成立しないのですが、「シャイなふりをする」というact shyという表現がいいのではないでしょうか。

このほかにplay innocentという表現もあります。innocentには「無罪」という意味があり、play innocentで「しらを切る(無罪のふりをする)」という意味になります。「事情を知っているのにとぼける」の意味で「ネコをかぶる」と言うときはこちらのほうがピッタリでしょう。

オフィスに戻ってから、同僚のネーティブたちに「ネコをかぶる」の意味を説明して、もう少し近いニュアンスの表現が英語にないか聞いてみたのですが、なかなかこれという表現が思いつかない様子でした。

play dumbという表現が出てきましたが、これもplay innocentと同様に「しらばくれる」という意味です。より口語調な表現ですので、一緒に覚えておくと便利だと思います。

「本性を隠しておとなしいふりをする」というようなものがないか、数名で悩んだあげく、どうしても日本語に近い意味で表現したいなら、「pretend to be(形容詞)」の形にして好きな形容詞を入れるほうが、誤解がないのではないかという結論に至りました。必ずしも同じようなイディオムが存在するわけではないので、しかたがないですね。

ネコをかぶる

acting shy シャイなふりをする
play innocent しらを切る
play dumb しらばくれる・とぼける
pretend to be (形容詞)(形容詞)なふりをする

ネコの毛色いろいろ

タロウさん、ハナコさん以外でも、どのくらいの割合でネコ派とイヌ派がいるのか聞いてみると、8人中4人がネコ派、3人がイヌ派、1人はどちらも嫌いという結果でした。筆者は強いて選ぶならイヌ派。でも、ネコもかわいいのでネコ派の気持ちもよくわかります。

研修生たちも、お互いに「だよね〜!」とか「意外!」などと盛り上がっていましたが、そんな中でネコ派のナナコさんが、愛猫のタマちゃんの写真を見せてくれました。タロウさんが真っ先に食いついて

Oh, she is a three hair cat! (あ、この子は毛が3本ネコ!)

と叫びます。「三毛猫」と言いたかったのでしょうけど、オバケのQ太郎になってしまいました。筆者が訂正しようとするとナナコさんが、

No! Tama is a tortoiseshell. (違うよ!タマちゃんはサビ猫)

と言うので、不思議に思ってNanako, she is not a tortoiseshell.(ナナコさん、タマちゃんはサビ猫じゃないよ)と教えてあげました。驚いたナナコさん、以前和英辞典で「三毛猫」を調べたらtortoiseshellと書いてあったのだとか。

tortoise /ˈtɔrſəs/ は発音が難しく、「トーラス」のように読みます。日本語では「トータス」というカタカナがあてられますが、これは「リクガメ」のこと。shellは「甲羅」という意味ですから、tortoiseshellは「べっ甲」。つまり、tortoiseshellをネコに使うと黒と赤(茶色)の毛が、べっ甲のように混ざった「サビ猫」のことを指します。

なぜその辞書は「三毛猫」の欄にtortoiseshellを載せたのでしょう? 通常、英語で三毛猫はcalico catと言います。略してcalicoだけで呼ぶこともあります。calico /ˈkælɪˌkoʊ/ の発音は文字どおりにそのまま読んで、「キャレコウ」のように言えば大丈夫です。

Tama is a calico (cat). (タマちゃんは三毛猫)

これ以外に、ネコの毛色を表す英語表現で覚えておくと便利なのがtabby /ˈtæbi/(テャビー)です。これは「トラ猫」のこと。トラのように縞模様になっている毛色のネコを指します。

すると、タロウさんが What do you call “buchi-neko” in English?(ブチ猫は英語でなんと言うんですか?)と質問してきました。ブチ猫は、毛が2色のネコのことですが、筆者が聞いたことがあるのはtuxedo (cat) (タキシード猫)という黒と白の2色で、背中が黒く、胸や腹が白いパターンのネコくらい。ブチ猫全般に何か名前がついているのかどうか答えられなかったので、これは筆者の宿題にしてもらいました。

オフィスに戻ってからネコ好きのジョンに聞いてみると、彼の話ではtuxedo以外のブチ猫には特別な名前があるわけではなく、そのままbicolor (cat)(2色のネコ)と言うようです。

tortoiseshell サビ猫
calico (cat) 三毛猫
tabby (cat)  トラ猫
bicolor (cat) ブチ猫

ネコが登場する英語表現

せっかくネコの話で盛り上がったので、ネコが含まれる英語の表現で有名なものをいくつか研修で教えました。覚えておいて、冗談ぽく会話で使ったりすると、しゃれた感じでカッコいいかも!?

Curiosity killed the cat. (好奇心はネコを殺す〔詮索は災いのもと〕)

これは余計なことを根掘り葉掘り尋ねる人を戒めるときに使う表現です。「好奇心旺盛なネコは危険なところに立ち入って命を落とす」ということで、「詮索も大概にしろ!」のように使うといいでしょう。もともとはCare killed the cat. (心配事はネコを殺す)という表現だったようですが、いつどこで変わったんでしょうね。聞かれたことに答えたくないとき、こんな表現でごまかしてみたらどうでしょう?

ただ、質問に答えたくないからと、黙り込んでいると、

Cat got your tongue? (ネコに舌を取られたの?〔なんで黙ってるの?〕)

と言われてしまうかもしれませんが。

この表現の由来はたくさんあって、どれが本当なのかよくわかりません。舌を切ってネコの餌にしたからとか、ネコには人を話せなくする魔力があるからとか、cat-o'-nine-tails(九尾の猫)という体罰用のむちで話せなくなるからだとか……。ネーティブに聞いても、どれが信憑性の高い説なのかはわかりませんでした。

本来は Has the cat got your tongue? という文ですが、口語では Cat got your tongue? と短くして使います。

次に、こんな表現は聞いたことがありますか。

let the cat out of the bag (ネコを袋から出す〔うっかり秘密を漏らす〕)

「隠しておいた秘密をばらす」という意味で使う表現です。

問い詰められたからといって、大事な秘密を漏らしてはいけませんね。Please don’t let the cat out of the bag. (秘密は守ってください)

一説では、昔、市場で子ブタの代わりにネコを袋に詰めて売る詐欺があったとのこと。その際、袋からネコが出てしまい詐欺がばれたというエピソードからきた表現なのだとか。自分の好きな文に当てはめてそのまま使うことができます。

Who let the cat out of the bag?
(口を滑らせたのは誰だ?)
My crush knows I like him because my best friend, Kyoko, let the cat out of the bag!
(好きな人に私の気持ちを知られたわ、親友のキョウコがばらしたのよ!)

袋から飛び出したネコがあちこち駆けまわっている様子を思い浮かべると、秘密がどんどん広がっていくようなイメージで面白いですね。

鬼の居ぬ間に洗濯

最後にこんなことわざも覚えておくといいでしょう。

When the cat’s away, the mice will play.
(ネコがいないときに、ネズミたちが遊ぶ〔鬼の居ぬ間に洗濯〕)

日本の「鬼の居ぬ間に洗濯」は「遠慮する人がいないすきに、思い切りくつろいで命の洗濯をする」という意味ですが、英語のほうがかわいらしい感じがしますね。ネズミたちがのびのびと走りまわっているような情景が浮かびます。

ちなみにmice /maɪs/「マイス」はmouse /maʊs/「マウス」(ネズミ)の複数形。特殊な変化なので覚えておいてください。でも、これがcomputer mouse(コンピュータのマウス)のときには、複数形はmiceだけでなく、mousesと言ってもいいようです。近くにネーティブがいたら、その人がどっちを使うか試しに聞いてみてください。正式にどちらを使うのかが決まっていないので、企業などが製品の話をするときにはmouse devicesと呼んでmouseの複数形の使用を避けるようです。

研修の終わりに週末の予定を聞くと、ハナコさんはご主人が出張で福岡に行くので、友達とのんびりするとのこと。タロウさんがすかさず、Oh, when the cat’s away, the mouse will play!(ネコがいないときに、ネズミが遊ぶ)とわざわざネズミを単数形にしてからかいます。新しく学んだものをすぐに使ってくれるのはうれしいのですが、いつも冗談になってしまうのがなんとも……。

ムッとしたハナコさんが、I don’t change at all whether he’s with me or not!(ダンナがいようがいまいが、私はまったく変わらないです!)と言うと、タロウさん、No, no, you’re the cat!(違う、違う、ハナコさんがネコだよ!)と言って大笑い。思い切り背中をたたかれていましたが、仲がいいのやら悪いのやら……。