黎明通りの建設場を現地指導した金正恩氏(2017年1月26日付労働新聞より)

写真拡大

北朝鮮の冬は、長く厳しく辛い。

世界気象機関(WMO)の統計によると、平壌の1月の平均最低気温は氷点下10.7度。北海道の釧路(氷点下10.4度)とほぼ同じだ。また、1949年12月29日には気象観測史上最低となる氷点下30.2度を、2001年1月12日には氷点下26.5度を記録した。暖房のない環境で寝ていたら、凍死しかねない寒さである。

庶民は「対岸の火事」

そんな厳寒の冬を乗り切るために欠かせないのがオンドル(床暖房)だが、その燃料となるプロパンガス価格が高騰していると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、ボンベに20キロのプロパンガスを充填する料金が昨年の200元(約3400円)から800元(約1万3700円)へと4倍に跳ね上がった。そのうえ品薄となったため、平壌在住の幹部の間に動揺が広がっている。

平壌市内では、火力発電所の排熱を利用した温水で部屋を暖めるセントラルヒーティングを採用している住宅が多いが、火力発電所がまともに稼働していないため、暖房が効かない。また、築50年以上の古いマンションでは、温水供給用の鉄製パイプが完全に腐食し、お湯が循環せず、部屋は寒いままだ。

そこで幹部たちは、自宅にボイラーとプロパンガスのボンベを設置して、暖房から炊事、洗濯、シャワーに使う温水を賄っている。

そんなこともあり彼らは「平壌では、敵は米国ではなくプロパンガス(の高騰)だ」と嘆いているという。

一方、石炭に暖房を頼っている平壌在住の庶民や地方住民にとって、プロパンガス価格の高騰は対岸の火事だ。また、古い住宅に住む幹部らはソーラーパネルを利用したり、マンションにかまどを設置し、石炭暖房ができるようにリフォームしたりしている。

北朝鮮では現在、経済制裁で輸出できなくなった石炭が国内に大量に出回り、価格が暴落している。庶民は、石炭をふんだんに使って冬を温かく過ごせそうだとして「制裁がもっと強化されたらいいのに」と喜んでいるという。

(関連記事:「もっと経済制裁が強化されたら嬉しい」北朝鮮庶民から意外な声

マンションの住人の中には、冷凍庫と化した我が家から脱出し、親戚の家やブローカーに紹介してもらった貸家など、暖房の効く家に春まで避難する人もいる。

(関連記事:暖房が止まった極寒の平壌に「珍商売」が出現)

かくして、高級幹部は金正恩氏が旗振り役となって建設した倉田(チャンジョン)通り、未来科学者通り、黎明(リョミョン)通りのタワーマンションを放ったらかしにして、別の家で冬を乗り切るというわけだ。

冬の間、暖房を入れずに住宅を放置すると室内が氷結し、建物が痛んでしまう。春の訪れと共に氷が溶けると、カビが生える懸念もある。北朝鮮の幹部たちは、今後しばらく、辛い冬に耐えなければならないようだ。