10月2日、赤羽駅で街宣する太田昭宏前国土交通相。自公は強力なタッグを組んでいるが、公明党は苦戦を余儀なくされている(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

「与党圧勝」「自公で300議席超え」との報道が相次いでいる中で、与党の一角である公明党も善戦しているのかといえばそうではない。希望の党の失墜ぶりが報道されているが、実は公明党も苦戦しているのだ。目標は「35議席(前回の獲得議席数)に上積み」だが、定数が10議席減少の影響もあって、大きく後退するとみられている。

もっとも苦戦しているのが北海道10区の稲津久氏。山口那津男代表が10月10日の公示日に、第一声の場所として選んだのが北海道。まずは少子高齢化対策や教育無償化について話し、無年金問題についての自分たちの功績を披露した後、山口代表は声のトーンを強めてこう言った。

希望の党、立憲民主党をバッサリ

「『安保法制廃止』『憲法違反』とあれだけプラカードを持って反対を叫んでいた人が、希望の党からさっさと考えを変えて公認をもらうために衣替えしてしまった。小池(百合子・希望の党代表)さんから入れてもらえない人たちが作ったのが立憲民主党。ご都合主義で考え方はころころと変わるが、中身は民進党の人でしょ。もとをただせば民主党の人でしょ。あの政権運営に失敗した時の反省はないのでしょうか」

「この選挙で勝つために共産党とともに戦うと言っている。でも政策がまるで違うではありませんか。少子高齢化社会のために消費税は必要と、立憲民主党は言っている。共産党は消費税をなくせ、反対だという主張だ。まるで正反対で、まったく無責任ではありませんか」

「これから北朝鮮問題でしっかりと守りを固めて世界と手を携えていこうという時に、その主役となる自衛隊について認めて『頑張れ』というのが立憲民主党だが、共産党は『憲法違反だから消えてなくなれ』と言っている。こんな大事な国の政策について、まるで反対のことを言っている人たちが選挙の時だけ一緒になってやろう、どうしてそういう人たちに私たちの命と暮らしを任せることができますか。できるはずがないではありませんか」

初日の応援にもかかわらず、山口代表の声はすでに枯れていた。熾烈な戦いの前兆だ。

公明党の苦戦ぶりと危機感は選挙戦での情勢のバロメーターである公明新聞にも表れている。10月9日の同紙は一面上部に稲津氏の写真を掲げ、「いなづ久、危うし!」と訴えた。下部には「上田いさむ、重大局面」と、神奈川6区の上田勇氏の苦戦を伝えている。16日には2人の写真を並べて「いなづ、上田 圏外」と見出しを付けた。

10月17日には山口代表は2度目の北海道入りを果たした。10月15日には稲津氏のもとに安倍晋三首相が応援に駆けつけている。

「比例も厳しい。特に1議席減の東北ブロック、北関東ブロック、九州・沖縄ブロックでは苦戦している」。衆院選の戦いの真っ最中にいる公明党の議員秘書はこう話す。公明党は2014年の衆院選で、東北ブロックは1議席増の2議席を獲得し、九州・沖縄ブロックでも1議席増の4議席を確保した。その躍進の反動が来ているようだ。

女性スキャンダルも逆風に

さらに今回、懸念されたことがある。衆院選前に週刊誌が報じた女性スキャンダルの影響だ。長沢広明復興担当副大臣(参議院比例・当時)は9月26日、家族と秘書以外は宿泊できない議員宿舎に知人女性を宿泊させたことが週刊誌に報じられ、責任をとって離党し議員辞職した。

衆院選で近畿ブロックから出馬予定だった樋口尚也前文部科学政務官についても、週刊誌で女性問題が報じられたために、本人が公認辞退と離党届を提出。党本部は10月3日に樋口氏の公認を取り消している。

公明党にしては珍しく、女性問題が2つ続いた。そればかりではない。さらにもうひとつ、週刊誌でスキャンダルが出るかもしれないという噂が流れた。公明党内部では公示日前まで、戦々恐々とした空気が流れていたようだ。

苦戦しているのは公明党だけではない。2014年には大躍進を遂げた共産党が、いまいち元気がない。

10月14日午後、新宿駅東口で開かれた「HOLD YOUR HAND」。日本共産党の志位和夫委員長と吉良佳子参議院議員が参加した。

「あまりに安倍政権は市民の声を無視しているのではありませんか」。国会前で行われている“金曜デモ”などを例に挙げて、吉良氏が右手を大きく広げて訴える。しかしながら集まっているのは100人程度で、その顔を見れば明らかに組織による動員だ。一般通行人で足を止める人はほぼ皆無で、吉良氏が東京選挙区で当選した2013年の参院選のような熱気はない。

立憲民主党の演説とは対照的

マイクが志位氏に渡されても、同じ状況だった。「今日はこういう機会ですので、2つ話をさせていただきたい。ひとつは世界のこと。今度の選挙が始まる前に素晴らしいことがあった。核兵器廃絶国際キャンペーンICANの皆さんにノーベル平和賞が贈られた。心から祝福と歓迎を言いたいと思う」。北朝鮮で9月3日に行われた核実験は、広島の10倍の威力を持つ。その危機を訴えようとするが、問題が重大であるにもかかわらず、どうも人の集まりがよくない。


池袋駅東口で街宣する共産党の志位和夫委員長(筆者撮影)

同じ頃、東南口では立憲民主党の枝野幸男代表らが演説し、3000人もの人を集めていた。翌15日には希望の党の小池百合子代表が演説したが、聴衆はその6割程度だった。もはや“緑の革命”は起こらないだろう。流れはほぼ決まったといえる。

共産党は2012年の衆院選では8議席にとどまったが、2014年には21議席まで躍進した。風があれば伸びるのが共産党だが、その反面、風が吹かない時は大きく減少する。今回は大きく議席を落とす可能性が高そうだ。

その一方で、なにがなんでも目標議席数を獲ろうというのが公明党。比例区ではなんとか目標議席を達成しそうだが、小選挙区ではどうか。

「苦戦と見極めれば、比例に重点を置くことはありうる。2009年の衆院選はそうだった」(公明党関係者)。この時の公明党は小選挙区では全員が落選し、議席数は31議席から21議席と10議席も減らしている。はたして今回の衆院選はどうなるか。希望の党の興亡と立憲民主党の躍進ぶりにややもすれば隠れがちだが、組織政党の動向は日本の政治を見る上で極めて重要なファクターだ。