北朝鮮の金正恩党委員長は2016年12月23日、朝鮮労働党の「第1回全党初級党委員長大会」で開会の辞を述べ、次のように指摘した。

「初級党組織に内在している欠陥、初級党委員長の役割と活動作風に関する問題を批判的に深く分析、総括し、(中略)すべての参加者が党的良心を持って自身を振り返り、欠陥を大胆に是正するために努める」

いたる所で

初級党組織とは、地域や各種団体の末端組織、国営企業の職場に置かれた、末端に近い党組織である。その責任者である委員長たちは、欠陥だらけで良心に欠けている。何とかしなければならない――正恩氏は、このように言って末端幹部たちを叱責したわけである。

では、初級党委員長たちの欠陥とは何で、どのように良心に欠けているのだろうか。その具体的な事例について、咸鏡北道(ハムギョンブクト)に住む内部情報筋の安さんからデイリーNKに告発が届いた。

安さんが告発したのは、同道の会寧(フェリョン)市にある某工場の初級党委員長、イ・ギョンソプという男である。安さんによれば、イ委員長は職権を乱用し、工場の女性職員たちに性的暴行を繰り返しているという。

イ委員長の餌食になっているのは、主に電話交換手の女性たちだという。北朝鮮の職場では、初級党委員長の裁可なしには人事は実行できない。つまり、誰をどの職場に配置するかは、初級党委員長の思うがままというわけだ。

電話交換手は、若い女性に人気の仕事だ。理由はわからないが、交換手を務めていたというだけで結婚相手選びでも有利になるという。イ委員長はこうした人事権を道具に、女性を言葉巧みに誘い出し、性的暴行を加えているというのだ。

また、初級党委員長は保衛局(秘密警察)や保安署(警察)に対する告発の窓口にもなっているため、女性たちは泣き寝入りを強いられているというのである。

こうした不正は、北朝鮮社会の至るところで行われている。

そもそも、初級党委員長が資質や人格で選ばれることすらほとんどないという。初級党委員長の人選に影響するのは、希望者が有力者に渡すワイロだけだ。つまり、初級党委員長の職責そのものが不正の象徴なのだ。

正恩氏がわざわざ初級党委員長大会を開き、自ら叱責の言葉を発せねばならなかったのは、初級党組織の腐敗がそれだけ目に余り、国家運営にネガティブな影響を与えているからだろう。しかし安さんの告発は、正恩氏の言葉が初級党委員長たちにまったく届いていないことを物語っている。

正恩氏は、恐怖政治によってその権威を保っている。たとえば一昨年、スッポン養殖工場を現地指導した際、管理が行き届いていないことに激怒し、支配人を銃殺させた。それだけでなく、そのときの様子を動画で公開。部下たちを震え上がらせた。

しかし、初級党委員長は何しろ数が多い。

ひとりやふたり処刑したところで、全体を監督するのは至難の業なのだろう。

もっとも、悪いのは初級党委員長だけではない。北朝鮮の官僚機構は、上から下まで腐敗が行き渡っている。

(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙

正恩氏がいくらあがいたところで、現状が良くなる可能性は限りなく低いのだ。