攻守で際立った貢献度を見せる長谷部。10月の2試合ではその不在が大きな痛手となった。写真:サッカーダイジェスト

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 日本代表にとっては、長谷部誠の重要性が改めて浮き彫りになったキリンチャレンジカップとなった。10月6日のニュージーランド戦(○2-1)、10日のハイチ戦(△3-3)ともに、ハリルジャパンは戦術的にも精神的にもキャプテン不在が顕在化したのだ。
 
 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は最近、中盤が三角形(ダブルボランチ+トップ下)と逆三角形(アンカー+2インサイドハーフ)のシステムを併用。前者ではボランチの一角、後者ではアンカーに入る長谷部は、際立った戦術眼とポジショニングで中盤を支える。危険なスペースを素早く埋め、的確な散らしで組み立てを円滑にし、絶妙なタメを作るなど、攻守でピカイチの貢献度を見せるのだ。
 
 ニュージーランド戦はダブルボランチに山口蛍と井手口陽介、シリア戦はアンカーに遠藤航を起用したが、いずれもトップ下やインサイドハーフとの距離感が曖昧で、中盤の連動性低下を招いた。
 
 守備時にとりわけ長谷部不在を感じさせたのが逆三角形システムの時で、中盤の底に位置しながらも、左右前後に目を光らせてバランスを取る役割が、9月のサウジアラビア戦の山口と同じく、シリア戦の遠藤にはできていなかった。
 
 香川真司もハイチ戦後、「中盤にもちょっと距離があって。最初の失点のところでも、1ボランチがもうちょっとプレスをかけるとかしないといけない。あそこにいるだけじゃなくてね。それは航もできると思う」と中盤のアンバランスさを課題に挙げた。
 
 攻撃時で浮き彫りになったのが、ゲームコントロールの部分だ。長谷部は例えば往年の遠藤保仁のような長短のセンス溢れるパスを供給する司令塔ではないが、局面を一気に前に進めるべきなのか、キープして時間を作るべきなのか、そのあたりの判断力が極めて的確。しかも、それをチーム全体に波及させ、オーガナイズできる。
 
 ニュージーランド戦は20分すぎからハーフタイムまで、そして59分に先制した後、チームコンセプト通り縦に速く攻めるのか、それともボールキープしたり全体を下げたりして耐えるのかが曖昧になり、相手に主導権を握られた。ハリルホジッチ監督も試合後の会見で、こう苦言を呈した。
 
「スピードアップの局面はしっかり上げる、ペースを落としボールを持つ局面はしっかり回す、その時間を掴まなくてはいけない。そこが正確にできない。相手にとって読みやすいプレーになったかもしれない」
 
 そして、ハイチ戦では、2点を先制しながらも、28分の失点でチームが完全に“フリーズ”。一気に攻守が機能しなくなり、現政権下では最多の3失点という体たらくを招いた。指揮官もこう肩を落とした。
 
「私が就任してから最低の試合だった。監督キャリアの中でもこんなゲームは見たことがない。オーガナイズがまったくなかった。失点してすべてが止まってしまった。理解できない」
 
 ハリルホジッチ監督がこのハイチ戦でとくに強調したのが、選手たちの精神面の弱さだった。「なぜこんなにパニックになったのか。何をすべきかが分からなくなった選手がいた」と嘆いた。
 
「何人かの選手のメンタル的な脆さに、ちょっとガッカリしている。相手はそこまで強豪国じゃないにもかかわらず、ナイーブになり、パニックになった。気が緩んだ選手、守備で帰らない選手、準備ができていない選手がいた」
 
 とりわけこのメンタリティーの部分は、長谷部不在が大きく響いたように見えた。チームメイトはもちろん指揮官も認める“代えの利かない存在”のキャプテンがいれば、仲間に声をかけて落ち着かせ、チームの崩壊を防げたのではないか。少なくとも、ここまで選手たちが“フリーズ”してしまう事態は防げたはずだ。本田圭佑、長友佑都、吉田麻也、川島永嗣、岡崎慎司なども経験豊富だが、約7年に渡って腕章を巻いてきた長谷部のリーダーシップと気配りは中でも図抜けている。
 
 こうして10月シリーズの2試合で日本代表にとって長谷部の価値が改めて浮き彫りになったが、問題はその最重要人物の怪我が増えていることだ。
 
 今年3月にブンデスリーガで右膝を負傷して3月と6月の代表戦を回避し、夏の最終予選ラスト2試合も本大会行きを決めたオーストラリア戦こそフル出場したが、同試合で左膝を痛めてサウジアラビア戦は欠場した。
 
 その後は所属するフランクフルトで復帰していたが、この10月シリーズの前には膝の痛みが再発。ハリルホジッチ監督は「怪我の問題があったので考慮しました。試合後、いつも心配を抱えていたので早く治してもらいたい」と招集を見送った。来年1月には34歳を迎えるだけに、怪我に対する耐性が落ち、回復も遅くなってきている。
 
 戦術的にはとりわけアンカーシステムでは実質的に代役不在で、精神的にも誰よりも欠かせない存在――。そんな長谷部のコンディションは、日本代表にとってロシア・ワールドカップに向けた最大の懸念材料と言っていい。
 
取材・文:白鳥大知(サッカーダイジェストWEB)
 
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