先日行われた、代表メンバー発表記者会見で、ハリルホジッチは前回外れた倉田秋を再び招集した理由についてこう答えた。

「ここ2週間ほどで、コンディションが上がってきている」

 コンディションが上がってきている。良くなっている。この手の問いかけに、ハリルホジッチはかなりの確率でそう答える。すると現場はなんとなく納得したムードに包まれる。だが、はたしてそれが第一の理由だろうか。

 ハリルホジッチは、「候補として追跡していた柴崎岳、大島僚太、斎藤学が怪我をしてしまって残念」と述べたが、この3人が怪我なく無事でいたら、どうだったのか。倉田は招集されていただろうか。

 記者会見が行われたのは9月28日。試合が行われるのは10月6日(ニュージーランド戦)と10日(ハイチ戦)だ。そもそも、ここわずか2週間の情報で8日後、12日後の試合に向けた判断をするのは拙速ではないか。

 W杯本番に臨むメンバー発表なら理解できる。コンディションは絶対的な条件になる。本番まで9ヶ月あるいまは違う。直近のコンディションより重要な視点がある。9ヶ月後から逆算する視点だ。いまは、大袈裟に言えば、どうでもいい問題なのだ。9ヶ月後の姿に可能性を感じる選手は、多少試合に出ていなくても選んでおくべきだと思う。

 ヘルタ・ベルリン所属の原口元気は、先週末リーグ戦(対バイエルン戦)で、今季初スタメンを飾り、活躍した。だが、メンバー発表の時点では今季、6試合を消化した段階で、計54分間しか出場していない。出場機会に恵まれず、コンディションを確認する機会が少なかったにもかかわらず、代表に選出された。ハリルホジッチはこう述べた。

「試合には出ていないが、彼は代表では必ず良いパフォーマンスを見せている。彼を呼んで励ます話をしたい」

 一転して、コンディション重視を覆したわけだ。しかし、今回招集を見送ったパチューカ所属の本田圭佑には、その理由をコンディションを前面に出してこう述べた。

「彼は怪我をしていた。彼にはコンディションをしっかり取り戻してもらいたい。コンディションを取り戻したら、入れるかどうかを考える」

 だが、本田は原口より多い195分間に出場し、得点も2点奪っている。原口には優しい言葉を掛ける一方で、本田に対しては厳しめの言葉を吐いている。「コンディションを取り戻したら、入れるかどうか考える」は、「コンディションを取り戻しても入れないかもしれない」と、同義語だ。いったいどっちなのか。

 所属クラブで試合に出ている人を優先的に選ぶ。これは、ハリルホジッチが就任以来、一貫して言い続けている台詞だが、かつてミランで出場機会をほとんど失った状態にあるにもかかわらず、ハリルホジッチは本田を招集し続けた。代表で優れたパフォーマンスを発揮できなくなっても、だ。

 招集するかしないか。評価基準を、所属クラブでの出場時間と深い関係にあるコンディションのみで当落の決定を説明しようとする姿勢に、無理を感じずにはいられない。整合性がとれない瞬間に、多々出くわす。 

 ハリルホジッチは最後にこう締めくくった。

「それぞれのクラブで試合に出なければ、ロシアでのプレーは確約できない」

 いちいち理由を説明していると面倒くさい。コンディションで語った方が手っ取り早い。そう考えるのが自然だが、それでは議論は深まらない。本田が代表に必要な選手でなくなった理由、心変わりした理由はなんなのか。

 毎度大々的に行われるメンバー発表だが、選考理由が、サッカー的な見地から語られることがまずない。話を聞いていてなるほどと思わせる瞬間が少ない。そこにこの監督の弱さが見て取れる。堂々としいるようで、実はオブラードに包んだ説得力の低い物言いをする。