日本の「新幹線」と、ドイツの「ICE」。同じ高速鉄道ですが、指定席の扱いや運行体系、サービスなど、さまざまな違いがあります。食堂車でドイツの伝統的な料理を楽しむこともできました。

新幹線と大きく異なる「自由席」「指定席」の考え方

 日本の高速鉄道といえばおなじみ「新幹線」ですが、ドイツでは「ICE(インターシティ・エクスプレス)」という高速鉄道が運行されています。ドイツを中心にオーストリア、スイスなどへも通じているICEは、乗客の視点では新幹線とどのような違いがあるのでしょうか。


ベルリン中央駅に到着したICE(2017年3月28日、塚本直樹撮影)。

 今回、筆者(塚本直樹:IT・ドローン・宇宙ジャーナリスト)はドイツ北東部のベルリンから南部のミュンヘンまでICEに乗車。ドイツ中部の都市のライプツィヒやニュルンベルクを経由する、約500km、乗り換え無しで6時間47分の行程です。購入したチケットは、交換や払い戻しに制約や手数料がある「Sparpreis(シュパープライス)」の1等席で、価格は163.9ユーロ(約2万円)でした。


乗車したのはベルリン発11時30分のICE 1609。

そこに乗る人がどこからどこまで行くか、座席の窓上に表示される。

ICEのコンパートメント席。

 新幹線には自由席車両と指定席車両がありますが、ICEは違います。座席の窓上にディスプレイが埋め込まれており、その座席が予約されている場合は、利用者がどこからどこまで乗車するか、そこに表示されます。特に何も表示されていない場合は、自由に座ることが可能です。1等車の座席は比較的空いているので、チケットを購入したうえで空いている(ディスプレイに表示がない)好きな席に座っている人もいます。

 ICEは、コンパートメント席(個室)があるのも特徴でしょう。中央に折りたたみ式のテーブルが備え付けられており、家族や友人同士の旅行で利用するのがよさそうです。

 また、座席の向きは変えられないのも、新幹線と大きく異なる点でしょう。

食堂車が現役! ドイツ伝統の料理、そしてビールも

 かつて新幹線に連結され、旅行者に愛されていた食堂車。新幹線では2000(平成12)年に廃止されましたが(ビュフェは2003年に廃止)、ICEではいまでも営業が続けられています。


ICE食堂車のレストランエリア(2017年3月28日、塚本直樹撮影)。

 ICEの食堂車は飲み物などが購入できるカフェエリア(Bordbistro)と、座って食事ができるレストランエリア(Bordrestaurant)という構成。座席は広々としていて開放感があり、2等座席のチケットで食堂車に入り浸る人もよく見かけます。


ICE食堂車のレストランエリア。

車窓にはドイツの森林地帯が広がる。

若干、ヘビーなメニューだった。

 食堂車のメニューは主食にサラダ類、時期限定コラボメニュー、アルコール類を含む飲み物やスナックとさまざま。もちろん、ドイツならではのさまざまなビールも味わえます。筆者はドイツの伝統的な料理「牛肉と豚肉のグヤーシュ(煮込み)、シュペッツレ(短い卵麺)を添えて(Gulasch vom Rind und Schwein mit Spatzle)」をチョイス。なんともドイツらしい、大らかな味でした。

かんたんに在来線へ直通できるICE

 ICEは、在来線も走行可能です。イメージ的には、上越新幹線が埼京線経由で新宿駅や池袋駅に直通できる、といった感じでしょうか。日本の新幹線は在来線と2本のレールの間隔(軌間)などが異なるため直通運転が難しく、「新在直通」を行っている山形新幹線と秋田新幹線は、軌間を新幹線と同じにするといった大規模な工事を行い、実現しています。


直通運転が可能で、高速鉄道のICEと在来線の列車(左)が隣同士に並ぶドイツ(2017年3月28日、塚本直樹撮影)

 このように、同じ高速鉄道でも日本の新幹線とさまざまな違いがあるドイツのICE。現在、ヨーロッパではLCC(格安航空会社)が広く受け入れられており、列車は近距離用、あるいは趣味的な移動手段として捉えられることもあります。しかし、移り変わる車窓からの風景を座席や食堂車から眺めながらの移動は、なんとも趣深いものです。

 ドイツ旅行の際は、安価で移動時間の短いLCCも良いですが、風情豊かなICEでの旅を選んでみるのもいいかもしれませんね。

【写真】運転席が客室から丸見えのドイツICE 3


ICE 3というタイプの車両では、ガラス越しに運転席と前面展望も楽しめる(2016年4月、恵 知仁撮影)。