写真提供:マイナビニュース

写真拡大

2007年にパ・リーグ6球団の共同出資で設立されたパシフィックリーグマーケティング株式会社(以下、PLM社)は、6球団共同でのイベント実施、スポンサーの獲得など、パ・リーグのマーケティング全般に関わる事業をしている。

2017年3月4〜5日に大阪で開催されたパ・リーグ+ハッカソンのイベント、「パッカソン」の模様はレポートとして掲載したが、このイベント中にPLM社 マーケティング室 室長の荒井勇気氏に、パ・リーグとITの取り組みや「パ・リーグウォーク」アプリについて話を聞いた。

○パ・リーグ×ITは私たちと野球とを近づけるのか

―― PLM社はさまざまなITサービスを手がけています。たとえば、パ・リーグ6球団それぞれのWebサイトも、PLM社が企画・運営・管理しているのですね。

荒井はい。ですから、各球団のWebサイトはインターフェイスや構成が統一されていて、ファンの方々にとっても使いやすいと思います。各球団の公式サイトが統一されていることにより、チケットを買う際にも便利です。運営側にとっても、共通化できることは共通化することで、コスト削減のメリットがあります。

―― パッカソンの冒頭で荒井さんから、PLM社のミッションは「プロ野球(パ・リーグ)の新しいファンを増やすこと」とのお話がありました。「ファン」とはどのような人々を想定しているのでしょうか? 球場に足を運ぶ人々ですか?

荒井最終的なゴールは、球場に来て楽しんでもらい、各球団のファンになってもらうもらうことです。各球団がエリアマーケティングを重視してお客様を引き付ける努力をしていますが、では球団がない地域の方々にも興味を持ってもらうにはどうすればいいか。球団単体ではできないこと、6球団が関わっているからこそできることを、PLM社はやっています。

ファンにもさまざまな定義があり、ピラミッド型の構造になっています。まず「12球団の中で興味のある球団はありますか」と質問したときにパ・リーグ6球団のいずれかを挙げる人々が1,200万人。我々のコアサービスである「パ・リーグTV※」の有料会員は7万人です。裾野を広げ、1,200万人をもっと増やしたいですね。ITを活用することで、皆さんとパ・リーグとの接触頻度、接触回数を増やすことができます。リアルのイベントなどと比べて広くリーチできますから。これがファンを増やすために必要だと考えています。

―― 頻繁に接する、見かけるのが、ファンになることの最初の一歩ということですね。

荒井以前は公園などでキャッチボールや草野球ができましたが、今は多くの場所で禁止されています。全国ネットでのテレビの野球中継も減っています。子どもたちが野球に接する機会が減っているのです。少子化でもある中、このままでは野球ファンがどんどん減ってしまうという危機感が強くあります。10年後、20年後はどうなるのだろうかと。一方で、スマホなどのデバイスで動画を見たりするのは当たり前になっている世代でもありますので、そこにアプローチしない手はないと思っています。

―― パ・リーグ × ITの取り組みとして、特に若年層の時間の使い方や生活様式にアプローチしていきたいとのお話もありました。

荒井たとえばパ・リーグTVについて言うと、我々の調査では球場に足を運ぶファンの年代は35〜45歳が中心です。これに対しパ・リーグTVの視聴者は、20代から30代が中心です。テレビを見ない、またネットで動画を見ることに慣れている若い世代の生活様式にパ・リーグTVは合っていると考えられます。また、プロ野球には長年にわたる歴史がありますから、おじいちゃんとお孫さんが共通の話題として楽しめる稀有なコンテンツでもあります。PLM社はコンテンツホルダーとしてデジタルの利用を進めていきます。

○パ・リーグ × ITは私たちの健康に役に立つのか

―― 今回のパッカソンのテーマは、スマホアプリの「パ・リーグウォーク」でした。「プロ野球(パ・リーグ)の応援を通じてファンの皆さまを健康にする」というコンセプトで、2016年3月にAndroid版、4月にiOS版のアプリがリリースされたものですね。

荒井弊社執行役員が、ボストンレッドソックスの職員の方に紹介をしてもらい、ハーバード公衆衛生大学院のイチロー・カワチ教授が主宰するSHL(ソサエティアンドヘルスラボ)を知り、パ・リーグウォークのプロジェクトの推進、検証に協力していただくことになりました。そこから急ピッチでアプリをリリースしました。

球場へ行くと、普段の生活よりも歩数が多くなるんですよね。客席までへの移動とかフードを買いに行ったりとか。そのような、知らず知らずのうちにしている運動を応援と結びつけて楽しめます。球場に行かない日も、日常生活での歩数がチームの応援として加算されます。「運動しましょう」とこちらから強く働きかけるのではなく、普段の生活の中の運動が楽しくなる、あるいはちょっと多く歩いてみようという動機付けになるアプリです。

歩数を計測できるスマートフォンが普及し、ITとヘルスケアの相互作用が知られてきたタイミングでこのアプリを出したことには意義があると考えています。少なくとも5年間はこのアプリを通じた取り組みを続けていくつもりです。

―― 2016年の1年間、このアプリが稼働してデータが蓄積されたと思います。すでにパ・リーグのマーケティングに生かされているのでしょうか。

荒井もちろん、歩数、性別などの属性、位置情報などのデータは蓄積しています。しかしまだローデータの状態で、分析して生かすのはこれからです。

マーケティングに生かして来場者数の増加につなげる方法はもちろんいろいろあると思いますが、同時にファンの健康のために役立てていくことも重要と考えています。このような試みがファンの健康につながるのであれば、ほかの競技などにも波及してほしいですね。「パ・リーグがまた新しいこと、妙なことをやっている」という嬉しいコメントをもらうことが多いですが、ファンのヘルスケアへの取り組みはパ・リーグが最初だったという存在になれればと思っています。

とは言え、現時点での最大の問題はこのアプリの知名度がまだまだ低いということです。今回のパッカソンが、アプリの価値や認知度の向上につながることを期待しています。今回のパッカソンで出てきたアイデアを実装させる可能性も、もちろんあります。

○ファン発のアイデアを実現していきたい

さて、ここまでのインタビューはパッカソンの初日に行ったもので、この時点ではまだパッカソンの結果が出ていなかった。2日目のパッカソンの結果発表を受けて、あらためて荒井氏に話を聞いた。

荒井参加した皆さんに素晴らしい成果を出していただきました。この成果を今後のビジネスに活かしてこそのハッカソンなので、次は我々が頑張ってビジネスに応用していきます。実は第1回のパッカソンの成果も、水面下ではいろいろと動いています。ファン発の施策が実現するということをお見せして、今後につなげていきたいと思います。

(小山香織)