JR四国が、約30年ぶりに製造した完全新型の特急形ディーゼルカー2600系。そこにはJR四国の、「世界初」を実現したある革新的車両の名前が受け継がれていました。

「四国横断特急」

 JR四国の新しい特急形気動車(ディーゼルカー)2600系が2017年2月、高松運転所へ到着しました。同社がまったく新しい特急形ディーゼルカーを導入するのは、1989(平成元)年にデビューした2000系特急形ディーゼルカー以来、およそ30年ぶりになります。

JR四国2600系特急形ディーゼルカーのキャッチコピーは「TRANS SHIKOKU EXPRESS」。写真の乗降用ドアなどにその文字、マークが存在する(2017年2月、恵 知仁撮影)。

 このたび登場した2600系には、あるキャッチコピーが与えられています。「TRANS SHIKOKU EXPRESS」です。日本語でかんたんにいうと、「四国横断特急」といったところでしょうか。JR四国の担当者によると、そのキャッチコピーに添えられている「X」状のロゴマークは「四国」をイメージしたもので、斜めにするなどして「四国のどこでも駆け抜ける疾走感」を出したといいます。2600系はディーゼルカーであるため、線路の上に電気を供給する架線がない区間でも、走行が可能です。

JR四国2600系特急形ディーゼルカーの側面、連結部分にも「X」状のマークが描かれている(2017年2月、恵 知仁撮影)。

 ただ、2600系の「TRANS SHIKOKU EXPRESS」というキャッチコピーには、ある別の“思い”もあるといいます。

革新的なJR四国の特急形ディーゼルカー

 JR四国2600系特急形ディーゼルカーの「TRANS SHIKOKU EXPRESS」というキャッチコピー、そこにあるという別の“思い”は、現在から約30年前にさかのぼります。

 1987(昭和62)年の国鉄分割民営化からほどなくの1989(平成元)年、「JR四国」になって初の特急形ディーゼルカーがデビューします。先述した2000系です。

車体を傾けてカーブを通過するJR四国の2000系特急形ディーゼルカー。写真は「アンパンマン列車」仕様のもの(2013年4月、恵 知仁撮影)。

 この2000系は革新的な車両でした。山がちでカーブの多いJR四国の路線で所要時間の短縮を図るため、線路のカーブに合わせて、車体をカーブの内側へ傾斜させることで乗客へ働く遠心力を抑え、高速でカーブを通過しても乗り心地を維持できる「制御付き自然振り子装置」を、気動車として世界で初めて実用化。言い換えれば、カーブの通過速度をアップすることに成功したのです。

 のちに四国以外を走るディーゼルカーにも、「制御付き自然振り子装置」が搭載されるようになります。2000系は、「四国の鉄道」についてはもちろん、「日本の鉄道」をレベルアップさせた車両、ともいえるでしょう。

「四国横断実験」という車両

「気動車での制御付き自然振り子装置」という「世界初の技術」を実現するため、2000系はまず試作車が製造されました。1989(平成元)年、その試作車による営業運転が始まり、テストの結果、翌1990(平成2)年に2000系の量産がスタート。続々と登場する2000系が、JR四国の特急列車を“進化”させます。

 この2000系試作車には「Trans Shikoku Experimental」(四国横断実験)、略して「TSE」という愛称が与えられました。

「TSE」の愛称が前面左上に書かれているJR四国2000系特急形ディーゼルカーの試作車。2017年2月現在も営業運転に使用されている(2013年9月、恵 知仁撮影)。

 2000系試作車「TSE」の登場から30年近くを経てこのたび姿を現した、JR四国の完全新型ディーゼル特急車2600系のキャッチコピーは「TRANS SHIKOKU EXPRESS」。略すと「TSE」です。JR四国の担当者は、2000系試作車「TSE」を意識して与えたものと話します。

 2017年秋にデビュー予定の2600系は、老朽化した2000系の置き換えが導入の目的ですが、去りゆく2000系の功績は、2600系が未来へ引き継ぎます。

【写真】JR四国・新型特急車2600系の外観

正面にLEDで列車のマークを表示できる、JR四国の新しい特急形ディーゼルカー2600系(2017年2月、恵 知仁撮影)。