「流行りのカタカナ語」言い換え辞典

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アジャイル、バッファ、スケールする……ビジネスシーンで跋扈しているカタカナビジネス用語。無意識に使っているあなた、相手はちゃんと言葉を理解していますか? そして、尋ねられたとき、意味を説明できますか?

■カタカナ語との賢い付き合い方

コミットメント、ユーザー、エビデンス、アグリー……。ビジネスシーンに氾濫するカタカナ語。なんとなく意味のわかるものから、皆目見当のつかないものまで、さまざま。いったい、いつのまにみんなルー大柴みたいに話すようになってしまったのだろう。ついつい日本語で言えよ、という気持ちにもなる。『大人養成講座』以来、大人シリーズで長年、良識ある大人の立ち居振る舞いを考察してきたコラムニストの石原壮一郎さんに聞いてみた。

「知らなかった言葉を覚えて、ちょっと賢くなったような気がして、カタカナ語を使いたくなる気持ちはよくわかります。問題は自分が思っているほど、相手は賢いとは見てくれないということです」

はたしてそうか。では、賢く見えるか見えないかの練習問題。次のセリフをわかりやすく言い換えてみよう。

「水曜の合コンスキームだけどさ、ダイレクトに言って、俺らのキャパ超えメンツが来るわけよ。落ち目になったとはいえCAだぞ。プロ野球選手とか芸人とか医者と合コンしている、いわば合コンのプロ、プロフェッショナルよ。俺たちとの合コンを承諾したってのも、何かの間違いかもしんないからコンティンジェンシー・プランも練っておかないと、やけどするかもな。

で、こっちのメンツのアサインなんだけど、シナジーを考えると金本と荒井の関西人コンビ。あと、イケメン要員で高橋はマストだけど、あいつアサーティブすぎるところがあるから、オリエン必要だな。工藤はコンピテンシーレベルが高いから安心だろ。佐藤? だめだよ〜、スキルセットがまるでないよ。コンプライアンス的にアウトだよ。

ジャストアイデアだけど、KPIを設定して、マイルストーンで合コンの進捗状況をチェックするってのは、どう? いくら楽しくても、コンバージョンしなきゃ意味がないだろ。俺ら、いつもクロージングできないじゃん。

俺がみんなに声かけておくから、アジャイルな感じで対応頼むぜ。アグリー? じゃ、水曜日、オンスケで」

確かにあまり賢そうには見えない。石原さんは続ける。

「自分たちの周りでは普通に通用する言葉でも、違う環境の相手には伝わらない言葉はたくさんあります。知らないカタカナ語を聞かされたほうは〈こいつ、自信のないことを、盛って見せようとしているんじゃないか? それとも、こっちの力量を測ろうとしているのか? いや、俺を見下しているな〉という気分にさせてしまっていることを察知すべきです」

つい使いたくなったり、また、うっかり使ってしまうこともあるだろうが、肝心なのは相手にこちらの伝えたいことが伝わっているかいないか。状況に応じて伝わる言葉は変わる。一方通行のコミュニケーションになっていないか、センサーを働かせよう。

では、知らないカタカナ語を聞かされる立場としてはどう振る舞えばよいのだろう。多くの人は、知らないカタカナ語に出くわした場合、その言葉なに? と尋ねることをためらう。聞いたら常識のないバカだと思われるんじゃないかと思うからだ。

「内心はイラッとし、〈こいつ自分の話が伝わっているかどうかもわからないのか? なんという想像力のなさ、配慮のなさ、まったく無神経なやつめ〉という気になるはずです。それが人間です。知らないという恥ずかしい気持ち、ひがみは人を攻撃的にさせます。これは決していいことではありません」(コラムニスト 石原壮一郎さん)

では、どうすればよいのか。

「ここは素直に『その○○という言葉、よくわからないんですけれど、どういう意味ですか?』と聞いて、相手がどんな顔をするかで、これからの付き合いを考えればいいのではないでしょうか。『あっ、すいません。こういう意味です』と申し訳なさそうにわかりやすく言い換えるか、それとも舌打ちしないまでも嫌な顔をする対応か。カタカナ語で格好をつけたり、当たり前のことを大仰に表現するために使う人もいるでしょうが、ほとんどは、悪気はなく素直な人だと思いますよ」

わからないことを聞かないと、大事なビジネスの話が理解できないだけでなく、話している相手のことまでも嫌いになってしまう。そんなことで嫌いになるのは大きな機会損失でもある。

「ビジネスシーンでは、知らないカタカナ語に出合うのは避けて通れません。むしろそれが飛び出してきたときの、対処方法、応対が問われているのかもしれません」

最後に気になるカタカナ語の傾向について、石原さんはこう語る。

「これまでも、若者コトバ、女子高生コトバが流通するたびに、大人たちは、イラッとし『日本語で言え!』と文句を言っていましたが、いつのまにか浸透して残っている言葉も少なくありません。ただ、最近のカタカナ語のルーツはネットの用語やコンサル用語からのものが多く、ユーモアや余裕が感じられません。無理して使うと必死感が漂うので、注意が必要でしょうね」

■「流行りのカタカナ語」大全集

【ア〜オ】

▼アグリー
支持する、同意する、の意味。

▼アサーティブ
相手に不快な感じを与えずに自己主張できるコミュニケーションスキルのことだが、単に自己主張の意味で使われていることも。

▼アサイン
割り当てる、任命する、要員を確保するなどの意味。

▼アジェンダ
計画、課題のこと。かつてみんなの党の渡辺喜美氏が「アジェンダ(政策課題)で日本を変える」と口にしていた印象が強い。

▼アジャイル
俊敏な、すばやい、の意味。

▼アセット
一般的には流動資産や個人資産のことだが、ビジネス上の強み、の意味合いでも用いられる。

▼アライアンス
日本語に直訳すると同盟、連携だが、ビジネス用語では提携先の意味で用いられる。

▼インキュベーション
孵化が転じて創業支援。90年代半ば、ベンチャー企業が急速に増え、支援策が盛んになるとともに用いられるようになった。

▼インダストリー4.0
第四の産業革命。工業のデジタル化によって製造業のコストを大幅に削減するプロジェクト。

▼インバウンド
外から内に入ることから転じて、旅行業界では訪日外国人旅行者。

▼エスカレ(エスカ)
エスカレーションの略。コールセンターから生まれた言葉だが、一般的に上司に報告したり、指示を受けたり、代わって対応してもらうことの意味で使われている。

▼エビデンス
証拠。言った言わないのトラブルを防ぐために、契約書やメールなどで残しておく言質のこと。

▼オンスケ
オンスケジュールの略。予定どおり進行しているさま。

【カ〜コ】

▼キャズム
市場に新製品や新技術を浸透させていく際に見られる、移行を阻害する隔たり、障害のこと。

▼クロージング
見込み客に購入や契約を決断させること。

▼コアコンピタンス
競合他社を圧倒的に上まわる能力、または競合他社には真似できない核となる能力のこと。

▼コミット(メント)
責任を伴う約束、決意表明、の意味。約束した目標に対して責任を持つことを指す場合もある。

【サ〜ソ】

▼サマ(リー)
要約。長い文章や会議を要約した資料を指す場合もある。「サマる」という活用形も。

▼シナジー
相乗効果のこと。コラボ、ジョイントとペアで使うことが多い。

▼スキーム
枠組みのある計画。具体的には、企業の事業計画のことをビジネススキームと呼ぶ。

▼スキルセット
各職業や地位に就く際に必要とされる知識や能力。

▼スケールする
対象の規模に応じて増減する、拡大・縮小すること。

▼ステークホルダー
株主や債権者・取引先・顧客など、企業の利害関係者のこと。

▼セグメント
共通のニーズを持ち、購買行動が似た顧客層のこと。顧客層を割り出す調査。

【タ〜ト】

▼ディシジョン
重要事項に対する意思決定の意味。特に経営方針や経営戦略などを決断する際に使われることが多い。

▼デフォ(ルト)
本来は金融用語で債務不履行の意味だが、IT用語では初期設定値という意味を持ち、そこからスラング化し、現在は標準、フツーという意味で多用されている。

▼ドライブ
車を運転するが転じて、動かすの意味。よく耳にするのは「ドライブかけようぜ」(頑張ろうぜ)。

【ナ〜ノ】

▼ナレッジ
組織にとって有益な知識・事例など、付加価値のある情報のこと。

▼ノーティス
お知らせ、注意事項のこと。期限ギリギリで伝えるときに「ショート・ノーティスで恐縮ですが」と使うことが多い。

【ハ〜ホ】

▼バジェット
予算(案)や経費を意味する。かつては映画業界で使われていたが、一般化した。

▼バズ・マーケティング
口コミによるマーケティングを指すが、現代ではフェイスブックやツイッターなどのSNSが重要な役割を果たしている。影響力のある人物に商品をモニターしてもらい、フォロワーに広めるという手法。

▼バッファ
衝撃を和らげる緩衝のこと。物体に限らず時間、データ、人について、余裕を持たせることを指す。

▼パラ(レル)
並列、同時進行、の意味。

▼ハレーション
周囲に与える影響。特に悪い意味で使われる。軋轢。「先方とハレーションしないように……」。

▼ビジネスモデル
利益を生み出すためのビジネスの具体的な仕組み。

▼ビジネスリテラシー
狭義では経営理解能力。一般にビジネスの基本知識や業務知識の意味で使われ、現場でのアナログな経験や知識などを指す。

▼ピラミッド・プリンシプル
読み手に伝わりやすい文章を書くための原則。問題や課題をピラミッド構造で捉える思考法。

▼ファクトベース
事実に基づいていること。ロジカルシンキングの基本。

▼フィードバック
もともとは工学系用語。ビジネス用語としては、結果情報の伝達を意味する。また、人事考課の評価結果を、評価された本人に返す場合にも使われる。

▼フィジビリ
フィジビリティ・スタディの略。新規プロジェクトの可能性を評価するために行われる調査・研究。実験的にやってみること。FSとも呼ばれる。

▼フェーズ
変化、発展する物事の段階、局面のこと。類語にステップ、ステージ、グレードなど。

▼プライオリティ
優先順位。予算や時間などの分配を決める基準。

▼フラット
公平な、偏りのない。「組織のフラット化」の場合は、管理職を削減し、各構成員が高い自律性を持って活動するという意味。

▼ブルー・オーシャン
競争の激しい既存の市場をレッド・オーシャン(血で血を洗う赤い海)、競争のない未開拓市場をブルー・オーシャンという。

▼フルコミット
案件を専任で請け負うこと。とにかく全力で頑張ること。

▼フレームワーク
問題解決のための考え方の枠組み・構造。コンサルタントが好んで用いる。

▼ブレスト
ブレインストーミングの略。発想の誘発を期待して行われる、小グループでアイデアを出し合う軽い会議。相手の意見を否定しないのが原則。

▼ベスト・プラクティス
最も効果的、効率的な実践の方法。または過去最優良の事例。

▼ペルソナ
直訳すると仮面だが、マーケティング用語では、商品・サービスを提供する会社が想定する典型的なユーザー像という意味。

▼ベンダー
製品の供給業者。サプライヤー。IT業界ではハードウエアベンダーなどと呼ぶ。

▼ボール
先方とのやりとりの中での仕事上の質問。また、「ボールを持つ」で担当者を意味することも。

▼ボトルネック
瓶の首の形状から、生産活動において全体の円滑な進行・発展の妨げとなる要素のこと。障害。制約。

【マ〜モ】

▼マイルストーン
プロジェクトの進捗を管理するために途中に設ける節目のこと。必要に応じて計画を修正してプロジェクトを進める。

▼マター
多くは「氏名+マター」という形で使用し、誰が担当する仕事なのかを表す。

▼マネタイズ
ネットの無料サービスから収益をあげる方法。一般的には無収益事業を収益事業に変えること。

▼メイクセンス
もっともだと理解すること。理にかなっている。なるほどね。

【ヤ〜ヨ】

▼ヤング・アドバイザリー・ボード
将来のリーダー候補の若手社員による擬似役員会のこと。

▼ユーザー
利用者、消費者、の意味。

【ラ〜ロ】

▼リスクヘッジ
リスクを回避したり、軽減する工夫をすること。ヘッジだけでも同じ意味。

▼リスケ(ジュール)
スケジュールの変更。前倒しにする際よりも、日程を延期するときによく使われる。

▼リソース
ビジネスでは、経営の三要素であるヒト・モノ・カネを指す。広く、目的を達するために必要な要素の意味で使われることも。

▼リテラシー
読み書きできる能力の意味が拡大し、その分野の情報や表現を理解、活用、批判的に見抜く能力。

▼リバイズ
改訂、修正。誤字脱字や不都合な表現を修正するというよりも、文書を置き換えたり、新しく書き加えるニュアンス。

▼ローンチ
狭義では、Webサイトを公開することだが、新しい商品やサービスを世に送り出すことや、単に立ち上げ、公開、発進といった意味でも使われている。

【ワ〜ン】

▼ワークショップ
体験することで、グループの相互作用の中で学び合ったりつくり出したりする研修・企画。

▼ワーク・ライフ・バランス
仕事と私生活の両立。仕事で成果を出しながら、充実した私生活を送れるような働き方。

【A〜Z】

▼ASAP(アサップ)
As Soon As Possible。できるだけ早く、の意味。

▼KPI(ケイ ピー アイ)
重要業績評価指標。一般的に引き合い案件数・歩留まり率・解約件数などを指す。

▼MECE(ミッシー、ミーシー)
コンサル用語。簡単に言えば、モレなくダブリなく。

▼MTG
ミーティングの略。会議。

(遠藤 成=構成)