今シーズン、投手だけでなく打者としての活躍も著しかった大谷翔平だが、先日行なわれたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向けた強化試合「侍ジャパンチャレンジ」でもバットで圧倒的な存在感を見せつけた。

 WBCに出場するメキシコ、オランダとそれぞれ2試合ずつ戦った侍ジャパン。大谷は先発で2試合、代打で2試合出場し、通算11打数5安打(打率.455)、1本塁打と結果を残した。

 ただ今回の強化試合での大谷は、東京ドームの天井を直撃する二塁打や、数々の好走塁など、見る者に数字以上のインパクトを与えた。それは対戦した相手ベンチや選手も同様だった。

 今回、ロサンゼルス・ドジャースの4番打者、エイドリアン・ゴンザレスは、兄のエドガー・ゴンザレス(2010年、2012年に巨人でプレー)がメキシコ代表の監督を務めることで選手登録はされなかったが来日。通算308本塁打のメジャー屈指のスラッガーも大谷のことは周知で、ドジャースのスカウトから彼の映像を何度か見せられたという。

 3月のWBCでの対戦の可能性を見越してか、ゴンザレスは日本選手の打撃練習などをつぶさに観察する姿が見られた。当然、大谷のバッティングも注視していたわけだが、異彩を放つ日本の若きタレントのポテンシャルと技術には驚きを隠さなかった。

「パワーもあるし、スイングのバランスがいい。バットを振る際の手の軌道が素晴らしくて、外野にボールを運ぶ能力が高い。メジャーで成功するために必要なツールをすべて兼ね備えているんじゃないかな」

 一昨年まで2年間、楽天でプレーし、この強化試合ではオランダのコーチとしてチームに帯同していたアンドリュー・ジョーンズは大谷の頭のよさに注目していた。

「僕は、彼がルーキーだった年に見ているけど、そのときは投手としてすごいアーム(腕)をしているなと思った。だけど、今は打者としての成長も著しい。彼は自分の打てるゾーンにボールがくるまで、辛抱強く待っていられる印象がある」

 今回の強化試合でメキシコやオランダの選手や関係者をもっとも驚かせたのは、単純に速い球を投げ、遠くに飛ばすということだけではなく、ゴンザレスが言うようにすべてを兼ね備える"アスリート"だということだ。

 大谷はこの強化試合で盗塁を記録したり、味方の内野ゴロに判断よくスタートし、悠々とホームを陥(おとしい)れたり、そのスピードは両国ベンチの度肝を抜いた。

「優れたアスリートだと知っていたが、あれほどまでにスピードがあるとは......。実際に走る姿を見て驚いた」(ヘンリー・ミューレンス/オランダ監督)

 メキシコ代表で、サンフランシスコ・ジャイアンツのリリーフ投手でもあるセルジオ・ロモは、研究熱心で自らのピッチングについても映像を見て修正できる頭のよさを持つ選手だが、大谷についてはこのように分析していた。

「スカウティングレポートでは、(大谷は)積極的に振ってくると聞いていたけど、実際は非常にインテリジェントな印象を受けたよ。(対戦したときはフルカウントまでいったが)四球を引き出すため際どい球を投げさせようとしていたしね。最初にスライダーを投げたときは少し戸惑っていたように見えたけど、次に投げたときにはもう対応できていた。反対方向に打つこともできるし、打席でのバランスのよさが際立っているから、『これを投げれば打ち取れる』という球はないのかもしれない」

 また、ロモは大谷の人間性についても言及した。大谷は打席でしばしばホームプレート上の土を手で払うのだが、その仕草にロモは「人間として素晴らしい。野球という競技に尊敬の念を持って臨んでいる」と、絶賛していた。

「野球界にとって大谷は素晴らしい存在だ。野球というスポーツをよりいいものにしてくれるだろう」(ロモ)

 メジャー経験はないものの、かつてオランダ代表の監督を務め、今回はフィールドマネージャーを務めていたスティーブ・ヤンセンは、「大谷の体の使い方にほれぼれする」と話した。

「言うまでもなく彼は体が大きいが、自分自身の体を100パーセント使いこなせている。ピッチングでも、バッティングでもだ」

 ヤンセンは、大谷のアメリカでの成功に「疑いの余地がない」と言い、メジャー屈指の選手を引き合いに出し、こう言い放った。

「私は、大谷はマイク・トラウト(エンゼルス)やブライス・ハーパー(ナショナルズ)のような才能を持った選手だと思っている。彼らのような選手は、神から授かった生来の才能に恵まれているのさ」

 この強化試合では打者としてのみの出場だったが、大谷がメジャーに移籍したときに「二刀流」を継続するのかどうかについては、今まで以上に興味深いトピックになってきている。大谷がプロ入りした当初は、大半が「いずれは投手に絞るだろう」と考えていた。しかし今シーズン、打者としての才能を存分に見せつけたことで、メジャー関係者の口ぶりも「大谷を獲得する際は両方やらせることも考えないといけない」と、変わりつつある。

 最近掲載された『MLB.com』のバリー・ブルーム記者の取材に、某メジャー球団のGMは、大谷を投手だけでなく打者として起用する可能性について、「30球団すべてがそうしても構わないと考えているはず」と語っている。

 ただし、大谷の打者としての能力を認めながらも、メジャーに行くにあたっては「投手で勝負すべき」と考えている者もいる。そのひとり、前出のジョーンズは次のように語る。

「彼の腕、あれほどのモノを持った選手はめったにいない。投げるたびに100マイルをマークするんだから。もし(指名打者制のない)ナショナルリーグのチームに行けば貴重な代打としても活躍できるだろうけどね」

 強化試合で見せたように、打者としてこれだけの才能を見せられると来年3月に行なわれるWBC本大会ではどっちで起用するのか――日本にとっては嬉しい悲鳴であると思うのだが、侍ジャパンの小久保裕紀監督は「嬉しいとはまったく思わない。むしろ悩みしかない」と苦笑まじりに話していた。

 大谷を獲得したいと思っているメジャーの関係者も、似たような悩みを抱えているかもしれない。大谷がメジャーでも「二刀流でプレーしたい」という希望を持っていたらどう対処すべきか、と。それほど打者としての才能を世界に見せつけるには、十分な強化試合だった。

永塚和志●文 Nagatsuka Kazushi