映画『L♥DK』公式サイトより

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 2014年の「ユーキャン新語・流行語大賞」でトップ10入りを果たすなど、最近、若い女性の間で「壁ドン」がブームとなっている。

「壁ドン」とは、女性を壁にもたれるように立たせて、その前に立ちはだかった男性が、壁に手をドンとかけ、女性を追い詰めて密着する仕草を指す言葉だ。インターネット上では数年前から使われていた言葉だが、今年4月12日に公開された映画『L♥DK』でブームに火がついたと言われる。

 映画の原作は2009年2月から連載されている渡辺あゆ氏作の同名少女漫画である。単行本は14巻で累計400万部を突破するほどの人気ぶりだ。あらすじは、アパートでひとり暮らしをする奥手な女子高校生・西森葵が、イケメンだが女性には興味のない久我山柊聖と、あるハプニングがきっかけで同じ部屋で暮らすことになってしまい……といったラブストーリー。漫画の中では圧巻の「壁ドン」のシーンが出てくる。

「壁ドン」の女性からの支持率は18.5%

「自由を奪われたこのシチュエーションで男性から告白されたらたまらない!」ということで「壁ドン」に憧れを持つ女性が瞬く間に増加していった。ブーム到来に伴い「壁ドン」関連のイベントも多く開催されるようになり、たとえば10月には、東京の原宿で期間限定の「壁ドンカフェ」オープンした。

 では、「壁ドン」の経済効果はどれぐらいあるのだろうか。今回はいくつかの前提を置いたうえで「壁ドン」の経済効果を試算してみよう。まず、「壁ドン」はどれぐらいの女性に支持されているのかをデータによって確認しておこう。カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社は20〜30代の男女400名を対象に「恋愛に関するアンケート調査」(2014年10月)を実施した(調査期間は2014年9月12日〜9月16日)。

 それによると、「男性のどのような行動やシチュエーションに"胸キュン"しますか?」という女性に対する質問の回答で第1位となったのは「後ろからギュッとされる」(54.1%)だった。第2位は「危ない時にさっと手を引いてくれる」(49.8%)、3位は「頭をポンポンされる」(49.3%)となり、「壁ドン」の女性からの支持率18.5%にとどまった。ただ、個人的には、かなり特殊な仕草であるにもかかわらず18.5%の女性が支持するというのは高い数字であると思う。

 一方、総務省の「国勢調査報告」(2010年)によると、結婚適齢期である18歳から34歳までの独身女性は全国で744万8598人に上る。そこで、独身女性の18.5%が「壁ドン」をしてもらいたくて、試しに男性と1回デートをしてみると仮定してみよう。私の周囲でも「壁ドン」をしてもらいたくて、試しに彼氏や男友達とデートをしてみたという女性が結構いるので、この仮定はそれほど現実とかけ離れていないのではないか。744万8598人の18.5%だから、全国で137万7991人の女性がデートをする計算になる。

137万人の女性とデート費用をかけると255億円

 さらに、結婚情報誌『ゼクシィ』のインターネットアンケート調査(2012年10月22日〜10月31日にかけて実施)によると、1回のデートにかかる費用は1万8517円(内訳は男性1万1017円、女性7500円)なので、137万7991人×1万8517円=約255.2億円となり、1年間に約255.2億円もの経済効果が発生する。

 カップルがデートで利用した飲食店の売り上げが拡大して、その飲食店で働く従業員の給料が増えて、さらに消費が増えるといった二次的な経済波及効果を「産業連関表」を使って計算すると、最終的に「壁ドン」の流行は約316.4億円の経済効果を日本にもたらしたことになる。

 なお、この試算では年間1回の「壁ドン」お試しデートを想定しているが、壁ドンには中毒性があるようで、あるアンケートによると「壁ドン」経験女性の86.5%がまた「壁ドン」されたいと回答している(タイマーズの調査)。したがって、1年間に複数回「壁ドン」デートをしている女性を含めると、「壁ドン」の経済効果はさらに大きな数字になるだろう。

 最近は「壁ドン」の進化系として「股ドン」や「床ドン」なども流行するようになっている。「股ドン」とはどういう仕草のことだろうか。「壁ドン」同様、壁にもたれて立つ女性の前に、男性が立ちはだかるのは同じだが、男性はそこで手をドンと壁にかけるのではなく、足を女性の股の間に入れて、ドンと壁を蹴る。股の間に足を入れられるので、「壁ドン」に比べて恥ずかしい状態になるのが「股ドン」である。しかし、その恥ずかしさゆえに、より興奮するという女性も多い。一方、「床ドン」は寝そべっている女性に覆いかぶさったうえで腕をドンとつく動作を指す。

 新たに登場した「股ドン」や「床ドン」などの流行も含めれば「〜ドン」関連の経済効果は一段と大きなものとなるだろう。

著者プロフィール

エコノミスト

門倉貴史

1971年、神奈川県横須賀市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行系シンクタンク、生保系シンクタンク主任エコノミストを経て、BRICs経済研究所代表に。雑誌・テレビなどメディア出演多数。『ホンマでっか!?』(CX系)でレギュラー評論家として人気を博している。近著に『出世はヨイショが9割』(朝日新聞出版)

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