放送作家・藤井青銅さんに聞く「ゆるパイ」と「ラジオ」の話。(前編)

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 新刊JPニュースで2回にわたってインタビューを配信した『ゆるパイ図鑑』(扶桑社/刊)著者で、作家の藤井青銅さん。実は放送作家としても活躍中で、ラジオ好きならば知らない人はいないというほどの人物なのだ。
 現在は「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)に構成作家として番組制作に加わっているほか、ラジオ以外にも書籍『ゆるパイ図鑑』の執筆、47都道府県1県ずつテーマにした新作落語を作る「d47落語会」を展開するなど、活動はとにかく幅広い。

 そんな活動の原動力はどこにあるのか? 一体どんなことを考えているのか? もっとその頭の中を知りたい! というわけで、今回は特別企画として、藤井さんと熱狂的ラジオフリークの株式会社オトバンク社長・久保田裕也の対談が新刊JP上で実現! 「ゆるパイ」と「ラジオ」がクロスオーバーするトークが繰り広げられた。
(記事・構成:金井元貴/新刊JP編集部)

■「どうやって面白がってくれる仲間を増やすか」

――『ゆるパイ図鑑』は全国に散らばる約200のご当地パイを一堂に集めたユニークな一冊で、そのうちの94パイが写真付きで掲載されています。

久保田:藤井さんが「ゆるパイ」に興味を抱いた経緯が新刊JPニュースのインタビューに書かれていましたが、すごく面白かったです。最初に藤井さんが「変だな」と思って、インターネットなどを使って、そこからいろいろな方を巻き込んでいって。書籍化だけでなく、渋谷ヒカリエでの「ゆるパイ展」などのイベントまで膨らんでいくという過程がすごいと思います。
僕がラジオを聞き始めたきっかけが、実は藤井さんが携わっていた「上柳昌彦の花の係長 ヨッ!お疲れさん」(ニッポン放送)で、それ以降で藤井さんがご担当されているラジオ番組のほとんどを聞いています。もちろん今、放送中の「オードリーのオールナイトニッポン」も毎週欠かさず聴いているので、すごく緊張しているのですが(苦笑)よくラジオ番組の広がり方ってインターネット的だなと思うことがあるんですね。小さなところから始まって、そこにいろいろな人が協力することで、露出が増えていって。『ゆるパイ図鑑』もその流れができていますよね。

藤井:この本を作っているとき、「日本ゆるパイ愛好学会」という名前でFacebookページをつくって、打ち合わせやデザインを決めていく様子をリアルタイムで読者に見せていたんですが、これもラジオ的ですよね。ラジオは番組発でイベントをしたり、CDを作るときも、その途中経過をずっとリスナーと一緒に共有すると面白いんです。そうやって楽しんでもらえれば、イベントにきてくれるかもしれないし、CDを買ってくれるかもしれない。
僕にとって本作りは、潜在的に番組をやっているような感覚なのかもしれません。今回、『ゆるパイ図鑑』の編集を担当して下さったのが編集者兼漫画解説者の新保信長さんなのですが、新保さんに「こういうことをやりたい」と話してみたら、すぐに彼が「ゆるパイ愛好会」を作ってくれて、ツイッターなども含めて誰もがアクセスできるようにしたんです。
なんとなく「ゆるパイ」のページを見てもらって、知っていてもらう。これはすごくラジオ的だなと思いましたね。ラジオは国民の大多数が聞いていないわけで、聞いている人はマイノリティですから。もしラジオ発の動きが起きたとき、「俺は最初から知っていたぜ」っていう意識を持って、拡散側にまわってくれるんです。

久保田:確かにそういう意識ってすごくあります。自分もそうですから。

藤井:僕は物事を大きくすることが好きなんです。でも、渋谷ヒカリエの「全国ゆるパイ展」はすごかったですね。

――10日間で1万人以上が来場されたそうですね。

藤井:展示されているのは「パイ」だけですからね。だから、今回、展示されている「ゆるパイ」の県ごとに手書きの紹介文みたいなものを書いたんです。それも、デザイナーさんがゆるパイ展専用の原稿用紙を作ってくれて。僕の書く文字はいわゆる“作家文字”で、好かれやすいんですね。ワープロで打ってプリントされたものって読み飛ばされてしまいがちですけれど、手書きだと感情が伝わりますから、読んでしまう。だから、お客さんの滞留時間も長かったように思います。
それに、そこからまた新しい展開もあって、「ミニゆるパイ展」のようなフェアを東京の本屋の店頭でしようという話があがっています。また、名古屋の書店のスタッフの方からツイッターで「渋谷でやっていたゆるパイ展がすごく面白かったから、自分の書店でもこういうことができないか考えています」という話が届いたんです。ちょうど東京でもそういったフェアができないかという話があがっていたところなので、編集の新保さんと連絡をとってみてくださいと紹介をしました。さすがに渋谷ヒカリエの規模は無理ですけれど(笑)そういった形で「ゆるパイ」を面白いと思ってくれる人が増えていますね。

久保田:広がっていきますよね。でも、お菓子のパイだけでここまで広がるというのも驚きなのですが、そういったアイデアの着想のコツはあるんですか?

藤井:特別なことはしていませんね。20年前から「パイって変だな」と思っていただけだし、出版の企画が通ったからパイを買いましょう、だし…。

久保田:変だなと思うところから始まるんですね(笑)

藤井:「ゆるパイ」ってやっぱり変ですよ(笑)「さんまパイ」とか、「さんまをパイにしなくても」って思いませんか? でも、こうやって広がっていくのが面白い。本の内容が展覧会になったり、こうして記事になるということでさらに広がるかもしれませんし。

久保田:いろいろな形になって外に広がっていくのは、すごくラジオと似ていると思います。

藤井:ラジオはメディアとしては弱いから、ラジオという場所だけで勝負してちゃいけないと思うんです。どうやって面白がってくれる仲間を増やすかというところが大事で、面白がってくれれば、リスナーは自分から宣伝をしてくれるし、グッズを買ってくれたり、イベントにも参加をしてくれる。

久保田:ラジオは、最初はただ聞いているだけですけど、徐々にハガキを書きたくなって、投稿をし始めて、最終的には毎週合格発表を待つような気分になりますからね。ハガキが読まれると合格!という感じで(笑)

藤井:読まれれば身内意識が増しますし、ハガキ(メール)を書かない方でも、ずっと応援してくれるんですね。

後編はこちら!