「嫌われる勇気」が大事!? いま話題の「アドラー心理学」を読んでみた

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書店に足を運ぶと驚くのが、新刊の数。特に、ビジネス書や実用書は毎日のように新しいタイトルが並んでいます。

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そんな中で役立つのが、各書店で出している人気ランキングのコーナー。そのコーナーに並ぶ書籍を見れば、今どんなものが注目されているのか一目瞭然です。私もそんなランキングをしっかりチェックする方ですが、今年に入ってからずっと上位にある本が気になります。

その本のテーマは、「アドラー心理学」。それが1冊ではなく、複数冊ランクインしている書店もあり、中には「アドラー心理学」専用のコーナーまで設けている所もあります。最近では雑誌の特集などでも取り上げられるようになった、今まさに「アドラー心理学」ブーム真っ只中のようなのです。

アドラー心理学とは、オーストリア出身の精神科医であるアルフレッド・アドラーが創設した心理学で、20世紀初頭から存在していたようですが、日本ではこれまであまり知られていなかったそうです。では、なぜそんなアドラー心理学が今、日本でブームになっているのか?そのブームの秘密を探ろうと、実際に2冊の本を読んでみました。

まず、1冊目はアドラー心理学ブームの火付け役になったと言っても過言ではない『嫌われる勇気〜自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎、古賀史健著 ダイヤモンド社)です。この本は、「アドラー心理学の入門書」と呼ばれ話題を集めているようです。

この本の構成は、アドラー心理学を提唱する一人の哲人と、アドラー心理学を認められない一人の青年の会話で成り立っています。「アドラー心理学って、何だ?どうして、そんなにブームになっているのだ?」と疑いながら本を開くと、まるで青年の台詞がまるで自分の言葉のように感じられ、感情移入しながら物語を読み進めていく事ができます。そして、その本を読み始めてすぐに、ある言葉に感情は大きく揺さぶられます。

「トラウマは存在しない」

アドラーはトラウマを否定しているというのです。一般的な心理学のイメージでは、例えば心の中に大きな傷(トラウマ)があって、その傷の原因を見つけて取り除く事で解決に向かっていくという考え方なのかと思っていました。でも、そんなものは最初からないと哲人の言葉で語られていくのです。もちろん過去に心を痛めた事はあるだろうし、それが今の自分に影響しているという事実もあるかもしれません。しかし、それが自分の考えや行動の決定事項とはならないというのです。

この本を読んでいる私は、心理学に詳しくもないし、もちろんアドラー心理学に対しても詳しいわけではありません。そんな私が、この「トラウマは存在しない」という言葉を目にした時、日本には「トラウマ」を抱えて悩んでいるという人は、何人くらいいるのかと考えました。

実際に、現在の日本ではそのトラウマを心的外傷と考えて治療する人も少なくないと思います。それをアドラーは否定するのですから、何だか少し見離されたようで寂しく感じました。しかし、見離された気持ちになったという事は、自分にもどこか思い当たる要素があって、何かがうまくいかなかった事を過去の出来事のせいにしてきたのではないか、それを「トラウマ」と認識していなかったか?とこれまでの自分を改めて振り返りました。もしかして、自分は過去の出来事を使ってどこかで言い訳をしていなかったか?言い訳をしてしまっていた自分は、結局は周囲の人の視線や態度に振り回されて行動していなかったか?その時にふと、この本のタイトル「嫌われる勇気」が響いてきました。

今、日本人は自分の考えや気持ちを優先できずに、自分でも気付かないうちに周囲の人の視線・考え方・行動に振り回されてしまっているのではないでしょうか?そして何だかモヤモヤしているけど、その原因も、解決法もわからないまま何か答えを探しているのでは?ブログやSNSの普及と同時に、自らを表現する場が増えた昨今だからこそ、「嫌われる勇気」という言葉に日本人が惹かれているのかもしれません。

しかし、実際に少しアドラー心理学に興味を持ったけど、どう活用したらいいのかわからない。そんな人が増えてきたからこそ、今もう一冊のアドラー心理学の本が注目を集めているのかもしれません。「アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉」(小倉広著 ダイヤモンド社)です。

この本は、アドラーの100の言葉を取り上げ、その言葉一つひとつに現代で起こりうる身近な例や言葉を使って解説されているので、読みやすいのが特徴です。

著者は、アドラー心理学に出会うまで自信がなく迷う事が多かったそうですが、その経験があったからこそ、読者がもっとアドラー心理学を身近に感じられるようにまとめられている一冊だと思います。そして、この本の中では「勇気づけ」という言葉の印象が強く感じられます。この本の中にあるアドラーの言葉は、どこか見離されたようだと錯覚してしまうくらいの「衝撃」を受けるのではなく、厳しい言葉の中に「もっとシンプルで大丈夫」と背中を押されているような、まさしく「勇気づけ」を感じるのです。

「嫌われる勇気」がアドラー心理学の「入門書」と言われているのであれば、「アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉」は「実用書」だと言えると思います。数多く書店に並ぶ自己啓発書をたくさん読んではみたものの、それをどう実践したらいいのかわからずに、知識だけ得て行動できずに結果が出ないというのはよく聞く話ですが、実際に広まりつつあるアドラー心理学をどのように実践したらいいのかわからないと感じている人も多いのかもしれません。そして、アドラー心理学を知りたいと思っている人に加えて、そのように「実践編」を求める人がこの「アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉」を手にしているのかもしれません。

私は、アドラー心理学はもちろん、心理学そのものに詳しいわけではありません。何かを悩んでいて心理学を求めていたわけでもないので、この二冊を読んだ私の解釈が正しいのかはわかりません。ただ、この二冊の本は、少なくとも私と心理学の距離を縮めてくれた事だけはわかります。そして、日本の書店でこの本が注目されているというのは、きっと同じようにこの本を見て何かを感じ、心の中で小さな革命が起こっている人が多くいるのだと思います。

アドラー心理学は、悩んでいる人のための心理学ではなく、もう一歩を踏み出すための「勇気」が欲しい人のための心理学だと思います。