元イタリア代表・名DFが指摘する「本田圭佑の問題点」
かつてイタリア代表として、またインテルの名DFとして活躍したジュゼッペ・ベルゴミ氏が、ライバルクラブであるミランの10番を背負う本田圭佑のプレーを分析した。
―― まずは、イタリアへ来る前の本田をどう見ていたのでしょうか。どのような印象を抱いて、どのレベルにカテゴライズされる選手であると考えていたのでしょうか?
CSKAモスクワ在籍時のチャンピオンズリーグの試合で、解説者として初めて本田のプレーを観た私は、ネガティブな印象を抱いたわけではなかった。むしろ、"実にいい選手"である、というのが率直な感想だった。左足の精度は高い水準にある。
しかし、率直なところ、では果たして彼に最も適したポジションがどこかと問われれば、そこに明確な答えを見出せずにいた。確かにCSKAモスクワでは、いわゆるトレクアルティスタ(トップ下)を持ち場として一定レベルのプレーを見せていたし、とりわけラストパスのうまさには光るものがあった。
だが、それと同等のプレーをイタリアで見せることができるかどうかを考えると、現状がこうである以上、「イエス」と即答することは非常に難しい。
そのうえで、あらためて思い出されるのは2010年のチャンピオンズリーグ、インテルとCSKAモスクワの試合だ。その試合前、本田を賞賛する声は少なくなかった。私自身も興味を持って彼のプレーを見ていたが、結果は残念ながらほとんど失望と言う以外にないものだった。
もっとも、当時のインテルは「3冠」(リーグ、イタリア杯、チャンピオンズリーグで優勝)を達成したジョゼ・モウリーニョが率いていたチームだ。あのチームを相手に活躍するのはあまりにも難しすぎたと言うべきだろう......。
―― 今年1月にミラン入りしたときの本田の印象はどんなものでしたか?
今の段階では苦労を強いられているとしても、初戦(第19節=2014年1月12日)のサッスオーロ戦の出来は悪くなかった。むしろ、あれだけの混乱と過密スケジュールのなかでデビューしたにもかかわらず、彼は一定以上のプレーを我々に見せてくれた。「たられば」にはなるが、もしもあのシュートがポストを叩かずに入っていれば、その後の流れは大きく変わっていたに違いない。
そうは言っても、サッスオーロ戦後の本田がいい流れをつかみかけていたのも事実だ。相手がセリエBのスペツィアだったとはいえ、イタリア杯(コッパ・イタリア=1月15日)で本田は初ゴールを記録しているし、第21節(対カリアリ=1月26日)でも、前半はともかくとして、後半はすばらしい動きを見せていた。
しかし、その後失速してしまった――。もちろん、その要因は本田個人ではなく、ミランという組織そのものが極度の混乱に陥ったことにあるのだが、それでも本田個人に焦点を当ててみても、少なくない問題があったと言わなければならない。
これはミラン内部を知り得ない私の推測に過ぎないが、今の本田が改善すべきは、局面ごとに"どの位置"にいるべきなのかを把握できるようになることにある。もちろん、それはどのポジションでプレーしようとも常に問われることなのだが、今までに限って言えば、本田は自らのポジショニングを読み違えているように思う。結果としてチームメイトたちとの距離の取り方にもズレが生じてしまう。そしてそのズレは、往々にして攻撃の組み立ての流れを滞らせてしまうことになる。
とはいえ、そのような細かい部分を整えていくには、当然のことながら一定の時間を要するものだ。しかも、今季はミランという組織が極めて難しい状況に置かれていたのだから、その影響をモロに受けた選手たちに迷いが生じるのも致し方ない。あまりに多すぎるミラン内部の問題が、本田の力量を計る妨げになっている。したがって、彼の実力を評価するのは、やはり"来季を待つほかにない"と言うべきだ。
―― イタリアでのプレーを観た今、本田に最も適したポジションはどこだと思いますか?
確かなのは、本田に"ウイング"は適さないということだ。これは間違いない。あのポジションでプレーするために必要不可欠なスピードが彼にはない。また、左利きの彼を"右サイド"で起用するという考え方に私は賛同できない。
ラツィオ戦(第29節=3月23日)で、"右サイドの本田"が誤りであることを証明するシーンがあった。ラツィオのDFラドゥを抜いてタッチライン際へボールを運んだところまでは良かったが、"右サイド"でプレーしていた彼は、敵陣の深い位置からのクロスを"右足"であげる以外になかった。そのクロスは、厳しい言い方をすれば、セリエAではあり得ない劣悪なものだった。
クロスを入れるまでの時間も、相手DFとの間合いも十分あったにもかかわらず、さらに、ペナルティエリア内ではFWパッツィーニが的確に敵DFのマークを外しており、クロスを入れる標的が明確だったにもかかわらず、だ。これでは周囲の評価は厳しくならざるを得ない。
したがって、現時点の私の考えは、ミランが4−2−3−1で固定されている以上、また、「3」の中央にはカカがいる以上、"理"に逆らうことなく左利きの本田を左のエリアで起用してみてはどうかというものだ。
選手の利き足とは逆のエリアで起用することが昨今の流行であることは知っているが、現実には、本田が右サイドから中央に切り込んで左足でシュートを撃てる場面が1試合で何回あるか? 平均すれば1度か2度に過ぎない。
そうであれば、彼を左サイドで起用すべきではないか。もちろんそれが古い考え方であることは知っている。だが、ここで話しているのがメッシやロッベン、クリスティアーノ・ロナウドといったレベルの選手であるのならばともかく、そうではないのだから、より"自然な"起用法を考えるべきではないだろうか。
そもそも現在の本田は、シュートを枠内に飛ばすことさえできていない。そして「3」の中央での起用が無理ならば、やはり左サイドで試すべきだ。その質の高い利き足を活かすために。
―― では、仮に本田がその適正に即したポジションを見出すとして、彼はここイタリアで真価を発揮し、「ミランの10番」に相応しい選手となれるでしょうか?
今の時点では「分からない」としか言えない。いずれにしても、今の本田は周囲のサポートを必要としている。チーム全体が彼を支えなければならない。来季のミランがどのようなメンバーで構成されるかによるところが大きいとしても、サポートを十分な形で受けることができれば、本田はその期待にたがわぬ活躍をするだろう。
繰り返すが、本田の左足のクオリティは決して低くない。しかし、今の本田はその才能を"より自然な形で"発揮できる環境を必要としている。W杯ブラジル大会後、十分な休養を経て、"イタリア式トレーニング"の夏の合宿後に迎える来季を待ちたいと思う。
―― そのW杯ブラジル大会、一体"どのような本田"を我々は目にすることができるでしょうか。日本代表チームはミランとはあらゆる面で異なります。
日本代表における彼はまったくの別人と言っていい。それこそ昨年のコンフェデ杯の日本対イタリア戦(4−3でイタリアが勝利)で我々が目の当たりにしたように。
日本代表では、周囲が本田のために走るという"サポート"がある。加えて、これもまた重要な要素である"監督の信頼"がある。ザックが本田に寄せる信頼は厚い。したがって、本田自身の精神状態も、ミランでのそれとはまったく違ったものだろう。
そして、ポジティブな精神状態は直接的にプレーの質につながっていく。とすれば、今季我々が見た本田とはまったく異なる質のプレーを見せてくれるに違いない。その思いはきっとザックも同じはず。"実にいい選手"であるだけに、その才能がよりよい形で生かされることを願っているよ。
■プロフィール
ジュゼッペ・ベルゴミ
1963年イタリア・ミラノ生まれ。サイドバック、センターバックとして、インテル一筋でプレーし、多くのタイトルを獲得した名DF。イタリア代表でも活躍し、1982年のW杯スペイン大会の優勝メンバー。86年W杯メキシコ大会、90年W杯イタリア大会(3位)にも出場。その後98年W杯フランス大会で代表に復帰し、99年引退。現在は解説者として活躍。
クリスティアーノ・ルイウ●取材・文 text by Cristiano Ruiu
宮崎隆司●翻訳 translation by Miyazaki Takashi