イタリア代表としても実績を残した名DF、アレッサンドロ・コスタクルタが、ミランOBとして現在のミランの10番である本田圭佑をどのように見ているのか? 本音で語ってくれた。

―― なぜミランは本田に「10番」を与えたのでしょう。

 本田自身がそれを希望したと聞いているし、実際、本田という選手は自らの才能に絶対的なまでの自信を持っているという印象がある。きっと彼は自らの才能に揺るぎない自信を持っているからこそ10番を望んだのだろう。そして、そのこと自体は本田という選手が大きな責任を担うことに怯(ひる)まないという証なのだから、実にポジティブなことだと捉えていい。

 それでも、やはりミランの10番に値すると認められるには、今の彼が持ち得ていないクオリティを備えておく必要がある。

 そのうえで、「なぜミランが10番を与えたのか」という点に関して言えば、技術的な部分とは趣を異にする理由も少なからずあったのだと思う。それに関して僕は否定するつもりはないし、クラブの首脳は今のミランに必要と信じたからこそ本田を獲得したのだから、あとはその期待に選手の側が応えなければならない。

―― 期待に応えなければならない本田はしかし、本来のポジションではない右サイドで起用され続けている。これは本田にとって決して小さくはない問題と言えるはずですが。

 事の核心はポジションがどうとかいう次元にはないというのが僕の考えだ。問題はその選手が持っている"質"、すなわち実力であって、そこには単に技術的な面だけでなくメンタル、そしてフィジカルも当然のことながら含まれる。要するに、一選手としての総合力という根本的な部分こそが問われていている。

 たとえばボージャン・クルキッチというスペイン人選手が昨季のミランに所属していたが、あれだけ優れたテクニックを備えていながら、彼はイタリアで真価を発揮するには至らなかった。さらに言えば、クルキッチのテクニックは明らかに本田を上回っていた。ふたりを一概に比較はできないとしても、いわゆる総合力を正確に考えようとする上で、こうした実例は参考になるだろう。

 これから彼に求められるのは、できる限り彼自身が望む場所(ポジション)でプレーする機会を多く与えられることだろう。

 もっとも、彼が望むトレクアルティスタ(トップ下)でプレーするとしても、カカとの違いを僕らは目にすることになるだろう。

 本物の一流と呼ばれる選手は、ポジションが少しばかり変わろうとも実力を余すことなく発揮できるものだが、そうではない選手はやはり自らが最も望むポジションでプレーするよりほかはない。

―― では、ミランOBだからこそできる助言を彼に贈るとすれば?

 これは単にミランOBとしてだけではなくて、イタリアに来た外国人選手のすべてに共通することとして言わせてもらえれば、とにかく失敗を恐れるな、と。当たり前のことすぎて申し訳ないんだが(笑)。でも実際のところ冗談でもなんでもなく、そう本心から思う。

 たとえばティエリ・アンリ、彼のイタリアでの日々(99年にユベントスに所属/18試合に出場し3得点)を覚えているだろう? それこそ気の毒なくらいに惨憺たるものでしかなかったけど、彼はその苦い経験を経たからこそ、次に向かったプレミアリーグで文字通り超一流になった(2007年までアーセナルに所属し得点王を4回獲得)。もちろん、アンリのような例を僕は他にも無数に見てきた。だから本田にも同じように伝えたい。

 どれだけ激しいブーイングを浴びようとも、どれほど辛辣な批判に晒されようとも意に介すな、と。選手は失敗を重ねた分だけうまくなる。そして本田はその失敗という経験のすべてをムダにしないために必要な頭の良さを備えている。何もかもが違う国へ来てすぐに結果を出すのはもちろん簡単じゃないということも、彼は分かっていると思う。

―― 今の本田に最も重要なことが何であるかを教えることができるミランの選手とは?

 それこそが、ミランが低迷している原因でもある。現実に今のミランには模範となる選手があまりにも少ない。僕が現役だった当時は、常に10人を超える数の"超一流たち"がいて、ピッチの内外を問わず、彼らの立ち居振る舞いと毎日のトレーニングに取り組む姿勢、そして実際の試合における質の高いプレーをもって、新たに加入してきた選手たちに多くを教えていた。

 残念ながら今のミランには、そうした大物選手が少なくなってしまった。ただ、そうはいっても今のミランにいるその大物が、紛れもない超一流であるというのはやはり幸いだと言うべきなのだろう。その選手はもちろんカカだ。

 本田は、死に物狂いでカカから可能な限り多くのことを"盗む"必要がある。そして、仮に本田がカカの持つ資質の半分でも自分のモノにできれば周囲の景色は大きく変わるだろう。これまでのキャリアで培ったプライドというような類いのものが彼の中にあるとすれば、それは一刻も早く捨て去った方がいい。そうすれば、「10番」として周囲が認めるだけの存在に大きく彼は近づくことができるはずだ。

 と、厳しいことを言い続けてきたが、この僕の意見や考えが間違いであることを、本田は一日も早く証明してもらいたい。

 ひとりのミランを愛する者として、そのミランにキャリアのすべてを捧げたひとりのOBとして、来季以降の本田の活躍を楽しみに待ちたいと思う。

■プロフィール
アレッサンドロ・コスタクルタ
1966年イタリア生まれ。ミランのDFとして長年活躍し、イタリア代表では1994年のW杯アメリカ大会、1998年W杯フランス大会に出場。バレージ、マルディーニらと、当時世界最高の守備を形成し、ミランで多くのタイトルを獲得した。2007年に引退。

クリスティアーノ・ルイウ●取材・文 text by Cristiano Ruiu
宮崎隆司●翻訳 translation by Miyazaki Takashi