左横手の独特な投球フォームの鹿実2番手・日高 洸(3年)

「周りが見られるようになった」鹿屋中央・七島

 エースの粘投と主砲の一振りで鹿屋中央が3時間23分続いたシード鹿児島実との死闘を制した。 先制し、効果的に追加点を挙げ、鹿屋中央が中盤まで優位に試合を進めていた。エース七島 拓哉(3年)はストライク先行で自分のリズムで投げ、強打の鹿児島実打線を6回まで2安打と完ぺきに抑えていた。

 「リードしたことで気持ちが緩んでしまった」(七島)7回以降、鹿児島実の逆襲を浴びる。代打攻勢で、直球中心の単調な投球になった七島が連打を浴び、瞬く間に同点に追いつかれた。先手を取った打線も、鹿児島実の2番手・日高 洸(3年)を攻略できない。日高は左横手の独特な投球フォーム。左打者の多い鹿屋中央打線は、背中からボールが来て、外角低めの最も遠いところに決まる「対角線投法」を攻めあぐねた。

力投した鹿屋中央エース・七島 拓哉(3年)

 試合の流れは、終盤で追いついた鹿児島実に傾くかと思われたが、そこから七島が意地を見せる。山本信也監督は「周りを見て視野を広く持って投げられていた。不思議と点を取られる気がしなかった」という。昨秋の鹿児島大会4回戦では樟南を相手に、独り相撲で自滅した苦い経験があった。「樟南戦のときより落ち着いていた」と七島。終盤追いつかれた時は単調になっていたが、野手1人1人の顔をしっかり見て気持ちを落ち着かせる。「鹿児島実の打者はワンバウンドのスライダーを振らない。ストライクゾーンで勝負しようと思った」と冷静に相手打者の傾向を読んで投球を立て直した。

 引き分け再試合のムードも漂い出した延長14回、エースの力投に主砲・木原 智史(3年)が応える。日高の「対角投法」に最も苦しみ、前の打席ではチャンスで右打者の3番・吐合 駿一郎(3年)が敬遠され、4番で勝負されて打ち取られる屈辱も味わった。前の打席までは、外角低めの変化球を何とか打ち返すことに躍起になっていたが「甘いボールを思い切り振る」ことに切り替える。厳しいボールはカットして粘り、失投をひたすら待った。カウント2ボール2ストライクから内角高めのカーブ、唯一の失投を逃さず、ライトスタンドに叩き込んだ。

 「ありがとう!」。七島がベンチに戻ってきた木原に声を掛ける。この1点を絶対に守り切ろうと気合が入った。13回あたりはさすがの七島もスピードやキレがなくなっていたが、息を吹き返した14回は元に戻った。最後の打者を打ち取ると、何度も左腕を突き上げ、死闘を制した喜びをかみ締めていた。

(文=政 純一郎)