沖縄尚学vs日本文理

写真拡大 (全2枚)

優勝を決めてガッツポーズの山城大智(沖縄尚学)

歴史的なゲーム。沖縄尚学が8点差を大逆転し、初優勝!

 大逆転劇となった明治神宮大会決勝戦。沖縄尚学が初優勝を決めた一戦を初回から振り返っていきたい。 日本文理はオーダーを一部変更した。7番を打っていた星 兼太(1年)を1番に上げたのだ。星は球場に向かうバスで1番を告げられた。「1番として積極的に打っていこうと思いました」 1回表、打席に立った星が初球のカーブを弾き返し、ライトスタンドへ飛び込む本塁打で1点を先制。そのあとも2本のヒットが飛び出し、沖縄尚学・山城 大智(2年)の球に対し、しっかりと捕えている。3回表、鎌倉 航(2年)が直球を捕え、レフトスタンドへ飛び込む一発を放った。鎌倉にとっては公式戦初本塁打。 本塁打攻勢はこれだけで終わりではなかった。4回表には9番の飯塚 悟史が直球を捕え、ライトポールを巻いた。飯塚は今大会2本塁打目。ここで山城 大智が降板した。

 5回表から山城大はライトへ回り、ライトを守っていた140キロ右腕・久保 柊人が登板。だが日本文理打線は久保に対しても怯むことなく、振りに行く。いきなり4番池田 貴将(2年)が直球を捕えた。痛烈なセカンドライナーに終わったが、続く5番小林 将也(2年)が直球をライトフェンス直撃するの二塁打。6番鎌倉が上がりすぎのフライが二塁打となり、7番山口 尚輝(1年)がレフト線への二塁打で2点を追加。5対0とする。

 そして飯塚が低めの球を振り抜いた打球はライナー性の打球に。その伸びが尋常ではなく、バックスクリーンにある「TOSHIBA」の看板を直撃する超特大ホームランとなった。この本塁打に球場は騒然。飯塚は最速145キロを投げる右の本格派として注目されているが、今大会では、投手よりも打者としての将来性が光っている。軽く払ったように見えたが、ここまでバックスクリーン直撃の一打。金属バット抜きにしても、ここまで飛ばす能力は天性のモノがある。

 「飛ばす力には自信あります」と胸を張る飯塚。ファンは飯塚の投打にくぎ付けだった。飯塚は135キロ前後(最速142キロ)の直球、縦横のスライダーを組み立て、ここまで猛打を振るっていた沖縄尚学打線を無失点に抑える好投。投打で躍動していた。

今大会3本塁打を放った飯塚(日本文理)

 中盤、飯塚にさらに援護が続く。6回表、4番池田が外角直球を捕えると、レフトスタンドへの本塁打。2009年の夏準優勝したときの強力打線を思い出させる破壊力である。

 ここまで8対0。沖縄尚学にとっては不利な状況である。この時、沖縄尚学の比嘉公也監督は「2009年の日本文理対中京大中京の試合を再現しよう」諦めるな、最後まで諦めるなと言い続けてきた比嘉監督。選手たちは比嘉監督の言葉によって気持ちが軽くなったという。

 7回表からライトを守っていたエースの山城大が再びマウンドに登り、久保はライトへ戻る。山城大は7回表を無失点に抑えると、7回裏から反撃開始。沖縄尚学は一死一塁から代打・金城 太希(2年)ライト線への二塁打で一死二、三塁のチャンスを作ると、7番山城大が3ラン本塁打を放ち、8対3へ。少しずつ沖縄尚学の勢いが戻ってきた。

 さらに8回裏は2番久保がライト前ヒット。ライトがダイレクトで捕りにいったが後逸し、その間に一気に三塁まで陥れた。3番西平 大樹(2年)のセンター前タイムリーで1点を返し、8対4。打席には第1打席で併殺打に倒れてチャンスをつぶしている4番安里 健(2年)。

「このままでは自分のせいで負けたといわれるので、何としてでも打ちたかった」 と気合を入れて打席に入った安里は高めの直球を逃さず、放たれた打球が2ラン本塁打に。8対6の2点差となった。さらに一死から6番伊良部がレフト前ヒット。二死になって、8番山城大のレフト前ヒットで二死一、三塁とチャンスが広がる。そして9番砂川修(2年)の打球で投手・飯塚が打球処理を誤り、ついに1点差。 1番赤嶺 謙の四球で二死満塁となって、2番久保が3ボール2ストライクからスライダーをライトへ打ち返し、逆転の2点タイムリーとなって9対8。8点差から2イニングで一気に試合をひっくり返した。

 そして9回表、山城大の気合は、前半と比べて明らかに違った。コンスタントに130キロ後半〜140キロ前半をたたき出す。同じ140キロ台でも、ボールの勢いはもちろんだが、なんとしてでも抑える気迫が伝わってきた。それまで精神的に優位にあった日本文理だが完全に山城大の気合にのまれている様子だった。三者連続三振を奪う快投で、試合終了。沖縄尚学が優勝を決めた。

優勝旗を受け取り行進する沖縄尚学の選手たち

 「力は巨(東浜)がいた2008年のチームが上だと思いますが、巨のときはほとんどリードしていた試合が多かったので、ビハインドでも取り返せる粘りは2008年のチームよりも上回っていると思います」 準々決勝戦後の囲み取材で、このチームを東浜世代のチームと比較しての質問に、上記のような回答をした比嘉監督。今年のチームは沖縄県民特有の身体能力の高さ、比嘉監督の指導の下、細かな野球を学び、パワー、スピード、テクニックをうまく融合したバランスの良いチームだ。その中で徹底していることは全力疾走。全力疾走を行った結果、内野安打になる当たりが大きかった。その徹底ぶりがしっかりとしていた。8点差を取り返して勝ったという経験がより彼らに最後まで諦めずに全力プレーすることの大事さを実感したかもしれない。選抜へ向けて「気を引き締めていきたい」と語った比嘉監督。これからも選手全員が同じ方向に向かって練習、試合を重ね、2008年以来の優勝を目指せるようなチームになるか注目していきたい。

 敗れた日本文理。終盤に守りでバタバタして落ち着いたところが見られなかった。バッテリーに話を伺うと「8回裏にチームがバタついているのも感じましたし、なんとして止めようと思いましたが、相手がボール球をしっかりとみていました。自分もリードが単調になってしまい、飯塚に申し訳ないです」(捕手・鎌倉)「スライダーが見切られているのを感じました。これからは縦の変化球をもう一つ増やしたい」(投手・飯塚) チームとしても焦りが見えて、逆に沖縄尚学がボール球をしっかりと見送り、ストライクゾーンへしっかりと捕えていることを感じながら投球をしていた。

 飯塚に今後の抱負を質問した。どんな投手になりたいか?どんな野手になりたいか?

 「投手としてはお前なら任せられると信頼される投手になり、打者としては長打を打つ自信はもともとありました。このように全国の舞台で打つことができたので、選抜でも打者として目立っていきたいです」 大井監督も飯塚の期待はかなり大きく。投打に大きな注文を付けていた。「今日打たれたことが飯塚にとって良い勉強になった。速球は5キロアップ、そして縦の変化球。打者としては十分な働きを見せているから、気楽な気持ちで打てる9番ではなく、3番、4番、5番で今のような打撃ができれば、うちにとっては大きな力になる」 投打で大きな働きを期待を寄せていた。 敗れたとはいえ、日本文理も、チーム一試合5本塁打と自分たちの持ち味である強打を発揮した。日本文理の強打は選抜が有力な学校にとっては脅威になったはずだ。

 こうして第44回明治神宮野球大会決勝は、7本塁打が飛び交う乱戦、8点差逆転勝利と歴史的なゲームとして幕を閉じた。

(文=河嶋 宗一)