米の投資ファンドで、西武ホールディングス(HD)の筆頭株主でもあるサーベラス・グループが、西武HDに埼玉西武ライオンズ売却を提案したことが明らかになった。西武HDの後藤高志社長が26日の会見で明かした。

 サーベラスは12日付で西武HDの株式公開買い付け(TOB)を実施。持株比率を、現在の32.44%から36.44%に引き上げる方針だ。比率が1/3を上回れば、株主総会の特別決議で拒否権を行使できるなど、西武HDの経営への影響力はいっそう強まる。

 サーベラスは他にも、西武鉄道の不採算路線の廃止も提案しているが、後藤社長は「サーベラスは早期の再上場を希望していると理解していたが、最近は自社の利益を追求した不当な要求や上場に非協力的な態度をとっている」と、反撃。球団売却の提案についても、「(球団は)公共的な要素が非常に強い。ファンも非常に多い。より強化して今後も日本一を目指してやっていきたい」と力を込めた。

 12日付の更新「ライオンズ、消滅?」(http://blog.livedoor.jp/yuill/archives/51716621.html)で、ライオンズの売却を防ぐために、「ファンは球場に足を運び、球団が儲かる企業であることを、親会社に示すしかない」と書いた。
 26日の会見で、ライオンズは今年度、2年連続で黒字になることが明らかになったが、サーベラスの暴挙を防ぐためには、ファンはこれまで以上に球団の価値を上げていくしかない

 既知のとおり、ライオンズは1952〜1978年まで福岡県福岡市を本拠地としていた。1978年10月に、西武鉄道の当時親会社だった国土計画(2006年にプリンスホテルに吸収合併され解散)の堤義明社長が球団を買収。球団は翌年から、本拠地を現在の埼玉県所沢市に移した。

 球団売却、本拠地移転の発表直後から、地元福岡市は大いに揺れた。新聞紙面には「ファン無視! 街頭にやり場のない怒り」「オーナー絶対に許せぬ、人間性疑う」といった見出しが並び、進藤一馬当時福岡市長は「福岡市は、プロ野球優先の立場から今日まで、20数年間にわたりライオンズ球団に協力してきたのに、平和台球場の管理者である市当局に、まったく相談もなかった。まことに遺憾である」との声明を発表した。
 球団事務所には、ファンからの怒りの電話が殺到。職員の誰もが、ほとんど無言でそれに応えた。事務所の外では、大声で悪態をつく者もいた。市の中心部、天神あたりでは、移転反対のプラカードを持ったデモも出たそうだ。

 だが、当時当時球団社長兼代表だった坂井保之氏は反論している。ライオンズは1972年、西日本鉄道が球団運営から撤退。球団は福岡野球株式会社、チーム名は太平洋クラブライオンズに生まれ変わったが、平和台球場を所有していた市は、ここぞとばかりに使用料を、これまでの6倍に値上げした。
 1軍が遠征している際、2軍に球場を使わせることも認めなかった。「球場は市民のもの。プロに独占させるわけにはいかない」と球団の要求を突っぱね、「プロの野球会社なら、練習場のひとつぐらい自分で持つべきだ」と、けんもほろろに追い返した。

 坂井氏はファンにも反論している。チーム名が太平洋クラブライオンズ、クラウンライターライオンズと変わる中で、球団の台所事情が芳しくないことは、多くの市民が知っていた。そんな中で、ライオンズを広島東洋カープに倣い、市民球団にしてはどうかとの声がファンから挙がった。
 だが、声は挙がるものの、実にはならなかった。平和台球場を訪れるのは、毎試合100人程度の熱心なファンだけ。チームが低迷していたせいもあるが、スタンドは空席ばかりだった。
 そんな中で市民球団への移行を望む声が挙がり、球団売却・本拠地移転が決まってからは非難の声が球団に寄せられたが、坂井氏は「球団を愛する気持ちがあるのなら、どうして早くから応援してくれなかったんだ」と悲痛な声をあげた。

 もちろん、球団に非がなかったわけではない。どんな理由を並べても、福岡市からライオンズを奪ったことには変わりが無い。
 だが坂井氏は言う。「ファンは、『球団喪失』という事態を知って初めて、自分たちの身近に、まるで手をのばせばいつでもさわることのできるひと鉢の花のように、プロ野球が存在していたことの幸福さを知るのだ。そして、失って行くものへの哀悼と怒りの感情に身を焼かれることになる」。

 福岡でのライオンズの歴史は1978年をもって、終わった。その後1989年に福岡ダイエーホークス(現在の福岡ソフトバンクホークス)が本拠地を移したが、市民は11年間に渡り、プロ野球を失うことになった

 埼玉西武ライオンズは今、ファンの身近にある。シーズンが開幕すれば、西武ドームで試合を観戦できる。
 そんな当たり前のことが、もしかしたら当たり前ではなくなるかもしれないそうなってからでは遅いのだ。先人たちの無念を無駄にしてはいけない。