大阪市立小学校の民間校長になります 〜バッシング想定問答集〜

写真拡大

衆院選の裏でひっそりと「大阪市小中学校に民間校長が11名合格」というニュースが発表になっていた。民間から928名の応募があり、11名残った中に、じつは筆者の名前が入っている。

先日、教育委員会事務局から、「そろそろマスコミにプロフィール公開します」と連絡があったので、このネット社会、すぐに私の経歴と過去ログが見つかるだろうと予測。この場を借りて「生の言葉」で、想定されるネット論壇からのバッシングにお答えしておきたい。


「教職免許を持ってないのに校長?」


すみません、持ってません。大学には「京都で古典を勉強する」という文学少女丸出しの動機で進学し、教師になるという目標はありませんでした。

大学3回生になる時にバブル崩壊と共に実家家計が悪化、仕送りが止まったためにアルバイト三昧、ギリギリの成績で大学を卒業しています。そのアルバイトのうち、塾講師の仕事に出会って、そのままバイト先に就職しました。進学塾では国語を担当、25歳から3年間は校長を務めています。教職免許は持っていませんが、国語のカリキュラムや問題・教材作成、家庭学習・進路指導の経験は積んでいます。

マネジメントと教務の両方やってきましたので、免許がない分は経験と今後の勉強でカバーさせてください。

「橋下市長の手下だろ!」


まだお会いしたことありません……(※当記事公開時)。公募に応じてレポートを書き、教育委員会による面接を受けて選考されました。教育に関する考え方は報道で接していますが、すべて賛成でもすべて反対でもありません。市長の手下どころか、時には論争することもあり得ると思います(こう書くとクビになるかもしれませんが)。

いずれにしても、小学校は地域性が強く出るので、優先課題は現場に入ってから見極めるべきだと考えています。

「“民間の感覚”って効率主義だろ、どうせ」


教育が効率的なものであれば、どんなに楽だろう。

私のいた塾には、公教育についていけなくなった小中学生も混じっていました。生活習慣が乱れ、学校の授業がほとんどわからない、勉強にモチベーションを持てない子どもに、「わかった!」「やればできるんだ!」「楽しいから続けよう!」と達成感を与えて、意欲を継続させるのは恐ろしく根気のいる仕事です。

塾に来られる、または親が手間ひまかけられる子どもはまだいい。そうでない子どもたちは、公教育が最後のセーフティーネットです。肩書きに「教育ジャーナリスト」とありながら、ロクに教育関係の本が出せなかったのは、私のテーマが「経済格差を教育格差にしない」という、市場にあまりニーズのないものだったからです。

大阪がどんな土地柄か、進路講演の仕事で学力困難校をいくつも回って知っています。生活保護世帯の多い地域では「親の働く姿」を知らない生徒がいる。就職の話をしても響かない。「勉強なんかせんでええ」と親が言い、「若いころにヤンチャした」自慢話が子に伝授される。ある高校からは「共学にしたら妊娠して退学する生徒が増えたから、性教育の講演に来てくれ」と言われる。

貧困の連鎖を教育で止めるには、早い方がいい。一方で、塾講師としてトップレベルの子どもたちを見てきたからこそ、「世界の頭脳」を育てる意義も知っています。ただどこまでが学校のやるべきことなのかは、予算と人の問題もあります。

教育は、まったく効率的ではありません。
その手間のかかる教育に、先生たちの時間や能力をフルに使ってもらうための「バックヤードの効率化」には、積極的に取り組むつもりです。

「子どもたちを実験台やキャリアの踏み台にするな!」


私も再来年、小学生になる娘がいます。初めての子が小学校に入る親の不安や祈りを、私自身が感じています。実験でも派手な改革でも、理想の実現でもなく。その土地や子どもたちに合わせた「最適解」を現場の先生と作りに行くのが、私の仕事だと考えています。あと、キャリアアップや報酬のためであれば、自殺者も出るような民間校長より、今までのペースで会社を維持する方がずっと楽です……。

「0歳児と幼児持ち!?育児丸投げかよ!」


上の子は1歳から保育園、下の子は4ヵ月から待機児童で無認可の共同保育所に入っています。夫はパートで働いてはいますが、家事育児の多くを担っており、彼がいてこそ仕事が続けられています。世間的には役割が逆なのでしょうが、夫をメインの稼ぎ手にすると高齢ワーキングプアにしかなれない以上、子どもを守るために私が稼ぐしかありません。これは校長になろうがなるまいが、状況は一緒です。

夫を専業主夫にすることも不可能ではありませんが、私が死んだら幼子を抱えて生活保護まっしぐらになるので、介護職としてキャリアを積んでもらっています。

2人いて共働きで保育園分園なんかになると、役割もへったくれもなく、家事育児とりあえずやれることをお互いやるしか無いのが日常です。向こうが夜勤のこともありますし、一緒の時間は子ども優先です。(誰に向かって言い訳してんだ、私)

「0歳児なのに母親と離れてカワイソウ」と言われてしまうと、産みの親に9ヵ月で捨てられ、その後一度も会ってない私は困ってしまうのです。世間には、産みの母親以外に育てられたことで幸せになった子どもがたくさんいる事実を、知ってください。

最後に:小学校運営で最も大切なこと


報道において橋下市長の分が悪い中、何を言っても何をやっても、息をするだけでバッシングされる状況になるのは目に見えていたので、この文章を書きました。

最終面接で、「小学校運営で最も大切なことは何だと思いますか?」ときかれました。

子どもがいない頃の私なら「生きる力の育成」だのナンだの、カッコよさげな理念を答えたはずです。
今回、迷わず出た言葉は「子どもの安全」でした。

親の目からはあまりにも頼りない、ちいさなわが子が通う場所。

安心して通わせられる学校に、
信頼できる先生に出会える学校に、
「いい小学校だったな」と親子ともに思える学校に。

「現役の親だからこそ、見えるものがある」と信じて、現場に向かいます。


山口照美
広報代行会社(資)企画屋プレス代表。ライター。塾講師のキャリアを活かしたビジネスセミナーや教育講演も行う。妻が家計の9割を担い、夫が家事育児をメインで担う逆転夫婦。いずれ「よくある夫婦の形」になることを願っている。著書に『企画のネタ帳』『コピー力養成講座』など。長女4歳・長男0歳(2012年現在)